復讐という料理は、冷えた時の方がおいしいのよ!

しゃもん

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60.黒幕を葬る。

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 モウモウとした煙が立ち込める中、パニックになった人々が、出口に殺到した。

 貴婦人たちの悲鳴が、会場中に響き渡る。

 王を守っていた近衛兵が慌てて、王と王妃を取り囲むと、彼らを避難させていた。

 なんとも焦げ臭いにおいする。

 そんな煙が渦巻く舞踏会会場の中央にいた王太子夫妻も、駆けつけた警護のものに囲まれ、王族専用の出口に向かっていた。

 ちっ。

 これじゃ、近寄れない。

 くそっ。

 このままだと、取り逃がしてしまう。

 無理を承知で、強引に、王太子夫妻を追うべきか?

 私は一瞬、逡巡した後、黒幕であるスコット=ヴィゴ伯爵とヴァイス=インヒト侯爵を追いかけることにした。

 王太子夫妻の警護は、今、かなり強固だ。

 ここで無理をすれば、帰って失敗する。

 でも、強固な警護も、日がたって落ち着けば、どうにかなる。

 思わず、ニヤリとした笑みがこぼれた。

 何といっても、彼らは、このマイルド国の王宮にいるんだから。

 後で、居場所を掴むことなど簡単だろう。

 それより、この状況に乗じて、黒幕の二人を追えば、あのふてぶてしい男二人を、いっぺんに始末できる。

 私は、一郎に目配せすると、人が殺到している出口とは、正反対の方向に向かった。

 この舞踏会の会場の前にある庭に出れば、そこには、秘密の抜け道があるのだ。

 私は、それを使って、一旦会場から出ると、もう一度、王宮の通路に入った。

「ご主人様。」
 一郎が、次郎の匂いを嗅ぎ分けて、私を消えた二人の場所に誘った。

 しばらく、走ると、周囲には、誰もいなくなっていた。

 なんで、こんな場所に?

 そこは、討ち捨てられた離宮がある一角だった。

 あまり手入れが行き届いていなかった為、花さえ植えられていない。

 なんとも、うら寂しい庭が広がっている場所だ。


「おい、どういう事だ。なんで王宮を攻撃する。話が違うぞ。」
 二人は、黒づくめの男に向かって、叫んでいた。

 誰だろうか?

 次郎と合流した私たち三人は、少し離れた所で、彼らの様子を窺った。

 黒づくめの男たちは、無言でインヒト侯爵に近づくと、いつの間に手にしたのか、短剣で彼の喉を切り裂こうとした。

 ヒィー

 侯爵は、意外に俊敏な身のこなしで、その剣を避けると、その場を駆け出した。

 それをすぐ隣で見ていたヴィゴ伯爵も慌てて、反対方向に、走り出した。

「おい。」
 黒づくめの男たちが、二方向に分かれて、彼らを追いかける。

 意外に足が速い、二人を刺客である彼らが、取り逃がしそうになっていた。

 おいおい。

 私は、今にも視界から消えて、見えなくなりそうな彼らの片足に、拘束魔法を放った。

 私が放った拘束魔法で、つんのめった彼らに、背後から黒づくめの男たちが襲いかかった。

 ギャー

 あっという間に、二人は刺客の男たちに、背後から斬りかかられた。

 黒づくめの男たちは、血もどろになった剣を引き抜くと、彼らの死体をそのまま置き去りに、その場を去って行った。

 私は彼らが、ここから離れ、見えなくなる瞬間。

 一番後方の男の靴に向け、追跡魔法を放った。

 男は気がついた様子もなく、そのままどこかに消えていった。

 よし。

 もう、大丈夫だろう。

 彼らが見えなくなってから、しばらくたって、壁際から開けた場所に出ると、殺された二人の傍に近寄った。

 一応、脈をとって見る。

 両方とも、脈がなかった。

 ほとんど自分の手を汚さずに、全て済んでしまった。

 よかったのか、悪かったのか?

 なんだか意気込んでいたので、少々、拍子抜けだ。

「ご主人様。」

 私は一郎に頷いて、その場を離れた。

 何時までも、ここにいては、王宮の警護隊に怪しまれる。

 でも、奴らはなんで、自分たちに味方していた人間を、この段階で始末したんだろう。

 まだまだ、利用価値があるはずなのに・・・。

 なんだか、嫌な感じがする。

 私たちは、一旦、舞踏会会場に戻ると、人ゴミに紛れて、王宮の外に出た。

 三郎も、途中で別れた次郎と連絡をとって、王宮の外で、私たちと合流した。

 私たちは、王宮から出ると、一旦、お店に戻ることにした。

 街中を歩いていると、いつもなら市民がぞろぞろと出歩いている場所なのに、そこには、一般市民といえる人間がいなかった。

 なんだ?

 何が起こっているの?

 背筋がゾワリとした。

 嫌な感じに、全身に鳥肌がたつ。

 私は、それでもゆっくり歩いて、その通りを過ぎた所で、ピタッと止まると、クルリと向きを変えた。

「ご主人様?」
 三人も慌てて、止まると方向をかえて、走り出した私の後をついて来る。

 私は真っ直ぐ、マッツさん達が拠点にしている宿屋に向かった。

 私が向かっている方向に気がついた三人は、何も言わず、私についてきた。

 すぐに宿屋が見えてきた。

 私たちは、宿屋の前で止まると、そのままの勢いで、建物の中に駈け込もうとして、閉まったドアに阻まれた。

 なんで、閉まってるの?

 トン、トト、トン。
 トン、トト、トン。

 一応、試しに、マッツさんから教わった暗号を打ってみるが、シーンして、何も返答がなかった。

 やっぱりいないようだ。

 何で?

 どういうこと?

「何か聞いてる?」
 私は傍にいた三人を見た。

 三人とも首を振った。

 うーん、理由はわからないけど、この街には、残っらない方が、いいみたいね。

「一旦、この街を出ましょう。」
 私たちは、人気のなくなった通りを抜けて、ここから一番近い、門に向け、走り出した。

 目指すは、国境沿いの砂漠だ。

 走りながら、心の中は、それ以上に急いていた。

 はやく、早くと。
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