鳥籠の中の道化師

夏風邪

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第一章

第二十六夜 . 捧げ物Ⅱ

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 不敵な笑みを絶やさない唇と舌が胸の突起を弄ぶ。
 その間も後孔からはぐちぐちと卑猥な水音が聞こえ、俺は楼主の肩に置いた手を握りしめてただ快楽に耐える。


「なあ。朝霧よォ」

「……、…なに…」

「俺ァ別に怒っちゃいねェぜ。お前がカワイく客に媚びんのも、いろんな野郎に抱かれんのも、それはお前の仕事だ」

「…っ…そこで、喋べん…な…」

「バカ共は大金落とすわ、俺の懐は潤うわで。クク、イイコトしかねえな」


 尖った突起に当たる呼気が擽ったくて気持ち良くてつらい。
 制止の声だって完全に無視だ。


「けどなァ」


 あ、やばい。

 唐突にそう思ったのは、楼主の声が一段と低くなったから。


 下から覗き込まれる楼主の目に、仄暗い執着と怒気が混ざるのを見てしまった。

 とっさに引こうとした腰はいつの間にか回っていた腕に捕らえらる。ずるりと後孔から指が引き抜かれた。
 代わりに熱く滾った楼主の欲望が当てがわれる。


「気に喰わねえ野郎の痕をあからさまに残されっと、さすがに俺も見過ごせねェなァ」

「ま、待って……っ、ああああっ!!」


 グッと腰を掴まれたかと思うとそのまま一気に奥まで突き立てられた。
 悲鳴のような叫びが口から漏れ、脳天まで突き抜ける刺激に背中をしならせる。

 うまく呼吸ができず、はくはくと口を開ける俺を、楼主は心底愉しそうに見上げていた。
 いきなりの刺激を受け流せていない俺に構わず、容赦なく下から腰を打ち付けてくる。


「あ゛っ、あ、…っ、う、あ…」


 まだ十分に慣らされていなかった後孔は痛みと悲鳴をあげる。
 けれどもその中で、確かな快感も感じ取った。
 
 痛い、苦しい、気持ちいい。
 空っぽになった頭ではそれくらいのことしかわからなかった。


「なァ、コレ。いつ、誰に残されたモノだ?」

「…っ、…ぁ……んなの、わかってんだろっ……」

「さァな、俺にはさっぱりだ。だから教えてくれや」


 『黒吉原』を取り仕切る絶対的支配者が、客の出入りを、しかもトップランクの男娼の元にやってくる男を把握していないなんてあり得ない。
 『黒吉原』のすべての情報は、この男の元にリアルタイムで流れ込んでくるというのに。

 チッ、と舌を打つ。
 楼主の言動に腹が立つと感じるくらいには俺の頭も冷静になりつつあるようだ。
 

「……二日、前、…っ…嘉柴が、来て、それで…ッ…」

「抱かれた?」

「あたりまえ、だろっ…」

「気持ちよかったか?」

「…、…っ…」


 なんて答えるのが正解なんだ。
 穏便に済ませられる返しが見つからない。

 返答を促すように、ズチュッ、と強く奥を突かれた。


「あァ、…!」

「気持ちよかったかって?」

「…ぁ…、う゛……」

「なァ?」

「…、よか、った、…よかった、からっ…」

「ふーん」


 たまらずコクコクと頷く俺に、楼主の目が妖しく光ったような気がした。


「ンじゃ、俺も頑張んねえとなァ」

「…ッんあ!」


 ひときわ強く、奥へと腰を入れられる。
 舌舐めずりをするようにペロリと唇の端を舐める楼主が様になり過ぎている。

 極上の容姿を持つ憎くて大嫌いな楼主に今さら見惚れはしないが、こんな至近距離で見せつけられれば、さすがに飲み込まれそうになる。

 とっさに目を逸らした俺を咎めるように、ガリッと乳首に歯が立てられた。


「い゛っ…、…ッ!!」


 手加減という言葉は知っていてもそれを実行する気がない楼主は、たぶん今、わりと本気で噛み付いてきた。
 同時に腰も突き上げられ、身の内に溜め込んでいた快楽が弾けた。


「……く、ぅっ…!」

「……、ッ…」


 微かに聞こえた吐息に肌が粟立つ。俺の中にも熱いものが注ぎ込まれた。
 クソ楼主にしては早いな、と思うが、裏を返せば欲望を制御していない証拠。

 白濁を吐き出した俺のものに楼主は指を這わせる。
 恍惚としたその表情からはちらりとも熱が消えない。それどころか、俺のなかでズシリと重量が増した。


「オイ、容赦なんていらねェよなァ」

 
 クツクツと、悪魔は低く囁く。
 どうやら俺が想像していた以上に、楼主の腹の中は煮え滾っていたらしい。


「死ぬ気で付き合えよ?」


 意味を噛み砕くことを放棄した俺の頭は、今後しばらく体が使い物にならなくなることだけは余すとこなく理解した。

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