2 / 14
2.ご先祖様の遺産ー叡智の書との出会い
しおりを挟むイチカを包んだ真っ白い光は、かなりの時間彼女の体を覆うように白く輝き、やがて唐突に消えた。
「……なにがあったの?」
イチカは我に返ると、手に持っていた本を持ち上げようとして、いつの間にかそれが短剣に変わっていたことに気がついた。
「なんで私……こんなものを持ってるの?」
「“こんなもの”呼ばわりはひどすぎるぞ。少し言葉を慎め、小娘。」
「えっ?」
どこからか聞こえた声に、周囲を見回すが誰もいない。
「どこを見ている、小娘。」
また声が聞こえた。
「ちょっと、誰よ。いったいどこにいるの?」
「ここにいる。」
声のした方に視線を戻すと、本棚の前に、前世の映画の主人公のような筋骨隆々で、めちゃくちゃ顔のいい男が立っていた。
「ほれ、小娘。名前をつけるために、お前の好みのタイプの名前を挙げてみろ。」
「えっ、好みのタイプ? 急にそう言われても……えっと……」
「ほれ、そうだ。なんだったか……ドラマとか乙女ゲームとか……なんやらあるだろう。」
なんともこの手の美形が発するとは思えない、しわがれた声に、むちゃくちゃ違和感を感じながらも、イチカは一生懸命考えた。
前世ではドラマはあまり見たことがなかったし、乙女ゲームといわれるものもやったことがない。
唯一やったゲームといえば、画像がきれいだと評判で、自分でもその主人公が好きだった……えっと、名前なんだったかな……たしか……
「あっ、そう……たしか、ノクト……」
イチカが言い終える前に、パァーッと白い光が弾けて、目の前にボンキュッボンの気の強そうな黒髪の美女が現れた。
なんでここに急に黒髪の美女が現れるの?
私は黒髪の美女じゃなくて、同じ黒髪でも男の人の名前を考えたような気がするんだけど……?
「ふむふむ。こんな感じが“あやつ”の好みだったのか。」
「あやつ?」
イチカの思考は、しわがれた声と目の前の熟女の姿のギャップに驚きすぎて、素直に疑問を口にしていた。
「ふむ。おぬしのご先祖だな。名前はたしか……令五郎……いや、違うな。」
「「令一。」」
えっ……ということは、初代様!
「そんな名前だったな。それで、お主の名は?」
「イチカです。」
「うむ、イチカか。わしの名はルールーじゃ。」
「ルールー……?」
「そうよ、ルールーっていうの。でも真名だから、ルーって呼んでね♡」
“ルールー”とイチカが名前を呼んだ瞬間、声がしわがれた老人から若い女性の声に変わり、言葉遣いまで変わっていた。
「ふぅ。これでやっとまともに動けるようになったわ。それじゃあ、ここを出ましょ。イ・チ・カ♡」
「ここを出る?」
「そうよ。いつまでもここにいると、また毒を盛られちゃうからね。」
ルールーはそう言うと、パンを食べるときに飲んでいたスープを指差した。
ちょっと待って。
「それじゃあ、私は今まで……お兄さまに毒を盛られていたの!?」
「うーん。犯人まではさすがにわからないわ。でも、確実にわかることは――毒がそのスープに入っていたっていう事実だけね。」
イチカは青ざめながらも、ルールーの言葉を反芻しつつ、現状を振り返った。
確かに、犯人が実兄と断定するのは早すぎるかもしれない。
でも、ルールーが言う通り、ここにいればまた同じことが起こるのは間違いない。
「でも、“ここを出る”って言っても……どこに行けばいいの?」
イチカは、いつの間にかさっきまで息苦しくて立ち上がることはおろか、声を出すことすらできなかったことを、すっかり忘れていた。
「それなら任せてちょうだい。私に、あてがあるから。」
イチカは、自信たっぷりに断言するルールーに不安を覚えながらも、ついていくことにした。
「では、行きましょう。」
二人は、まだ夜が明ける前に、別邸を抜け出した。
0
あなたにおすすめの小説
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
デネブが死んだ
ありがとうございました。さようなら
恋愛
弟との思い出の土地で、ゆっくりと死を迎えるつもりのアデラインの隣の屋敷に、美しい夫婦がやってきた。
夫のアルビレオに強く惹かれるアデライン。
嫉妬心を抑えながら、妻のデネブと親友として接する。
アデラインは病弱のデネブを元気付けた。
原因となる病も完治した。それなのに。
ある日、デネブが死んだ。
ふわっとしてます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる