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12.北の辺境伯領主
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ゴールは辺境の砦からの緊急連絡を受けると、無言で踵を返し、まっすぐに辺境伯夫人であり、妻でもあるミリの執務室へ向かった。
「ミリ。入るぞ。」
「……珍しいわね。緊急かしら?」
「ああ、緊急だ。」
「仕方ないわね。入って頂戴。」
ゴールは無言で頷き、生肉と高級ワインを手に執務室へ入った。
「あら、あなたにしては気が利くじゃない。で、何があったの?」
ミリはゴールが差し出したワインを受け取ると、栓を抜き、ワイングラスに注いで一口飲んだ。
――うん、美味しい。
「“叡智の書”の後継者が現れた。」
「ゴフッ……ゴホッ、ゴホゴホ!」
「おい、大丈夫か。」
「ちょっと待って。あれって、もう何百年も現れてないって聞いてたんだけど?」
「俺もそう思ってた。だが、今回の報告は確かだ。信頼できる筋からの連絡だ。」
ミリはグラスを机に置き、ゴールが差し出したハンカチで口元をぬぐうと、深いため息をついて考え込んだ。
――“叡智の書”。
北の辺境伯領の初代が持っていた、人の姿をとる魔剣。
その出現は、魔獣の大暴走《スタンピード》の前兆とされている。
「……最悪のタイミングね。」
「まったくだ。」
「北の砦に、すぐに信用できる者を送らなきゃ。誰が適任かしら……」
ミリはすぐに二人の息子の顔を思い浮かべた。
「長男は王に頼まれて第三王子の監視も兼ねて、王都の騎士科に通ってる。今は呼び戻せないし……あなたの甥っ子、マティアスも素行に問題があるって報告が来てたわね。あれじゃ王都に置いておくしかないわ。」
「……あいつはダメだな。俺もそう思う。」
「となると、次男のトウキしかいないわね。」
「……トウキはまだ独り身だぞ。」
「わかってるわよ。でも、スターを呼び戻すわけにはいかないし、この件を放っておくわけにもいかないの。信用できる者、つまり身内に、“叡智の書”の所持者を見極めさせる必要があるでしょ?」
「……ああ、承知した。」
「それに、“叡智の書”の魅力に取り憑かれた者は、生涯独身になるって話じゃなかった?」
「……ああ。昔からそう言われてる。」
「しかも、今回の“叡智の書”の性別は“女”なんでしょ?」
「間違いねぇ。」
「はぁあ~……あなたといい、私は本当に男運がないのかしら。」
「……俺のことは、もういいだろ。」
「黙ってなさい。」
「……はい。」
ミリはゴールを一瞥すると、手をひらりと振って命じた。
「とにかく、すぐにトウキを呼んできてちょうだい。あと、念のためもう一人、補佐をつけるわ。」
「了解した。すぐに動く。」
ゴールは短く返事をすると、踵を返して執務室を後にした。
ミリはふと、北の辺境伯領の二代目が残した日記の一節を思い出し、疲れたように眉間を揉んだ。
「ミリ。入るぞ。」
「……珍しいわね。緊急かしら?」
「ああ、緊急だ。」
「仕方ないわね。入って頂戴。」
ゴールは無言で頷き、生肉と高級ワインを手に執務室へ入った。
「あら、あなたにしては気が利くじゃない。で、何があったの?」
ミリはゴールが差し出したワインを受け取ると、栓を抜き、ワイングラスに注いで一口飲んだ。
――うん、美味しい。
「“叡智の書”の後継者が現れた。」
「ゴフッ……ゴホッ、ゴホゴホ!」
「おい、大丈夫か。」
「ちょっと待って。あれって、もう何百年も現れてないって聞いてたんだけど?」
「俺もそう思ってた。だが、今回の報告は確かだ。信頼できる筋からの連絡だ。」
ミリはグラスを机に置き、ゴールが差し出したハンカチで口元をぬぐうと、深いため息をついて考え込んだ。
――“叡智の書”。
北の辺境伯領の初代が持っていた、人の姿をとる魔剣。
その出現は、魔獣の大暴走《スタンピード》の前兆とされている。
「……最悪のタイミングね。」
「まったくだ。」
「北の砦に、すぐに信用できる者を送らなきゃ。誰が適任かしら……」
ミリはすぐに二人の息子の顔を思い浮かべた。
「長男は王に頼まれて第三王子の監視も兼ねて、王都の騎士科に通ってる。今は呼び戻せないし……あなたの甥っ子、マティアスも素行に問題があるって報告が来てたわね。あれじゃ王都に置いておくしかないわ。」
「……あいつはダメだな。俺もそう思う。」
「となると、次男のトウキしかいないわね。」
「……トウキはまだ独り身だぞ。」
「わかってるわよ。でも、スターを呼び戻すわけにはいかないし、この件を放っておくわけにもいかないの。信用できる者、つまり身内に、“叡智の書”の所持者を見極めさせる必要があるでしょ?」
「……ああ、承知した。」
「それに、“叡智の書”の魅力に取り憑かれた者は、生涯独身になるって話じゃなかった?」
「……ああ。昔からそう言われてる。」
「しかも、今回の“叡智の書”の性別は“女”なんでしょ?」
「間違いねぇ。」
「はぁあ~……あなたといい、私は本当に男運がないのかしら。」
「……俺のことは、もういいだろ。」
「黙ってなさい。」
「……はい。」
ミリはゴールを一瞥すると、手をひらりと振って命じた。
「とにかく、すぐにトウキを呼んできてちょうだい。あと、念のためもう一人、補佐をつけるわ。」
「了解した。すぐに動く。」
ゴールは短く返事をすると、踵を返して執務室を後にした。
ミリはふと、北の辺境伯領の二代目が残した日記の一節を思い出し、疲れたように眉間を揉んだ。
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