愛されすぎて、夜が足りない

ぴょす

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不穏すぎる禁欲生活 2日目

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2日目の朝から、颯からの連絡が途絶えた。

昨日までは、仕事の合間に短いやりとりが続いていた。向こうの様子が分かるだけで、安心していたのに。

たぶん、電波が悪いとかそんな事だよな…?

スマホを何度も開きながら、そう自分に言い聞かせた。それでも、昼になっても未読はそのまま。メッセージは、空白のままで。

でも、そんなときに限って、嫌なことは重なるもの。

「糸川、申し訳ないんだけど今夜良い?」

振り返れば、塩野さんが立っていた。両手を顔の前で合わせていて、それはそれはとても申し訳なさそうな顔をして。

「……はい」

「取引先、ちょっと接待入っちゃって。顔出してもらえる?」

嫌です……そう言いかけたのを、ぎりぎりで飲み込んだ。疑問系でもこれはイエス以外の模範解答はないわけで。

「わかりました」

「悪いな。ま、例の彼氏さんによろしく言っといて、どうせまた拗ねちゃうだろ」

冗談めかして言われたけれど、笑う余裕はなかった。よろしくって、言われたってこっちは今その“例の彼氏”のことで胃に穴が開きそうなんですけど。


せめて。


せめて、飲み会に行く前に一言だけでも、返事がほしかった。

既読でも、既読スルーでもいい。“見てくれてる”と思えるだけで、どれだけ気が楽になるか。

だけど、画面は相変わらず沈黙したままだった。もう、仕事なんて手につかない。気づけば、デスクの下でスマホを握りしめていた。

せめてもの報告だけでも、と送ったメッセージ。

『今日、急に接待入って。帰り遅くなる。ごめん』

これにも返事は、ない。じわじわと、胸の奥に冷たい何かが広がっていく。膨らんだ不安は、もう、ただの不安じゃなかった。

“何かあったのか”
“事件や事故に巻き込まれてないか”

「……」

がっつりと、デスクの下で、頭を抱える。俺、なにやってんだろ。こんなに心配しても、想っても、なんにもできないくせに。

そのひと言が、
胸の中に、ずしりと落ちた。





———

でも俺は大人だから、ちゃんとこなしたんだ。苦手な接待も。そんなに好きじゃない酒も。難しい話だって。ちゃんと頑張ったら颯に褒めてもらおうって思いながら……

取引先との飲み会が終わった後、
「ちょっとだけだから」と言われて連れてこられたのは、キャバクラで。

俺はげんなりしていた。

派手な照明。甘ったるい香水とアルコールの匂い。
左右からぴったりと寄ってくる女性たち。

頬が引きつってるのが、自分でもわかる。
グラスを持つ手が、不自然に固まっていた。

……無理

そう思った瞬間、隣に座った女性が、悪気もなく、軽く腕に触れてきた。

「お兄さん、大丈夫ですか?」

「いや、はい……大丈夫…です……」


仕事だ。
付き合いだ。
大人だから。

そう、言い聞かせるほどに、精神が削られていく。

こんなとこに、いたくない
考えるのは、颯のことばっか。

俺、颯のことしか考えてないのに。

なのに、どうして。
俺が、今、こんな場所にいるんだろ。

グラスの氷が、
ゆっくりと溶けていく音だけが、妙に耳に残った。






色々と限界でトイレに立ったのは、時間にして、店に入ってから2時間ほど経った頃だった。

個室の中、ポケットからスマホを取り出すと、そこには通知がひとつ。

……颯だ!

咄嗟の嬉々とした感情のまま、慌てて開いた画面には、予想とは違うものが。



これは?

どこかの位置情報のスクリーンショット?

と……明らかに良い内容じゃない、長文。



中途半端な酔いが、一気に覚めて……口を半開きにしたまま、できれば読みたくないその文を目で追っていく……





『は?これ、どこ?キャバですよね?僕がいない間に、何やってんですか?

仕事だったとしてもなんでそういう店なの。
なんで僕がいないときに限って、そんなとこ行ってんの。

僕が嫌がるって分かってますよね?
僕がどれだけこういうの嫌いか知ってますよね?

“仕事だから仕方ない”って、また言うの?

ごめんってそればっか言われるの?

仕事だからって、ごめんって、そんなん言われたら僕は何も言い返せなくなる。

それとも僕がいない間に気が緩んで、適当に女の子と飲んで、GPSに居場所まで残して、バレて、あーやべ、怒られるーとか思ってんの?

そんなに僕がいないのが都合いいの?僕がいない方が気楽だった?って思うじゃん、普通に。

なんでこんな離れてる時にこんな事するんですか。

最低すぎる。話したくない。連絡してこないでください。』





最悪だ

颯から初めてもらう長文メッセージの内容がこれだなんて。最悪でしかない……

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