龍神様の婚約者、幽世のデパ地下で洋菓子店はじめました

卯月みか

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三章 婚約者

三話 湯あたり

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 次に美桜が目を覚ますと、布団の中にいた。

(……私、どうしたんだっけ?)

 意識を失う前――。
 そういえば、大浴場で気分が悪くなったのだった。

(あ……私、きっと、お風呂にのぼせたんだ……。あれっ? そうしたら、誰がここに私を運んできてくれたの?)

 不思議に思いながら身を起こすと、

「美桜様、目が覚めましたか」

 傍らに、雪女の早雪がいた。

「早雪さん」

 名前を呼ぶと、早雪が美桜の額に手を当てた。冷たい手のひらが気持ち良い。

「美桜様は湯あたりをしたのです」

 二人の会話が聞こえたのか、

「美桜! 目を覚ましたか!」

 隣の和室から飛んで来た者がいた。翡翠だ。

「翡翠」

「意識を失っていたんだぞ。大丈夫か? 気持ち悪くはないか?」

 めずらしくうろたえた様子で心配している翡翠に、美桜は、

「うん、大丈夫」

 と微笑みかけた。翡翠の表情がほっとしたものに変わる。

「意識が戻って良かったな。いやー、美桜が倒れた時は、俺も焦ったよ」

 明るい声が聞こえ、そちらに目を向けると、座卓の前に神楽が座っていた。笑顔で美桜に手を振っている。

「神楽さん。……あっ」

 美桜は、神楽と混浴をしていたことを思い出し、みるみるうちに真っ赤になった。翡翠が、

「美桜、顔が赤くなったぞ。まだ体に熱を持っているのじゃないか? 早雪、もう少し美桜を冷やしてやれ」

 と、早雪に指示をする。早雪は頷くと、手のひらを美桜の方に向けて冷気を出した。温度を低めに調整したのか、美桜はぶるりと体を震わせた。早雪に、

「ありがとう、早雪さん。もう大丈夫です」

 と、礼を言う。美桜が寒がっていることを察したのか、早雪はすぐに冷気を収めると、

「美桜様が回復されたようなので、私は退室致します」

 と言って、立ち上がった。早雪にもう一度「ありがとう」と声をかけると、にこりとした笑みが戻ってくる。早雪が桜の間を出て行った後、美桜は、未だ心配そうに見つめている翡翠の方を向いた。

「私は大丈夫だよ。翡翠。そんなに心配そうな顔をしないで」

「そうか? ――それにしても、神楽。美桜がこのような目に遭ったのはお前のせいだ。しかも、美桜と一緒に風呂に入り、あまつさえ、裸体を見ただと? 許せない。俺だってまだ見ていないのに……」

 翡翠が鋭いまなざしで神楽を睨む。神楽が肩をすくめ、

「倒れた美桜を運ぶためだったんだから、不可抗力さ」

 と言ったので、美桜の頬が再び赤くなった。

(きゃーっ! 神楽さんに、裸を見られたの?)

 心の中で悲鳴を上げる。

(恥ずかしい……)

 穴があったら入りたい気持ちでいると、翡翠が美桜の体を抱きしめた。

「すまない、美桜。神楽のド阿呆に美桜の体を触れさせたなんて、俺は俺が許せない。美桜は俺の婚約者だ。一番に美桜の肌に触れるべきは俺だったのに」

(ひ、翡翠……なんだかすごく大胆なことを言ってるよ……?)

 翡翠の言葉のせいで、一旦引いた体の熱がぶり返してしまう。

(そんなことを言われたら、またのぼせちゃうよ……)

 翡翠に身を預けていると、

「はいはいはい、離れて離れて、お二人さん」

 神楽が寝室にやって来て、美桜と翡翠の間に割り込んだ。

「何をする、神楽!」

「美桜は俺のもんだから。なんてったって、肌を重ねた仲だし?」 

「肌を重ね……っ」

 美桜が息をのむと、神楽は悪戯っぽい目をして笑った。すかさず、翡翠が神楽の頭をすぱーんと叩く。

「いってーな、翡翠。お前には芙蓉がいるんだから、いいじゃん。美桜を俺にくれ」

「ダメだ。美桜は俺のものだ」

 翡翠がはっきりと断ったので、美桜は嬉しくなった。

「なら、とっととお前の父親に、芙蓉と婚約解消したいって言って来いよ」

 神楽の挑発的な視線を受けとめ、翡翠が唇を引き結ぶ。

「説得できる自信がないわけ?」

「そのようなことはない」

 翡翠にキッと睨み付けられたが、神楽はどこ吹く風だ。 

「とりあえず、お前は、美桜の部屋から出て行くがいい」

「あー、はいはい。俺はお邪魔虫ってわけね」

 神楽はしぶしぶといった様子で腰を上げると、

「じゃあ、またな、美桜」

 ひらひらと手を振って、桜の間を出て行った。
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