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最高のセックスの後ほど賢者タイムは辛いものである
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バスタオルを腰に巻いたまま、ベッドの端に座り込む。肌の火照りは、ようやく収まりかけていた。
少し離れた場所からシャワーの水音が聞こえている。
音の主はもちろん、黒川だ。
俺は乱れた髪を指でかき上げながら、鏡越しに自分を見た。
頬が少し赤い。唇も艶をもって赤い。
「……完全にやらかしたな」
思わずこぼれた独り言が、静かな室内にやけに響いた。手を出したのがよりにもよって同じ職場で同期のノンケ。その事実が頭痛を連れてくる。
そこへ、バスルームのドアが開く音。
「タクシー呼ぶ?」
肩越しに振り返ると、黒川がタオルを乱雑に頭にかぶせたまま、濡れた髪を指で掻き上げていた。それなのに、目はしっかり俺を捉えている。
「てか泊まる?」
言った本人は、雲のような軽く能天気だ。だけど俺は、後悔と賢者タイムで気が立っていた。
「……は?」
「だってどうせ帰ったら朝方だろ」
「俺は帰る」
「良いじゃん、泊まろうぜ。」
俺はゆっくりと立ち上がり、黒川と目を合わせた。こんな関係始めちゃいけないに決まってる。俺は精一杯の鋭い目付きで黒川を見上げた。
「俺は、お前とまたヤるつもりも、何か始めるつもりもないから。」
「はぁ?」
黒川が苦笑まじりに近づこうとするのを、俺は手で制した。
「もう終わった。今日のことは忘れて。」
「いや、それはおかしい」
「おかしくない」
「おかしいだろ。そもそも、誘ってきたのはそっちだろ」
「……」
「なのに終わりも、勝手に決めんのかよ?」
「……そうだよ」
目を合わせないまま、俺は少しだけ語気を強める。随分と勝手な事を口にしている自覚はある。けれど俺の中の善意的なものが黒川を遠ざけろ、とも言っている。
「たまたま勢いでこうなっただけ。……そういうことにしたいんだよ。」
「は?勢い?」
黒川が、あからさまにムッとした顔をして一歩近づく。
「お前さ、誘って、乗ってきたら“やっぱナシ”って。そんなの、都合良すぎだろ」
「いいじゃん、別に」
「よくねぇよ」
「酔った勢いで誘ったのは俺だけど、それに乗ったのはお前の意思だろ」
「は?」
「深入りしたくないんだよ。」
「ふざけんなよ」
黒川の声が低くなる。俺は目線を合わせない。最低だしずるいって分かっていたけど俺はそうするしかなかった。
「じゃあ、俺はなんなんだよ。お前の“一回で充分な遊び相手”にしかならなかったってこと?」
「そう……」
「……本当にそう思ってんの?」
「…………思ってるよ。」
一瞬の間。言った自分の声が、やけに軽く聞こえて、俺は歯を食いしばった。
「……お前さ」
黒川が、静かに言う。
「次は誰を誘うの?また社内?森田でも誘う?」
「関係ないだろ……」
「なんか」
「……」
「普通にショックだわ」
黒川の悲しそうな顔を見て見ぬふりをして、綺麗に掛けられたスーツを手に取る。
「忘れていいって言ってんだから、素直に忘れろよ。お互いその方が楽だろ。」
「俺は、こんなんで楽になれない。」
その言葉に、思わず俺は息を呑んだ。黒川の視線がまっすぐすぎて、まともに見返せなかった。
「……知らねーよ、そんなの」
「待って」
「変な事に付き合わせたことは、謝る。ごめん」
「……」
急いでスーツのシャツを乱雑に羽織る。まだ髪は濡れているけれど、そんな事はもうどうでもいい。
「待てって、渡瀬…」
「触んな」
黒川が伸ばした手を、俺は振り払った。焦りなのか、羞恥なのか、自分でも分からない感情が喉元までせり上がっていたせいだ。
それだけ吐き捨てて、ドアを開ける。黒川の足音は追ってこなかった。
廊下に出て、扉が閉まった瞬間。背中にずっと焼きついていた黒川の視線が、ふっと離れていく。
俺の方が楽になんてなりたくなかったくせに、突き放してしまった。楽になるより多少苦しくても、黒川との二度目が欲しかったのに。
認めたくない本音が、喉元で苦しく膨らんだ。
「バカすぎるな……俺」
自嘲ぎみに呟いて、俺は夜明け前の薄明るい外気に身を晒した。
少し離れた場所からシャワーの水音が聞こえている。
音の主はもちろん、黒川だ。
俺は乱れた髪を指でかき上げながら、鏡越しに自分を見た。
頬が少し赤い。唇も艶をもって赤い。
「……完全にやらかしたな」
思わずこぼれた独り言が、静かな室内にやけに響いた。手を出したのがよりにもよって同じ職場で同期のノンケ。その事実が頭痛を連れてくる。
そこへ、バスルームのドアが開く音。
「タクシー呼ぶ?」
肩越しに振り返ると、黒川がタオルを乱雑に頭にかぶせたまま、濡れた髪を指で掻き上げていた。それなのに、目はしっかり俺を捉えている。
「てか泊まる?」
言った本人は、雲のような軽く能天気だ。だけど俺は、後悔と賢者タイムで気が立っていた。
「……は?」
「だってどうせ帰ったら朝方だろ」
「俺は帰る」
「良いじゃん、泊まろうぜ。」
俺はゆっくりと立ち上がり、黒川と目を合わせた。こんな関係始めちゃいけないに決まってる。俺は精一杯の鋭い目付きで黒川を見上げた。
「俺は、お前とまたヤるつもりも、何か始めるつもりもないから。」
「はぁ?」
黒川が苦笑まじりに近づこうとするのを、俺は手で制した。
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「いや、それはおかしい」
「おかしくない」
「おかしいだろ。そもそも、誘ってきたのはそっちだろ」
「……」
「なのに終わりも、勝手に決めんのかよ?」
「……そうだよ」
目を合わせないまま、俺は少しだけ語気を強める。随分と勝手な事を口にしている自覚はある。けれど俺の中の善意的なものが黒川を遠ざけろ、とも言っている。
「たまたま勢いでこうなっただけ。……そういうことにしたいんだよ。」
「は?勢い?」
黒川が、あからさまにムッとした顔をして一歩近づく。
「お前さ、誘って、乗ってきたら“やっぱナシ”って。そんなの、都合良すぎだろ」
「いいじゃん、別に」
「よくねぇよ」
「酔った勢いで誘ったのは俺だけど、それに乗ったのはお前の意思だろ」
「は?」
「深入りしたくないんだよ。」
「ふざけんなよ」
黒川の声が低くなる。俺は目線を合わせない。最低だしずるいって分かっていたけど俺はそうするしかなかった。
「じゃあ、俺はなんなんだよ。お前の“一回で充分な遊び相手”にしかならなかったってこと?」
「そう……」
「……本当にそう思ってんの?」
「…………思ってるよ。」
一瞬の間。言った自分の声が、やけに軽く聞こえて、俺は歯を食いしばった。
「……お前さ」
黒川が、静かに言う。
「次は誰を誘うの?また社内?森田でも誘う?」
「関係ないだろ……」
「なんか」
「……」
「普通にショックだわ」
黒川の悲しそうな顔を見て見ぬふりをして、綺麗に掛けられたスーツを手に取る。
「忘れていいって言ってんだから、素直に忘れろよ。お互いその方が楽だろ。」
「俺は、こんなんで楽になれない。」
その言葉に、思わず俺は息を呑んだ。黒川の視線がまっすぐすぎて、まともに見返せなかった。
「……知らねーよ、そんなの」
「待って」
「変な事に付き合わせたことは、謝る。ごめん」
「……」
急いでスーツのシャツを乱雑に羽織る。まだ髪は濡れているけれど、そんな事はもうどうでもいい。
「待てって、渡瀬…」
「触んな」
黒川が伸ばした手を、俺は振り払った。焦りなのか、羞恥なのか、自分でも分からない感情が喉元までせり上がっていたせいだ。
それだけ吐き捨てて、ドアを開ける。黒川の足音は追ってこなかった。
廊下に出て、扉が閉まった瞬間。背中にずっと焼きついていた黒川の視線が、ふっと離れていく。
俺の方が楽になんてなりたくなかったくせに、突き放してしまった。楽になるより多少苦しくても、黒川との二度目が欲しかったのに。
認めたくない本音が、喉元で苦しく膨らんだ。
「バカすぎるな……俺」
自嘲ぎみに呟いて、俺は夜明け前の薄明るい外気に身を晒した。
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