8 / 14
8.前線の砦3_叡智の書、後継者現れる!
しおりを挟む丸坊主でいかつい顔の老兵士――マル・ボーズは、ルールーが砦を去った後、隊長室まで急いで戻ると、懐から机の引き出しの鍵を取り出し、カチャリと差し込んだ。
すると、軽い音と共に、机の上に青い水晶がふわりと浮かび上がった。
ゴクリ。
マルは額に汗をにじませながら、水晶に両手をかざし、唸るような声で呪文を唱え始めた。
「つながれーツナガレー、つながれーツナガレー……くそっ。
つながれーツナガレー、つながれーツナガレー……くそっ。
つながれーツナガレー、つながれーツナガレー……くそっ。
つながれーツナガレー、つながれーツナガレー……くそっ……!」
怨念じみた声でブツブツと呟きながら両手をかざし続けると、青い水晶からザーザーという耳障りな音が響き始め、やがてそれが人の声に変わった。
「ザーザー……あー……ボウズ……マル……ボウズ……。」
「辺境伯さま、マル・ボーズです。」
「おお、久しぶりだな、ボーズ!」
「辺境伯さま、短縮するなら“マル”でお願いします。」
「わかった、ボーズ!」
「マルです。おやっさん。」
「あーあー、“おやっさん”言うな、ボーズ。」
「だから“マル”ですって言ってるんだよ、オイ。」
「ああぁーオイ。誰に向かってタメ口を聞いてる!」
「すんません。とにかく、呼び名は“マル”でお願いします。」
「ああーなんだぁ、マル。それでこんな夜中に緊急通信なんかしやがって、何があった?」
「いいですかい。一回しか言わないんで、ちゃんと聞いてください。」
「ああーこんな真夜中なんだ。いいから早く言いやがれ。」
「……ゴニョニョ……!」
「はぁー、よく聞こえん。もう一度言いやがれ。」
「いいですか、おやっさん。正当な“叡智の書”の後継者が、この砦に現れました。」
「ああぁー? 正当な“叡智の書”の後継者が現れたって? ボーズ、寝ぼけるな! 寝言は寝てから言いやがれ。」
「いやー、なんと言いましょうか……。」
「オイ、寝ぼけてないなら、どんな人物なんだ?」
「絶世の美女を連れた……ガー……ザー……???」
「もう一度、詳しく説明し……やがれ……ガー……ザー……。」
「絶世の美女を連れた、小さなガキです。」
「絶世の美女を連れた小さなガキ? で、どっちが正当な“叡智の書”の後継者だって言ってたんだ?」
「おやっさん。俺自身は信じられませんが、ものすっごく強い絶世の美女本人じゃなく、棒切れみたいなガキがそうだと……。」
「……。」
水晶から音が途絶えた。
――あちゃー、やっぱりガセかよ。
「ザーザー……ああ、ボーズ……他に何か言ってなかったか?」
「正当な“叡智の書”の後継者とその相棒は同性同士だから、自分が女でも問題ないと……。
それと、この砦で寝言ほざいた二人が、自分たちを雇ってほしいそうです。」
「ザーザー……ああ、ボーズ……とりあえず、儂がそっちに行くまで、その二人を雇っておけ!」
「そうですよね、追い……へっ!? 雇うんですか?」
「そうだ。すぐにはそちらに行けないが、儂がそっちに行くまで、その二人を雇って、どこにも行かせないように見張りをつけておくんだ。」
「(゜Д゜)ハァ? なんか納得いきませんが、おやっさんがそうしろというなら、そうします。」
「必ずそうするんだ!」
「……わかりました。」
非常に納得できなかったマル・ボーズだが、臨時報告を終えて水晶通信を切った。
イチカとかいうガキが“叡智の書”の後継者かどうかは、マルにはまだ信じがたかったが、辺境伯からの命令は絶対だった。
――まあ、考えてもどうにもなるまい。
明日、砦の他の連中にも周知しなければならないか。
面倒が増えて嫌になるとブツブツ呟きながら、マルは戸棚に隠していた酒瓶を取り出し、寝酒代わりに瓶に口をつけてグビリと飲み干した。
「ぷはぁー、うめぇ……。」
どうでもいいけど、早くおやっさんにこっちに来てもらわないと、なんかまた起こりそうな気がするぜぇ……。
マルは酒瓶を抱えたまま長椅子に横たわると、窓の外に浮かぶ月をぼんやりと見上げながら、もう一口、酒を煽った。
0
あなたにおすすめの小説
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
デネブが死んだ
ありがとうございました。さようなら
恋愛
弟との思い出の土地で、ゆっくりと死を迎えるつもりのアデラインの隣の屋敷に、美しい夫婦がやってきた。
夫のアルビレオに強く惹かれるアデライン。
嫉妬心を抑えながら、妻のデネブと親友として接する。
アデラインは病弱のデネブを元気付けた。
原因となる病も完治した。それなのに。
ある日、デネブが死んだ。
ふわっとしてます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる