龍神様の婚約者、幽世のデパ地下で洋菓子店はじめました

卯月みか

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後日談 ずっと見ていた

一話 穂高と芙蓉

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 穂高は、現世での買い物から戻ってきた美桜と翡翠を、バルコニーで出迎えた。龍の背から下りた美桜は、両手に、膨らんだビニール袋を提げている。すっとそれを取り上げた穂高に、美桜が、

「ありがとうございます。穂高さん」

 と、微笑みながら礼を言った。出会った当初、穂高に対し、おどおどとしていた美桜は、今ではまっすぐに視線を向け、自然な態度で接している。

「材料は厨房に運べば良いな? 美桜」

 翡翠が美桜に確認をすると、美桜は「うん」と頷いた。その言葉を聞き、穂高はそつなく、

「では、厨房に持って行きます」

 と答える。
 先に立ってバルコニーから城内へ入っていく二人は、寄り添い合っていて、仲睦まじい様子だ。その姿を見て、穂高は嬉しいと思う自分に戸惑っている。

(翡翠様の婚約者には、芙蓉様がふさわしいと思っていたが……)

 血筋も良く、美しい白龍の娘は、昔は泣き虫だったことを、穂高は知っている。

 城下で人さらいに連れ去られそうになっていた芙蓉を助けた時、芙蓉は、体の大きなあやかしとやり合い傷だらけになった穂高を見て、「大丈夫? お怪我、痛くない? 痛いの痛いの、飛んでけー!」と、心配してくれた。さらわれかけ、きっと怖かっただろうに。――あの時のことを、昨日のことのように思い出す。

 芙蓉は、翡翠と美桜が浅葱に認められるよう、母親の白蓮に働きかけたと聞いた。

(芙蓉様は、あの時と変わっておられない。心根の優しい女性だ)

 だからこそ、高貴な龍神である翡翠とお似合いだと思っていた。人間の自分には、手の届かない高嶺の花だと。
 考え込んでいた穂高は、バルコニーに取り残されたことに気がつき、

(いけない。厨房に荷物を運ぶのだった)

 と、足早に、城内へと戻った。

***

 芙蓉は、食堂で美桜がマカロンを完成させるのを待っていた。

(まかろんって、どんなお菓子なのかしら。お母様は、ほろほろとした繊細なお菓子だと言っていたけれど)

 美桜の作る洋菓子は、めずらしいものばかりで、甘いものが好きな芙蓉の心を掴んで離さない。

「できましたよ」

 美桜が厨房から、皿を手に、食堂へと出てきた。

「バニラマカロンです」

 茶会に出たという、白いマカロンは、まるで月のように丸い。

「お抹茶を点てたいところだったのですけど、人に出せるほど上手ではないので、緑茶を入れました」

 美桜がマカロンと一緒に、芙蓉の前に茶を置いた。

「可愛いお菓子ね! さっそくいただくわ」

 芙蓉は皿の上からマカロンを手に取ると、口に運び、半分囓った。すると、

(本当にほろっとしてる)

 白蓮の言うとおり、柔らかな食感だ。それでいて、中に入っているチョコレートガナッシュはなめらか。

「おいしい……!」

 満面の笑みを浮かべた芙蓉を見て、美桜が嬉しそうに笑う。

「良かった」

「お店で売らないの? もったいないわ」

「現世の材料がいるので……。でも、時々なら、限定として出してもいいかもしれません」

 考えながら答えた美桜に、

「そうしなさいな」

 と勧める。

「このお菓子、穂高にも食べさせてあげたい」

 想い人のことを考え、芙蓉がつぶやくと、美桜は、

「じゃあ、持って行ってあげてください。穂高さん、まだ食べたことがないから」

 と言って、微笑んだ。

「おいしいものって、好きな人にも食べてもらいたくなりますよね」

「美桜も、そうなの?」

「はい。いつも、翡翠と一緒においしいものを食べたいって思っています」

「穂高さんの分、用意しますね」と言って、厨房に入って行った美桜は、すぐに新しい皿にマカロンを載せて戻ってきた。

「芙蓉さん、どうぞ。穂高さん、蒼天堂の事務所にいると思います」

 美桜に教えられ、芙蓉は「ありがとう」と礼を言うと、皿を受け取って、食堂を出た。
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