ご先祖さまは中二病⁉

しゃもん

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3.ご先祖様の遺産ーイチカ、美女と街へ向かう。

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 別邸を夜明け前に出ると、二人はルールーを先頭に、まだ暗い道を迷いもせずにずんずんと歩いていった。

 ――めちゃくちゃ早い。

 イチカはふらふらしながらも気力を振り絞って、彼女の後をついていった。  
 途中、何度も「もうダメぇ、歩けない」と叫びそうになったが、なんとか踏ん張って歩くこと数時間。

 本人は気づいていなかったが、今までまったく立ち上がることもできず、ベッドで寝込んでいた人間ができる行動ではなかった。  
 この時のイチカは、なぜか息苦しさもなく、ただひたすらにルールーの後を追って歩き続けていた。

 そうして歩き続けるうちに、まだ朝早い時間にもかかわらず、わりと賑わっている大通りにたどり着いた。  
 初めて見る人混みに圧倒されながらも、ルールーの後についていくと、その通りをすぐに抜け、小さな道の行き止まりにある、こぢんまりとしたお店の前にたどり着いた。

「ここは?」

「だいぶ前に、あなたのご先祖さまの相棒をやっていた人物のお店よ。さすがに、あの時と同じ場所にまだあるとは思わなかったけど……あったわね。」

 ――ちょっと待って。  
 なんだか不穏な言葉が混じってなかった?  
 “あると思わなかった”って、つまり“ないかもしれなかった”ってことよね?

「さて、まだ少し寒いし、早く中に入るわよ。」

 ルールーはそう言うと、扉を開けて中に入っていった。

 ――なんで早朝なのに鍵がかかってないの?

 イチカも不思議に思いながら、彼女の後に続いて中へ入った。

 カランカラン――。

 小さなベルが鳴って、来客を知らせた。  
 ルールーが手近にあった椅子に座ると、すぐにどこからか音もなく、かわいいフリルのついたメイド服を着た金髪のメイドさんが現れた。

「いつものを二つ頂戴。」

「かしこまりました。」

 金髪のメイドさんは無表情でテーブルに水の入ったグラスを置くと、注文を聞いてすぐに姿を消した。

 唖然とその様子を見ていたイチカに、ルールーは向かいの椅子をすすめてきた。

「なにぼーっと立ってるの。早く座りなさい。」

「えっと、それはいいんですけど……私、お金を持っていな――」

 イチカが言い終える前に、先ほどのメイドがいい匂いのする料理を二皿運んできた。

「さすがね。昔と変わらず、おいしそうだわ。」

 ルールーはそれだけ言うと、さっそく料理を食べ始めた。

「あら、イチカは食べないの?」

 ゴクリ――とイチカの喉が鳴った。

 ぐぅ~~。

 イチカはお腹を押さえながら、なんだか懐かしくもおいしい匂いのするお皿を見て、すぐに欲求に負けた。  
 ルールーの前に座ると、彼女と同じようにスプーンを手に取り、食事を始めた。

 イチカの口の中に、前世で食べたことのある懐かしいカレー味が広がった。

 ――見た目は紫色なのに、口の中に広がるこのカレー味は奇妙極まりないけど……うまい。

 イチカは途中から目をつぶると、ひたすらスプーンですくって食べた。  
 目さえ開けなければカレーなのだから、目さえ開けなければ……。

 カレー……久しぶりすぎて、涙が止まらない。  
 辛いから涙が出てるんじゃない。  
 でも、旨辛……うるるるん。

 イチカが目をつぶりながら食べている姿を、ルールーは懐かしそうに見つめていた。

 二人が食べ終わり、金髪のメイドさんが持ってきてくれた水を飲んでいると、いきなりバタバタとした音が聞こえてきた。

 そうイチカが認識した途端、ルールーに叫びながら抱きついた人物がいた。

「会いたかったわ、コナン!」

 ――コナン? 誰のこと?

 イチカの頭の中に、疑問符が浮かんだ。

 黒いローブを着た年齢不詳の人物は、ルールーの隣の席に座りながらも、上半身をぴったりとくっつけて、何やらぶつぶつとつぶやいていた。

「この引き締まった二の腕……がっしりしていたはずの肩……それでもって厚い胸……むね……ムネ!」

 途端にガバッと体を離すと、ルールーをガン見する。

「ちょ、ちょちょ……ちょっと何者なの!? わたくしのコナン様とまったく同じ魔質を持っているなんて! 彼の子供……いやぁーーーあり得ないわ! 私、生んでないし! それなら、なんで……?」

「それは……本人だからかしら?」

 ルールーはかわいく小首をかしげた。

「本人ですって!? ありえないわ! 彼は男! そりゃもう……すっごく、とびっきりのイイ男なのよ!」

「あらあら。年を取って耄碌したのかしら? コナンの契約者は男。私の契約書は、オ・ン・ナ、なのよ?」

「だから! コナン様がこの……この巨乳美女になっちゃったなんて、世の中ひどすぎる~~~!」

 うわーん!

「神も仏もいないなんて……なんてことなのよ~~~!」

 うわーん。  
 うわーん。  
 うわーん。  
 ぐっすん。

 両手を床につき、黒髪を振り乱しながら叫ぶその姿に、イチカはただただ唖然とするしかなかった。

 しばらくの間、小さな道の行き止まりにあるこぢんまりとしたお店から、不気味なうめき声が響いていた――。
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