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第一章
第14話 意外と過保護だったことを知る
しおりを挟む「雨宮、ちょうどいいところに。少し相談があるのですが…」
放課後、天文部の活動日である今日はいつものように部室へ行けばいの一番に武藤に話しかけられた。
「どうした、新兵器でも発明したか?」
「それについては現在試作中です。あ、いえそうではなくてですね、今後のためにも耳に入れておいてほしいことがあるんです」
カチャ、とメガネのブリッジを押し上げた武藤は真剣な顔つきでそう言った。
この男は工業科所属だが見た目だけは特進科にいそうだ。真面目な優等生感が半端ない。中身はけっこう過激で意外にもノリがいい楽しい男だが。
「最近、僕たちに対する不良の動きが、どうも活発になってきているように感じます」
「不良どもが?」
「はい。目に見える危害を加えられるわけではないんですけど、ちょっとした時に難癖をつけられることもありまして。何やら不穏と言いますか鬱陶しいと言いますか……はっきり言って『必殺☆返り討ちシリーズ』で撃退したくなりますね」
「ほう、それは面倒だな」
なぜか天文部は八代学園に生息している不良に定期的に絡まれる。
これまでに暴力を振るわれたことはないにしても不良に目をつけられているというだけで気分的にはあまりよろしくない。
向こうも一応は無抵抗な人間に手を上げることがいけないことだという猿でもわかる倫理観は持ち合わせているようだが、正直いつそのラインを超えてくるかわからない。というか部室に乗り込んでくるというグレーゾーンには踏み込まれている。
天文部としても早急に手を打ちたい問題だ。
ちなみに『必殺☆返り討ちシリーズ』とは武藤作の武器たちのことだ。
日々改良を重ねている殺人水鉄砲もこのシリーズのひとつである。
「雨宮は特進科なのでそういった動きには触れる機会は少ないと思いますが、不良の多くは工業科や普通科に在籍しているのでよくわかります。僕は手製防犯グッズも色々持っているのでまだ大丈夫ですが……」
「花染あたりが心配だな」
「はい」
ただでさえ荒事が苦手な天文部唯一の良心なのに、ひとりの時に不良に絡まれるなんてことは絶対に避けたい。
「ひとまず花染にもお前の防犯グッズを持たせてやれ。攻撃的すぎずあまり過激じゃないやつね」
「はい、承知しています」
「それから……そうだな、普通科には瀬野と沼崎もいたはずだから、それとなく目を配っておくよう言っておくか」
「僕たちの中で普通科にいるのはあいつらだけですからね。あとは登下校中の不安要素についてですが…」
「それなら私に任せてもらって構わないわ」
そこに入ってきた第三者の声。
都の隣の椅子を引いて優雅に腰掛けたのは天文部のサディスティック聖母こと夏目紗夜だ。
「二人して難しい顔をしているわね。私も話に混ぜてちょうだいな」
ふふ、と柔らかな笑みで小首を傾げた夏目。
天文部副部長のお出ましだ。
「花染のこと、任せていいの?」
「ええ、私は学園内でも普通科と近いし、棟の違う都は動きづらいでしょう? これまでも佑宇と一緒に帰ることが多かったもの。問題ないわ」
夏目が所属する国際科は花染がいる普通科と同じ校舎で物理的な距離も近い。
工業科も同じ校舎であるため武藤でもいいが、やはり同性の方が何かと動きやすいだろう。
そう考えれば夏目しか適任はいないように思える。
「なら花染のことは夏目に任せるわ。頼んだよ」
「ええ。それよりも心配なのは都の方よ。平部員より部長の方が狙われやすいんじゃないかしら…」
「それは僕も同意見です。雨宮はナチュラルに人を煽りますからね」
「しかもどうなるか見越した上で意図的にやるから厄介なのよ」
溜め息を吐く夏目と、うんうんと頷く武藤。
二人と同じようなことを橘にも言われたのを思い出す。
外敵たちの目に天文部がどのように映っているのか、その正確なところは知らない。
だが常に部員たちの前に立って対応してきた都と、それから度々武力を仄めかしてきた橘は間違いなくマークされているはずだ。
彼らも今はまだ天文部全体を敵として認識しているようだが、いつかはその矛先が個人に向かうことになるだろう。
「あーあ、ただ悠々自適に学園生活を送りたいだけなんだけどねぇ。どいつもこいつも血気盛んな野郎どもばっかで困るわね」
「……だったらせめてもう少し困った顔してくれません? めっちゃ笑ってますよ、雨宮」
「お前の目は節穴か。これが私のいつも通りだっつの」
「そんな顔してましたっけ?」
うだうだと話していれば、いつの間にかいつメンの橘や花染の姿があった。それから他二名の部員も集まっていた。
彼らは今年入部した新入生で、ただ純粋に天文部としての活動を求めて入ってきたのだ。天文部2年一同、なんだか名前詐欺のようなことになってしまい申し訳なく思ったことは記憶に新しい。
その結果、天文部設立メンバーの間では『”真の天文部”を外敵排除の作戦行動に巻き込むべからず』という不文律が存在することとなった。
ちなみに冒険部含め昨年度から天文部に絡んできていた外敵たちの間でも『無害無関係な”真の天文部”には手を出すべからず』などといった暗黙の了解もあるのだとか。
「──…ああ、でもやはり不良たちには気をつけてください。とくに久宝には。特進科にいれば関わることもないとは思いますが、彼は不良の中でも危険すぎますので」
「本校舎の屋上には行ってはだめよ。あそこは彼らの溜まり場だと言われているの。男ならまだしも女が行ったら食べられてしまうわ」
「久宝は喧嘩の腕だけでなく頭も回りますから、そこらの馬鹿な不良と一緒にしないでくださいね。もし万が一出くわすようなことがあっても絶対に煽ってはいけません。死んだふりやじっと目を見て後退するのもだめです。相手は狡猾な獣です。姿を見たら気配を消して物陰に隠れましょう」
「相手を刺激するのもNGよ。都なら言葉だけだったらその場をやり過ごすことも簡単でしょうけど、力に訴えられたらどうしようもないわ。ひとりの時は細心の注意を払って、危険を感じたらすぐに連絡すること」
「雨宮はいつも僕たちを守ってくれていますが、まずは自分の身を最優先に考えてください」
「本当に、気をつけるのよ」
部活終了後、武藤と夏目から改めて言い含められた。
身を案じてくれているのは嬉しいが、彼らは都をなんだと思っているのか。それと途中で熊でも相手にするかのような発言が混ざっていた気もしたがあえて言及はしない。
「雨宮」
最後の方は半分聞き流しながら相槌を打っていれば、橘に名前を呼ばれた。
「なに?」
「綿貫が帰りに音楽室に寄ってくれだと。今日が無理なら明日でもいいから来てくれって」
「なるほど、あくまでも自分で出向きはしないから来いと……いっぺんシメとくか」
「いいからさっさと行ってこい」
どうやら呼び出しがかかってしまったようだ。
いつもやっている部室の点検・戸締まり諸々は他の部員たちでやっておいてくれるそうなので、お言葉に甘えて帰り支度を済ませた都はそのまま部室をあとにした。
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