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仲直りは早めがいい
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翌朝
車窓を流れていく景色を眺めながら、右手でスマホを操作していた。SNSを開くと、颯の最新の投稿が表示される。
深夜のクラブらしき照明。
明らかにふざけたテンションのピースサイン。
周囲には男女数人、特に女性たちが近すぎる距離で写り込んでいて、それだけで胃が重くなった。
朝まで遊んでたのかよ……
連絡がなかった時間、あの野郎はこんなくだらない事してたってわけらしい。言葉を交わしていない時間が、俺のテンションを下げていく。抱きしめた感触や声のトーンが曖昧になっていくことが、こんなに怖いなんて思わなかった。
「……顔、死んでるよ?」
横から声がして、びくりと指が止まる。塩野さんは、パソコンの画面から目を上げず、軽くこちらを一瞥する。
「……そうですか?」
何も見られていないふりをして、スマホの画面を伏せた。でも、それが返って怪しいのは分かっていた。
塩野さんは特に追及しない。ただ、コーヒーの入った紙コップを軽くこちらに差し出してきた。
「ほら。せめてカフェインで脳だけは起こしとけ」
受け取ったコーヒーは、少しぬるかった。それでも、その気遣いがやけに沁みた。
本当は、俺……仲直りしたいだけなのに。どうしてそれがこんなに難しいんだろう。
「ていうか本当に彼と喧嘩したの?」
何気ないような口調で、けれど確実に核心に近づく一言が、ぽんと投げられる。
「……してません」
即答はしたものの、自分でも語尾が揺れているのがわかる。塩野さんは顔も向けず、苦笑まじりに続けた。
「じゃあなんでそんなテンション低いんだよ……ていうか、彼って、どんな子なの?」
「え?」
「ほら。こないだ、一度だけ見たけど……若そうだったでしょ? 実際、いくつ?」
俺は少し迷った。けれど、隠す理由ももう、あまりない。
「……19です」
塩野の指がキーボードの上でぴたりと止まった。
「マジで?」
「……はい」
「え、どう…え?」
からかうような口ぶりだったが、そこに混じる微かな引きつりに気づいた。
驚いたというより、動揺を押し殺すような、年齢差への純粋な驚愕か、それともほんの少し、呆れに似た感情か。
「なんだよそれ。何歳差? 10……?」
「10歳差です」
「……まじか」
塩野さんはついにパソコンを閉じ、顔を覆って笑った。けれど、それは笑い飛ばすというより、自分の中のざらりとした感情をごまかすような所作だった。
「そりゃまあ、浮かれるか。若い、フレッシュ、イケメン彼氏。あれで懐かれたら、もう頭回らなくなって当然だよ」
「……そうですかね」
苦笑して返すと、塩野は肩をすくめて、ふっと表情をやわらげた。
「いいな、そういうの。うん、まあ……ちょっとだけ、悔しいけど。ちょっとだけ、ね」
「……悔しい?」
「いや、気にしないで」
「……はい…………」
塩野さんにとって今の俺はただ、“恋に浮かされてる後輩”として映ってる。今は一歩引いた場所から見てくれている。その距離感が妙に安心した。
「でも……そんだけ離れてたら、ジェネレーションギャップとかあるんじゃない?」
「……ええ、今まさに、それで苦しんでます」
ぽつりと俺がこぼすと、塩野さんは吹き出しそうになって、それでもちゃんと我慢して、顔を背けながら肩を揺らして笑った。
「マジか。それは大変だ。どんなふうに?」
「『社会人は仕事って言えば何しても許されると思ってる』って言われちゃって……」
そのセリフを聞いた瞬間、塩野は完全に堪えきれず、笑い声を漏らした。
「っはは、それは……子供っぽいって言えば子供っぽいけど、まあ、そう思うだろうなあ」
俺が苦笑して俯くと、塩野さんは少し声を和らげた。
「でもね、若いってのはそういうもんじゃないかな。世界が自分と相手しかないから、愛されてないって思うと一気に全部崩れちゃう。俺たちの年になると、それが現実じゃないって分かってくるけど」
そして、塩野さんは優しく俺の肩を叩いた。
「大変だろうけど、でも、そうやってちゃんと悩んでるのは、偉いよ」
トンネルの中に入った瞬間、景色が闇に飲まれる。車内の明かりがほんの少し、2人の間に距離を作った。
「……もうひとつ、聞いていい?」
「……はい?」
「これはね、マジで下心っていうか、セクハラかもって思うんだけどさ」
軽い声色。でもその前置きの妙な真剣さに、俺は警戒して眉を寄せてしまった。
「……なにが、ですか」
「“そっち”のときは、糸川が……受け、なの?」
一瞬、間が空いた。冗談めかした声なのに、言葉の内容があまりにストレートすぎて、笑ってしまう。
「……最低ですね」
「だよね」
「ほんとに最低です」
「でも笑ったじゃん」
「呆れてるんです」
肩が震えたのは、笑いを堪えていたから。塩野さんもつられて笑い声を洩らした。年上の余裕というよりも、ちょっと悪い先輩に見えてしまうところが憎めない。
「でもまあ、想像したくなる気持ちも分かって」
「分かんなくていいです」
「はいはい。内緒にしとく」
トンネルを抜け、車窓に光が戻る。さっきまでの重たい気分が、少しだけ和らいだ…ような気がした。
電車を乗り継ぎ、片道三時間ほど。ほどよく緑が増え、空気も少し乾いて感じるその町に着いたのは、昼を少し過ぎた頃だった。
「出張じゃなければなー」と言った塩野さんの横で、俺は観光気分には到底なれるわけもなく、緊張に意識が向いていた。
出張の目的は、数ヶ月前に起きた柏木が発端のあの件。本来なら柏木が同行すべきだが、それは柏木にとって重荷が過ぎるとの塩野さんの判断だった。
だが、いざ訪問してみれば、取引先の担当者はとても温厚で、こちらの緊張すら気の毒そうに受け止めてくれた。
「本当に、そんなに気になさらないでください。ご丁寧にありがとうございます。むしろ、こうしてご足労いただいて申し訳ないくらいですよ」
事務所の応接室で、そう微笑まれた時には少し拍子抜けすらした。
塩野も落ち着いた口調で会話を進め、過去のやりとりを整理しながら、今後の情報共有の方法について話をまとめていく。俺は隣で必要な部分の確認と、最終的な議事メモの作成に徹した。
予定よりも早く、会議は穏やかに終わった。
駅に近いビジネスホテルにチェックインしたのは夕方前だった。
フロントでの手続きを終えると、隣の塩野さんが部屋番号の書かれた紙を手に「隣同士だね」と軽く笑う。
「じゃ、19時にロビー集合で。晩飯くらいごちそうさせて」
「……はい。お疲れさまでした」
部屋に入った瞬間、俺はベッドに深く腰を下ろして、大きく息を吐いた。
業務自体は滞りなく終わった。でもこっちは終わってない。
自分のスマホは何度も確認している。通知は、ない。
朝から、いや昨日の夜から。途切れたままの連絡に、胸の奥がざわざわとする。
塩野さんの部屋はすぐ隣。隣の壁の向こうに誰かがいるというのが、今日ばかりは妙に緊張感を孕んでいた。
まさか、本当に会いに来たりなんて、あるわけないよな?
GPSをオフにされても俺はオンのまま。
俺だってお前がどこで誰といるのか気にならないわけじゃないんだからな、と言うのは心の中でだけ。はぁ…と大きなため息を天井に吐いた。
すると、
部屋に鳴り響く電話の音に、思わず声を出してビビる。
スマホの通知ではない。部屋の固定電話だ。躊躇いながら受話器を取ると、少し困惑気味な声が耳に飛び込んできた。
「……あの、糸川様でいらっしゃいますか? フロントの者ですが……久世様というお客様がロビーにいらしてまして……お知り合いの方でしょうか?」
頭が真っ白になった。
久世……その名字に聞き覚えがあるのは、当たり前すぎるほど当たり前だった。
「っ、はい、今すぐ行きます……」
受話器を乱暴に戻し、財布もスマホも何も持たずにドアを開ける。廊下を突っ切って、エレベーターすら待てず階段を駆け下りる足音が、ビジネスホテルの薄い内壁に響き渡った。
ロビーの自動ドアが視界に入った瞬間、颯の姿が目に飛び込んできた。
相変わらずの綺麗な金髪に、黒のストレートパンツに、ロンTをゆるく合わせた颯の姿は、どこかモデルのような雰囲気をまとって……
見慣れているはずの俺ですら、思わず見惚れてしまうほど。でもその顔だけがどこか浮かない。怒っているような、拗ねてる…?いや、怒られた子犬か?
「……颯……」
名前を呼んだつもりだったが、息が漏れただけのようだった。でも颯は気付いた。そして、ロビーのソファから立ち上がり、そっと俺のほうへ歩いてくる。
「なんで……」
俺が何かを聞こうとする前に、颯が小さく言った。
「……ごめんなさい」
それが何に対しての言葉なのか、すぐに分かった。
音信不通だったこと。
SNSのあれこれ。
わざとらしい当てつけ。
そして、今日ここに突然現れたことだろう。
「お前……ここどこだか分かってんの?」
声が震えていたのは驚きのせいなのか、安心のせいなのか、もうよく分からなかった。
颯は少しだけ唇を尖らせて、気まずそうに眉を寄せる。
「分かってます、けど……」
まるで責められるのを覚悟しているような表情。でも、その視線の奥には、紛れもない“俺が好き”という気持ちが滲んでいて。どこまでもわがままで、どこまでも素直で、だからこそ愛しくて……抱きしめたくてしかたなかった。
フロントに立ち、俺は声量を落とす。
「ツインの部屋で予約してるんですが、もうひとり追加できますか?」
係員が一瞬だけ訝しげな目を向けたが、すぐに手続きに移る。これは出張先でやる事ではないよな。バレたら怒られるやつだ…と覚悟を決め、颯に視線を向けると、後ろで黙って立っていた。
ガチで落ち込んでのか…?普段から破天荒なのは、もう分かってんだけどな。
「行こ」と振り返って声をかけると、颯は少し照れたような、けれど素直な顔で頷いた。
車窓を流れていく景色を眺めながら、右手でスマホを操作していた。SNSを開くと、颯の最新の投稿が表示される。
深夜のクラブらしき照明。
明らかにふざけたテンションのピースサイン。
周囲には男女数人、特に女性たちが近すぎる距離で写り込んでいて、それだけで胃が重くなった。
朝まで遊んでたのかよ……
連絡がなかった時間、あの野郎はこんなくだらない事してたってわけらしい。言葉を交わしていない時間が、俺のテンションを下げていく。抱きしめた感触や声のトーンが曖昧になっていくことが、こんなに怖いなんて思わなかった。
「……顔、死んでるよ?」
横から声がして、びくりと指が止まる。塩野さんは、パソコンの画面から目を上げず、軽くこちらを一瞥する。
「……そうですか?」
何も見られていないふりをして、スマホの画面を伏せた。でも、それが返って怪しいのは分かっていた。
塩野さんは特に追及しない。ただ、コーヒーの入った紙コップを軽くこちらに差し出してきた。
「ほら。せめてカフェインで脳だけは起こしとけ」
受け取ったコーヒーは、少しぬるかった。それでも、その気遣いがやけに沁みた。
本当は、俺……仲直りしたいだけなのに。どうしてそれがこんなに難しいんだろう。
「ていうか本当に彼と喧嘩したの?」
何気ないような口調で、けれど確実に核心に近づく一言が、ぽんと投げられる。
「……してません」
即答はしたものの、自分でも語尾が揺れているのがわかる。塩野さんは顔も向けず、苦笑まじりに続けた。
「じゃあなんでそんなテンション低いんだよ……ていうか、彼って、どんな子なの?」
「え?」
「ほら。こないだ、一度だけ見たけど……若そうだったでしょ? 実際、いくつ?」
俺は少し迷った。けれど、隠す理由ももう、あまりない。
「……19です」
塩野の指がキーボードの上でぴたりと止まった。
「マジで?」
「……はい」
「え、どう…え?」
からかうような口ぶりだったが、そこに混じる微かな引きつりに気づいた。
驚いたというより、動揺を押し殺すような、年齢差への純粋な驚愕か、それともほんの少し、呆れに似た感情か。
「なんだよそれ。何歳差? 10……?」
「10歳差です」
「……まじか」
塩野さんはついにパソコンを閉じ、顔を覆って笑った。けれど、それは笑い飛ばすというより、自分の中のざらりとした感情をごまかすような所作だった。
「そりゃまあ、浮かれるか。若い、フレッシュ、イケメン彼氏。あれで懐かれたら、もう頭回らなくなって当然だよ」
「……そうですかね」
苦笑して返すと、塩野は肩をすくめて、ふっと表情をやわらげた。
「いいな、そういうの。うん、まあ……ちょっとだけ、悔しいけど。ちょっとだけ、ね」
「……悔しい?」
「いや、気にしないで」
「……はい…………」
塩野さんにとって今の俺はただ、“恋に浮かされてる後輩”として映ってる。今は一歩引いた場所から見てくれている。その距離感が妙に安心した。
「でも……そんだけ離れてたら、ジェネレーションギャップとかあるんじゃない?」
「……ええ、今まさに、それで苦しんでます」
ぽつりと俺がこぼすと、塩野さんは吹き出しそうになって、それでもちゃんと我慢して、顔を背けながら肩を揺らして笑った。
「マジか。それは大変だ。どんなふうに?」
「『社会人は仕事って言えば何しても許されると思ってる』って言われちゃって……」
そのセリフを聞いた瞬間、塩野は完全に堪えきれず、笑い声を漏らした。
「っはは、それは……子供っぽいって言えば子供っぽいけど、まあ、そう思うだろうなあ」
俺が苦笑して俯くと、塩野さんは少し声を和らげた。
「でもね、若いってのはそういうもんじゃないかな。世界が自分と相手しかないから、愛されてないって思うと一気に全部崩れちゃう。俺たちの年になると、それが現実じゃないって分かってくるけど」
そして、塩野さんは優しく俺の肩を叩いた。
「大変だろうけど、でも、そうやってちゃんと悩んでるのは、偉いよ」
トンネルの中に入った瞬間、景色が闇に飲まれる。車内の明かりがほんの少し、2人の間に距離を作った。
「……もうひとつ、聞いていい?」
「……はい?」
「これはね、マジで下心っていうか、セクハラかもって思うんだけどさ」
軽い声色。でもその前置きの妙な真剣さに、俺は警戒して眉を寄せてしまった。
「……なにが、ですか」
「“そっち”のときは、糸川が……受け、なの?」
一瞬、間が空いた。冗談めかした声なのに、言葉の内容があまりにストレートすぎて、笑ってしまう。
「……最低ですね」
「だよね」
「ほんとに最低です」
「でも笑ったじゃん」
「呆れてるんです」
肩が震えたのは、笑いを堪えていたから。塩野さんもつられて笑い声を洩らした。年上の余裕というよりも、ちょっと悪い先輩に見えてしまうところが憎めない。
「でもまあ、想像したくなる気持ちも分かって」
「分かんなくていいです」
「はいはい。内緒にしとく」
トンネルを抜け、車窓に光が戻る。さっきまでの重たい気分が、少しだけ和らいだ…ような気がした。
電車を乗り継ぎ、片道三時間ほど。ほどよく緑が増え、空気も少し乾いて感じるその町に着いたのは、昼を少し過ぎた頃だった。
「出張じゃなければなー」と言った塩野さんの横で、俺は観光気分には到底なれるわけもなく、緊張に意識が向いていた。
出張の目的は、数ヶ月前に起きた柏木が発端のあの件。本来なら柏木が同行すべきだが、それは柏木にとって重荷が過ぎるとの塩野さんの判断だった。
だが、いざ訪問してみれば、取引先の担当者はとても温厚で、こちらの緊張すら気の毒そうに受け止めてくれた。
「本当に、そんなに気になさらないでください。ご丁寧にありがとうございます。むしろ、こうしてご足労いただいて申し訳ないくらいですよ」
事務所の応接室で、そう微笑まれた時には少し拍子抜けすらした。
塩野も落ち着いた口調で会話を進め、過去のやりとりを整理しながら、今後の情報共有の方法について話をまとめていく。俺は隣で必要な部分の確認と、最終的な議事メモの作成に徹した。
予定よりも早く、会議は穏やかに終わった。
駅に近いビジネスホテルにチェックインしたのは夕方前だった。
フロントでの手続きを終えると、隣の塩野さんが部屋番号の書かれた紙を手に「隣同士だね」と軽く笑う。
「じゃ、19時にロビー集合で。晩飯くらいごちそうさせて」
「……はい。お疲れさまでした」
部屋に入った瞬間、俺はベッドに深く腰を下ろして、大きく息を吐いた。
業務自体は滞りなく終わった。でもこっちは終わってない。
自分のスマホは何度も確認している。通知は、ない。
朝から、いや昨日の夜から。途切れたままの連絡に、胸の奥がざわざわとする。
塩野さんの部屋はすぐ隣。隣の壁の向こうに誰かがいるというのが、今日ばかりは妙に緊張感を孕んでいた。
まさか、本当に会いに来たりなんて、あるわけないよな?
GPSをオフにされても俺はオンのまま。
俺だってお前がどこで誰といるのか気にならないわけじゃないんだからな、と言うのは心の中でだけ。はぁ…と大きなため息を天井に吐いた。
すると、
部屋に鳴り響く電話の音に、思わず声を出してビビる。
スマホの通知ではない。部屋の固定電話だ。躊躇いながら受話器を取ると、少し困惑気味な声が耳に飛び込んできた。
「……あの、糸川様でいらっしゃいますか? フロントの者ですが……久世様というお客様がロビーにいらしてまして……お知り合いの方でしょうか?」
頭が真っ白になった。
久世……その名字に聞き覚えがあるのは、当たり前すぎるほど当たり前だった。
「っ、はい、今すぐ行きます……」
受話器を乱暴に戻し、財布もスマホも何も持たずにドアを開ける。廊下を突っ切って、エレベーターすら待てず階段を駆け下りる足音が、ビジネスホテルの薄い内壁に響き渡った。
ロビーの自動ドアが視界に入った瞬間、颯の姿が目に飛び込んできた。
相変わらずの綺麗な金髪に、黒のストレートパンツに、ロンTをゆるく合わせた颯の姿は、どこかモデルのような雰囲気をまとって……
見慣れているはずの俺ですら、思わず見惚れてしまうほど。でもその顔だけがどこか浮かない。怒っているような、拗ねてる…?いや、怒られた子犬か?
「……颯……」
名前を呼んだつもりだったが、息が漏れただけのようだった。でも颯は気付いた。そして、ロビーのソファから立ち上がり、そっと俺のほうへ歩いてくる。
「なんで……」
俺が何かを聞こうとする前に、颯が小さく言った。
「……ごめんなさい」
それが何に対しての言葉なのか、すぐに分かった。
音信不通だったこと。
SNSのあれこれ。
わざとらしい当てつけ。
そして、今日ここに突然現れたことだろう。
「お前……ここどこだか分かってんの?」
声が震えていたのは驚きのせいなのか、安心のせいなのか、もうよく分からなかった。
颯は少しだけ唇を尖らせて、気まずそうに眉を寄せる。
「分かってます、けど……」
まるで責められるのを覚悟しているような表情。でも、その視線の奥には、紛れもない“俺が好き”という気持ちが滲んでいて。どこまでもわがままで、どこまでも素直で、だからこそ愛しくて……抱きしめたくてしかたなかった。
フロントに立ち、俺は声量を落とす。
「ツインの部屋で予約してるんですが、もうひとり追加できますか?」
係員が一瞬だけ訝しげな目を向けたが、すぐに手続きに移る。これは出張先でやる事ではないよな。バレたら怒られるやつだ…と覚悟を決め、颯に視線を向けると、後ろで黙って立っていた。
ガチで落ち込んでのか…?普段から破天荒なのは、もう分かってんだけどな。
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