愛されすぎて、夜が足りない

ぴょす

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愛情120%の彼氏がメロすぎる

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人生初の電話えっちから、1週間が経つ。

定時の3分前から、時計ばかり見てしまう。モニターの端っこに映る時間が、やけに遅く進んでる気がした。

集中なんてとっくに切れてる。資料に目を通すふりをしながら、頭の中はずっと颯のことばかりだった。

あの電話から、一週間以上。
ようやく、やっと会える。

定時になると同時に席を立ち、最速でPCを落としてオフィスを出た。階段を駆け下りるように駅まで歩きながら、無意識にシャツの襟を正している自分がいるのが、ちょっとおかしい。

そして、待ち合わせの改札口。
人混みの先で、すぐに分かった。

光って見えた。

いや、比喩とかじゃない。
本当に、颯のまわりだけ光が集まっているみたいだった。

ブリーチされた金髪が、夕方の光を受けてやわらかく揺れている。顔立ちはいつも以上に整っていて、ほんのりメイクをしているのか、目元や口元の印象がくっきりしていて、近寄りがたいほど美しい。

その顔に、不意に向けられる笑顔。
これが俺に向けたものだなんて。

「やば……」

小さく、思わず声に出た。
誰かに聞かれてないかなんてどうでもいい。

颯はジャケットのセットアップに、シンプルなインナーと、シルバーのネックレスを合わせてる。この治安の悪そうなオーラ……好きだ……

颯は俺に小さく手を振った。その仕草すらも洗練されてて、ちょっとしたモデルの撮影でも始まりそうな完成度。この人が、自分の彼氏って、信じられない。けど、あの声も、あのぬくもりも、ちゃんと知ってる。

「侑成さん、おつかれさまです」

その一言だけで、声のトーンが、表情が、俺を甘やかそうとしてるのが分かる。

そして、ためらいもなく距離を詰めてくる。
俺のスーツの裾に触れ、ネクタイに指をかけて、ゆっくりと結び直してくれた。

「走ってきてくれたんですか?可愛い…」

そんな言葉を、こんな都心のど真ん中で囁いてくるやつがいるか。すれ違う人が一瞬立ち止まって、視線を向けてるのが分かる。それでも颯は微動だにせず、俺の襟元を整えて、ふわっと髪に手を伸ばして撫でてくる。

「今すぐキスしたい気分です」

「はっ!?ば…か……」

冗談めかした口調なのに、目だけは冗談じゃなくて、少し身体がザワつく。その瞬間、俺の背中にふわりと腕が回された。腰にまわした手は軽いはずなのに、あまりに自然で、逃げ場がない。

何がすごいって、まわりの視線なんて気にする素振りすら見せないことだ。堂々と、真っ直ぐに、俺にだけ向ける“好き”の気持ちが、とんでもなく強い。

目立ちすぎて仕方ないのに、その本人がこの都心の雑踏をまるで“背景”みたいにして、俺を包み込んでくる。周囲のざわめきなんて、あっという間にかき消された気がした。

「あのさ、颯さ、ビジュ良すぎて目立ってんの気付いてる?」

小さくこぼした俺の声に、颯はふっと笑って、
「侑成さんしか興味ない」なんて、とぼけた顔をする。

こんな顔、俺しか知らない。たった一週間会えなかっただけなのに、こうしてまた触れられることが、信じられないほど、嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。颯が俺に注ぐこの愛が、堂々としてて、美しくて、誇らしかった。




そうして、颯に手を引かれてたどり着いたのは、ガラス張りのビルの中にある、洒落た感じのダイニングバー。

外観は落ち着いた雰囲気だったが、内装に入ると意外にも若者っぽいセンスが散りばめられていて、俺のスーツ姿は少しだけ浮いている気がした。

しかも、入口でスタッフに声をかけられた颯が、あっさりと名前で呼ばれている。

「颯くん、今日もありがとねー」
「いえ、こちらこそいつもありがとうございます」

颯は人懐っこい笑顔で、さらっと挨拶を交わしている。その自然さに、俺の方が気まずくなった。スタッフの目線が一瞬だけ、俺に向けられた気がして、それに颯が何も紹介しないことが、ほんの少しだけ胸に引っかかる。

恋人……って言葉が口に出なかったのは、気を遣ったからか、気づかなかったからか。いや、気づかなかったなんてことはないと思う。颯はいつも細かいところをよく見てる。

「こっちですよ、侑成さん」
と、颯が振り返って手招きしてくる。そんなふうに名前を呼ばれたら、どうでもよくなる…といえばそうなのだ。

案内されたのは、店の奥の方にある半個室。照明は暗めで、視線も遮られている。扉が閉まった途端、颯は何のためらいもなく、俺のすぐ隣に腰を下ろした。

「やっと2人になれた」

颯が平然と俺の肩にもたれかかってきて、スーツの袖をつまんでいる。この距離で話されると、声よりも吐息の方がよく伝わる。

さっきまでスタッフに紹介されなかったことで感じた小さなモヤモヤは、この距離感一つで、あっさりと消えた。俺ってこんな単純な奴だったんだなぁ…と。

「今日デレ強くね?」

「だって1週間ぶりですよ、大人はそんなのも余裕ですか?」

「そんな事はないけどさ」

「死ぬほど寂しかったです」

当然のように返されて、思わず笑ってしまう。そして俺もすぐに頷いた。

きっと、今ここにいるのが俺じゃなくても、颯は誰にでもこんなふうに甘えることができるのかもしれない。そんなふうに考えてしまいそうになるけど、すぐに、その肩の重みで現実に戻る。

今、こうして隣にいるのは俺だ。甘えられて、撫でられて、名前を呼ばれているのも、俺だけ。

「最近、忙しそうだったもんな」

ふと口をついて出た言葉に、颯のメニューを見る目が一瞬止まった。

「……あー、まぁ、ちょっと」

曖昧に笑いながら、目線を外す。その様子に俺の胸がチクリとする。

「バイト、忙しい?」

俺の問いかけに、少し間を置いて、颯が口を開いた。

「……実は、最近モデルの仕事やらせてもらってて」

サラッと、何でもないことみたいに言う、のは、まぁ…いつものことか。

「……モデル?」

「はい。撮影とか、ちょこちょこ増えてきて。SNS経由で声かけてもらって、今は事務所にも籍を置かせてもらってて」

事務所、というワードにはさすがに反応してしまう。そりゃ声もかかるよな、と思う一方で、なぜか少し遠くに行ってしまったような気もした。自分の人生には縁のない世界だ。実感が湧かないまま「すごいじゃん」って言ったら、颯は肩をすくめた。

「別に、そんな大したことないですよ。俺なんて、ただの量産型の顔面って言われるし」

そう言って笑ってたけど、SNSの中で何万のフォロワーに囲まれてる彼と、ただの会社員の自分を重ねようとするのは、なかなか難しいものがある。

「これストーリーに載せていいですか?侑成さんの手元」

「やーめーとーけ」

俺の声が一段階低くなったのが自分でも分かった。

「なんでですか?」

「そういうの、事務所に怒られんじゃないの。それに、相手が男だったら余計に炎上したりとか、あるだろ」

「……そっか。侑成さん、そっちの方が嫌なんですね」

少しだけ、拗ねたような声音。

「違う。そういう意味じゃなくて、お前のことが大事だから言ってんの」

思わず、口に出てた。
“親か俺は”って、自分でツッコミ入れたくなるくらい慎重すぎる発言だけど、年齢差は現実だし、颯がこの先もっと注目される可能性だってある。

でも颯は、こっちの心配なんてどこ吹く風で笑っている。

「でも僕、我慢したくないんですよね。侑成さんと付き合ってるってことも、自分がゲイだってこと隠すのも」

何も怖くないみたいに、俺のことを“ちゃんと好き”って、いつだってまっすぐに見せてくる。その一途さが、眩しくて、ちょっとだけ危うくもある。でもその真っ直ぐさに、俺は惚れたんだけど。

「分かるし嬉しいよ」

「でもだめって言いたそう」

「その通り。分かってんじゃん」

そう呟いたら、颯は「はぁい」と不服そうながらも返事をして、俺の肩にこっそり頬を寄せた。そして、机の下で繋いだままの手を、颯がぎゅっと握る。

「……ねぇ、侑成さん」

「ん?」

「僕ね、もっと侑成さんの近くにいたいんです。……ずっと、触れていたい」

声は柔らかくて、だけど芯があった。俺が冗談みたいに受け取らないように、ちゃんと、まっすぐに伝えようとしてるのがわかる。

「侑成さんが、電話くれたらすぐ出るし、会えない時はいっぱい電話もしたい。何してても、侑成さんからの連絡だけは、見逃さないです」

そう言って、俺の指をなぞるように撫でながら、颯は続ける。

「声を聞いてたいんです。……会えるならそれが一番だけど、寝落ちしてもいいから、毎日話したいんです」

「……颯」

口を開いたけど、すぐに何も言えなくなった。
なのに、そんな様子もお構いなしに、颯はぽつりぽつりと、自分の気持ちを話し続ける。

「遊びじゃないですからね。僕は本気で、侑成さんのこと好きです。笑ってくれたら、それだけで嬉しくなるんです」

手を繋いだまま、肩と肩が触れて、隣から伝わる体温がやけに熱い。

「……いつだって、僕は侑成さんが1番です」

何も言えない。
言葉がうまく出てこない。
ただ、目の前の颯が、まっすぐに俺のことだけを見てる。

「僕、口だけの男には絶対ならない。どんなに忙しくても、侑成さんが会える時は会いに行きます。……絶対、行きますから」

すぐそばで、あんなに綺麗な顔が真剣な瞳をしてると、心臓が落ち着かない。

「好きだから、こんな事言えちゃうんですよ」

「うん…」

「大好きだし、愛してます。僕、愛してるなんて言葉、人生で初めて言います、でもいっぱい言いたいです」

そう言って、照れることもせず、まるでそれが“当たり前”だと言わんばかりに笑った。

それが俺には、たまらなく眩しかった。

「……今日の颯…愛が深いな…」

「だって好きなんですもん。嘘ついても仕方ないですし、隠す意味もないし」

「……ほんと、ありがとう。俺も愛してるよ…」

俺の言葉に、満足そうに微笑んで、颯は俺の手を強く握り返してくる。

この瞬間、確かに思った。どんなに俺が大人ぶっても、颯の真っ直ぐさには敵わない。この恋に触れて、今の俺はこんなにも幸せなんだ。

来世には期待しない、だってもうこれで運を使い果たしたって言われても納得するもんなぁ。

「……好きが止まんないです。マジで」

「俺も」

何度目か分からないそのやりとりは、もうすっかり今夜のBGMみたいになっていた。料理の味も、店内の音楽も、全部どうでもよくなるくらい、テーブルの下で繋いだ手に夢中だった。

颯の指は、やわらかくて、細くて、でもちゃんと俺の指に絡みついてくる。ただの手なのに、触れているだけで安心して、顔まで火照ってくるのはどういうことなんだろう。

「……なんか飲むか?」

どれくらいの時間が経っただろうか。多分まだ長居はしてないが、颯のグラスが空になっているのに気づいて、俺は自然とそう訊いていた。

颯は、少しだけ視線をテーブルに落として、ほんの短く考える仕草をしたあと、目を上げて微笑んだ。

「……ううん、もう帰りましょう」

「え?」

言葉の意味を飲み込む前に、颯の瞳の奥にふと影がよぎった気がした。

「……これから会える時間、あんまり取れないかもだし、一緒にいられる時間はなるべく2人きりでいたいです」

何気なく言ったようなその一言が、胸にじんと刺さる。寂しいなんて、子どもみたいなことは言いたくない。だけど本音を言えば……会えないのは、やっぱりつらい。

「……帰る場所が同じならいいのに」

ぽつりと落ちたその言葉に、俺は思わず息をのんだ。

それ以上は言わなかった。
きっと、颯も分かってるから。
同棲の話をここで持ち出しても、俺がすぐに首を縦に振れないことを。
俺は29歳で、颯はまだ19歳。
それに彼は今も実家暮らしで、親との関係もある。すぐに一緒に暮らすのは、きっと簡単じゃない。

それでも、俺も同じことを思っていた。一緒に暮らせたら、こんな風に1週間も会えない時間がなくなるのに、って。

「……じゃあ、今夜は泊まってく?」

「……ほんと?」

顔を上げた颯の目が、ほんの一瞬だけ潤んでいたように見えて、俺の胸がきゅっとなった。

「ほんと。……今日はずっと一緒にいよ」

その言葉に、颯は静かに頷いて、小さく笑った。手は、ずっと繋いだまま。別れを惜しむような余韻もなく、もうすでに“帰る方向”が同じなのが、嬉しくて心がゆるんだ。

「じゃあ、早く行きましょ」

颯は俺の手を引いて少しだけ急ぎ足。

そんな俺たちが店を出るとき、また颯はスタッフの何人かと軽く挨拶を交わしていた。
こっちは何を話してるのか分からないふりをしてたけど、帰り際、店の奥から出てきた店長らしき人が颯に向かってニヤニヤしながら言った一言が、やけに耳に残った。

「……幸せそうじゃん、お前」

軽口なんだろうけど、俺は思わず一歩だけ立ち止まりそうになった。

そのあと何事もなかったように手を繋がれて、颯の顔を見れば、いつもと変わらない。だけど、心のどこかがもぞもぞして、どうにも落ち着かなかった。

帰り道、少し歩いてから、それを我慢しきれずに訊いた。

「……さっきの店長っぽい人と…何話したの?」

「え?」

颯が小首を傾げて、さらっと言う。

「今日は彼氏連れてくって言ってあったんで」

その言い方があんまりにも軽くって、歩く足まで止まりかけた。顔はどうにか平静を保ってたつもりだったけど、心臓だけはずっとバクバクいってた。

「……そんなの、言っていいの?」

「いいでしょ、別に」

浮かれすぎてバカになるのをどうにか抑えて歩いてたら、今度は颯のほうがちょっと黙った。

少しして、不意に切り出す。

「……侑成さん、もし僕の親が、同棲してもいいって言ったら……してくれますか?」

その言葉に、また心臓が跳ねた。

「……それは……」

どう答えるのが正解か分からないまま、言葉が詰まる。別に嫌なわけじゃない。むしろそうできたらどんなにいいかって、俺だって何度も考えてる。でも、颯はまだ19だ。実家で家族と暮らしてて、これからモデルの仕事だって増えてくる。それを俺の都合で引っ張っていいのかなんて、簡単に決められるはずがない。

「……それは、俺ひとりで決めていいことじゃないだろ」

そう答えると、颯は少し唇を尖らせた。
でも、すぐにまた言う。

「親には僕から話します。許可が出たら……同棲したいです」

「颯……」

「今すぐとは言ってません。でも、いずれは」

強い目で見つめてくるその瞳に、また俺は言葉を飲み込んだ。

逃げたくなるわけじゃない。ただ、受け止めるなら本気で、ちゃんと責任持って向き合わなきゃいけないと思った。だから、逃げる代わりに、こう返した。

「……もし本気でそう思ってるなら、俺が挨拶に行くよ。ご両親にちゃんと許可もらってから、一緒に住もう」

その瞬間、颯の顔に一瞬で花が咲いたような笑顔が浮かんだ。この先の未来の話なのに、まるで今ここで叶ったみたいな顔して。

それがもう、どうしようもなく愛おしかった。
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