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南部の「英雄」と黒人の淑女が結ばれる「恋物語」(*)
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薄明かりが、荒れ果てたテントを静かに照らしていた。
カリーナは、ベッドの上でうつ伏せに倒れたまま、身動きひとつできなかった。
乾ききった唇。乱れに乱れてほとんど解けた結い髪。灼けるような痛みを覚える身体。
指先さえ、震えるほどに力が入らない。
彼女が纏っていたはずのドレスは遠く床に放り捨てられ、シーツも乱れきり、夜の狂乱を物語っていた。
カリーナはかすかに眉を寄せた。
体を起こそうと試みたが、すぐにひきつれのような痛みが襲い、呻き声すら洩らせなかった。
(……動けない)
悔しさと屈辱で、胸の奥が焼けるようだった。
膣内や腹に注がれ乾いた体液、身体中に残る唾液の跡。おぞましいほどの執着心によって汚された身体。
今も肌に残された感触がよみがえるたびに、自尊心が粉々に砕かれていく。
シーツの中で指を握りしめ、爪が掌に食い込んだ。痛みだけが生きている証だった。それでも服を身につけようと無理に体を起こしたその瞬間、ランプの光が彼女を煌々と照らした。
「お目覚めですか、カリーナ嬢」
低い声が響き渡る。
カリーナは反射的に身を縮めた。だが、弱りきった体では、そばに落ちていた布団に顔を埋めることしかできない。
リーヴェルトはゆっくりと歩み寄ると、ランプをサイドテーブルの上に置いてベッドの縁に腰を下ろした。
そして愛おしげに、しかし遠慮なくカリーナの黒髪を撫でた。
「あなたと出会ってからずっと思い描いてきた淫らなあなたを、やっと……堪能できた! 本当にいい夜でしたよ」
彼は、湿った声で告げた。
カリーナは、ぼんやりと天井を見つめる。
動けない。体も、声も、何ひとつ。声を出すことすら許したくなかった。
リーヴェルトはそれを咎めることもなく、ただ優しく笑った。
リーヴェルトは彼女の手を取り、まるで壊れものを扱うように、指先に口づけた。
丁寧すぎるその仕草が、逆に、ぞっとするほどの支配を感じさせた。
指先が、頬を、顎を、首筋を、なぞる。まるで、自分の所有物を慈しむように。
もはや彼にとって、カリーナの抵抗は、儚い子供のわがままにしか見えない様子だった。
彼女は心を折られ、完全に自分のものになった──そう確信しているのだ。
隠れるカリーナを布団ごと引きずり、抱き寄せる。
裸の体を布越しに撫で回し体の豊かさを確かめながら、カリーナの頬に手を触れて、もう一度、熱く、長い口づけを唇に落とした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その少し前、某南軍再興派の本拠地。
リーヴェルトは配下の将校たちを前に腰を下ろしていた。室内には煙草の煙が漂い、誰もが疲れきった顔をしていたが、リーヴェルトの目だけは異様な光を放っていた。
「聞け、お前たち。俺たちが最後に頼れるものはもう、ただの銃でも旗でもない。象徴だ。希望の象徴が必要なんだ」
一人の将校が問う。
「…それが、カリーナ・ヴァン・レイン嬢かと?」
リーヴェルトはうっすらと笑みを浮かべた。
「そうだ。敵の将ヴァン・レインの娘にして、北部で『平和の聖母』などと持て囃された女が、今は俺の傍にいる。これは偶然ではない。運命だ。南部の運命だ。しかもあの女は、かのタイノ島の血を引いている。かつて奴隷の島と呼ばれた地から、黒人の血を、その高貴な魂に宿している。知性、気品、美貌――すべてを備えた女だ」
そう言ってからリーヴェルトは立ち上がる。コツ、コツ、と音を立てながらブーツを鳴らし、もったいぶるように口をつぐんだのち、片手をあげた。
「我々南部の紳士たちが彼女のすべてを受け入れることは、過去の贖罪ではなく未来への誓いだ。北部は黒人を解放するなどとほざきながら、自分たちのコミュニティに受け入れる気はさらさらない。差別と偏見に満ちた北部がその彼女を『聖母』と呼んだ欺瞞、反吐が出る! 正義は、我々南部とともにあるのだ!!」
言葉たちは力強く、まるでそこに真実が宿っているかのようだった。
「南部の紳士淑女は常に、黒人たちに住宅を、食を、幸せを与えてきた」
リーヴェルトは、南部の人間なら誰もが信じたがる美しい幻想を平然と口にした。
少年の頃に移民としてこのアーケディア国に渡ってきた彼は、その幻想の裏に横たわる数えきれない残虐と悲劇を、知識としてではなく肌身で知っていた。それでもそれは、自分には関係のないことだと冷ややかに見捨ててきた。そこに罪悪感は一片もなかった。
「そしてこれから、彼女のような身も心も美しき淑女を、我らは愛し、迎え入れる。これは我々がいかに高潔であるか、いかに変われるかの証明であり、世界に示すべき新しい南部のかたちだ。これは融合だ。あの女と俺の物語は、南部が立ち上がるための物語だ。復讐ではなく、再誕のための神話だ。…その舞台が、ここリオグランダなのだ」
「だが……彼女は心から我々に――いや、あなたに従っているのですか?」
リーヴェルトは再びどっかりと座り込む。椅子の背にもたれ、鼻で笑った。
「女心など、理屈ではない。彼女は俺に惹かれている。あの夜、捕らえた時の目を見た。恐怖と、それを超える何かがあった。尊敬と、恋慕。自分では気づいていないだけだ」
将校たちの間に微かな動揺が走ったが、リーヴェルトは続ける。
いっそ哀れとも呼ぶべき男の妄想は、とどまるところを知らなかった。
「これは単なる個人の問題ではない。我々はこの『恋』を、南部の物語にせねばならん。一度は『敗戦を認める』などという過ちを犯した南部が、北の誇った象徴を手に入れた。『勝利の証』。民衆は、真実より物語を信じる。そのために、この話はあくまでリオグランダ限定だ。カリーナの名が北に届けば、あの老いぼれヴァン・レインが軍を率いて乗り込んでくる。だがここリオグランダでは、彼女は我らが女神となる」
将校の一人が低く呟く。
「…それは、本当に勝利と言えるのでしょうか?」
リーヴェルトの目が鋭く光る。
「勝利とは、結果のことだ。正義ではない。誰が正しかったかなど、後の時代が決める。今は、我々が生き残るために勝たねばならん。そのために、あの女性を、いや、俺たちの『恋物語』を、利用する。それが南部再興の鍵になるのだ」
沈黙のなか、誰もがリーヴェルトの狂気と執念、そして冷徹な計算を感じ取っていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
昼頃、カリーナは無理やり起こされた。
まだ痛む体を引きずるように身を清め、ドレスを身につける。下着すら身に着けるのが苦痛だった。
「美しく装っていただかなくては。あなたは私の大切な誇りなのですから」
彼は、穏やかな声でそう言った。
だがその瞳は、冷酷な支配欲に満ちていた。
カリーナは、鏡に映る自分を見た。
深く刻まれた疲労の色。赤く腫れた瞼。痩せた肩。
(……これは私じゃない)
そう思った。
この身体も、心も、もはや自分のものではない。ただリーヴェルトという男の所有物に成り果てた。
何も感じまい、とカリーナは心に決めた。
感じれば、壊れてしまう。
だからせめて、心だけは閉ざす。何も思わず、ただ呼吸だけを繰り返す。
「おいでなさい、カリーナ嬢」
リーヴェルトが手を差し伸べる。カリーナは無言でその手を取った。機械人形のように、表情一つ動かさず。
外に出ると、待ち受けていた兵士たちが歓声を上げた。
リーヴェルトは誇らしげにカリーナの腰を抱き寄せ、皆に見せつけるように高らかに宣言した。
「この女性こそ、我らが南部の勝利の象徴、カリーナである。昨晩に神の名の下、我が妻となられた!」
兵士たちの喝采が空を割った。
カリーナはただ、無表情のまま立ち尽くした。心を、感じることを、殺して。
リーヴェルトの腕の中で、自分がただの「戦利品」になったことを、改めて思い知らされながら――。
「美人と毎晩ヤレるなんて、将軍がうらやましい!」
「俺にもやらせてくだせえ!!」
音もなく、テントの中へ男は勝手に忍び込んできた。
冷たく、重い足音が近づくたび、カリーナの全身が微かに震えた。
しかし、顔には何一つ出さない。出してはならないと、心に命じていた。
「カリーナ嬢」
リーヴェルトは丁寧な呼び方を崩さない。
それが却って、彼の冷酷さを際立たせた。
「……お疲れでしょうな。しかし私も、我慢できそうにありませんので」
そう言って、彼はカリーナの顎を無遠慮に掴み、無理やり顔を上げさせた。
彼女の瞳は、乾ききって何の光も宿していない。
それを見て、リーヴェルトは、ぞくりと悦びに震えた。
「本当に……なんと美しい。どれほど私を興奮させるか……カリーナ嬢、あなたにはお分かりにならないでしょうな」
唇が、再び無理やり重ねられる。
心を閉ざしたはずなのに、カリーナの奥底から、静かな絶望が滲み出してくる。
涙は、もう枯れ果てていた。
衣服が一枚ずつ剥がされ、無遠慮にベッドへ押し倒される。
痛みも、恐怖も、悲しみも、カリーナはすべて心の奥底へ押し込めた。
ただ、何も考えず、何も感じず、無になることだけを願っていた。
リーヴェルトは執拗に、冷酷に、彼女を貪った。
自分の所有物を、徹底的に刻みつけるように身体中を押し潰し、撫で回して、舐め、すする。
カリーナは、どこか遠いところで自分を見下ろしているような気がした。
もはやここにいるのは、彼女ではない。
ただ、リーヴェルトに蹂躙されるためだけの、名ばかりの「カリーナ嬢」。
(私は……もう、どこにもいない)
そう思った瞬間、カリーナの心は静かに、深く沈んでいった。
夜が更けても、リーヴェルトは満足しようとしなかった。
彼の欲望は底知れず、カリーナの身体を幾度も幾度も求めた。
そしてカリーナは、無感情のまま、それを受け入れ続けるしかなかった。
ただ、耐えるだけだった。
冷たい月光の下、心を殺して。
リーヴェルトは満足げに彼女の髪を撫でながら、彼女の乳首を舐めすすり、彼女の身体を揺する。
自分の手の中にある、か弱い存在を勝ち誇るように抱きしめながら。
その腕の中でカリーナは静かに目を開けた。濃い琥珀色の瞳に、絶対に屈しない意志を隠して。
──必ず、取り戻してみせる。
──私の自由も、私の誇りも、全部。
カリーナは、微かに唇を引き結んだ。
リーヴェルトは、まだそれに気づかない。
自分が手に入れたと信じて疑わない、美しい鳥が。今この瞬間も、檻の中で翼を研ぎ澄ませていることを。
カリーナは、ベッドの上でうつ伏せに倒れたまま、身動きひとつできなかった。
乾ききった唇。乱れに乱れてほとんど解けた結い髪。灼けるような痛みを覚える身体。
指先さえ、震えるほどに力が入らない。
彼女が纏っていたはずのドレスは遠く床に放り捨てられ、シーツも乱れきり、夜の狂乱を物語っていた。
カリーナはかすかに眉を寄せた。
体を起こそうと試みたが、すぐにひきつれのような痛みが襲い、呻き声すら洩らせなかった。
(……動けない)
悔しさと屈辱で、胸の奥が焼けるようだった。
膣内や腹に注がれ乾いた体液、身体中に残る唾液の跡。おぞましいほどの執着心によって汚された身体。
今も肌に残された感触がよみがえるたびに、自尊心が粉々に砕かれていく。
シーツの中で指を握りしめ、爪が掌に食い込んだ。痛みだけが生きている証だった。それでも服を身につけようと無理に体を起こしたその瞬間、ランプの光が彼女を煌々と照らした。
「お目覚めですか、カリーナ嬢」
低い声が響き渡る。
カリーナは反射的に身を縮めた。だが、弱りきった体では、そばに落ちていた布団に顔を埋めることしかできない。
リーヴェルトはゆっくりと歩み寄ると、ランプをサイドテーブルの上に置いてベッドの縁に腰を下ろした。
そして愛おしげに、しかし遠慮なくカリーナの黒髪を撫でた。
「あなたと出会ってからずっと思い描いてきた淫らなあなたを、やっと……堪能できた! 本当にいい夜でしたよ」
彼は、湿った声で告げた。
カリーナは、ぼんやりと天井を見つめる。
動けない。体も、声も、何ひとつ。声を出すことすら許したくなかった。
リーヴェルトはそれを咎めることもなく、ただ優しく笑った。
リーヴェルトは彼女の手を取り、まるで壊れものを扱うように、指先に口づけた。
丁寧すぎるその仕草が、逆に、ぞっとするほどの支配を感じさせた。
指先が、頬を、顎を、首筋を、なぞる。まるで、自分の所有物を慈しむように。
もはや彼にとって、カリーナの抵抗は、儚い子供のわがままにしか見えない様子だった。
彼女は心を折られ、完全に自分のものになった──そう確信しているのだ。
隠れるカリーナを布団ごと引きずり、抱き寄せる。
裸の体を布越しに撫で回し体の豊かさを確かめながら、カリーナの頬に手を触れて、もう一度、熱く、長い口づけを唇に落とした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その少し前、某南軍再興派の本拠地。
リーヴェルトは配下の将校たちを前に腰を下ろしていた。室内には煙草の煙が漂い、誰もが疲れきった顔をしていたが、リーヴェルトの目だけは異様な光を放っていた。
「聞け、お前たち。俺たちが最後に頼れるものはもう、ただの銃でも旗でもない。象徴だ。希望の象徴が必要なんだ」
一人の将校が問う。
「…それが、カリーナ・ヴァン・レイン嬢かと?」
リーヴェルトはうっすらと笑みを浮かべた。
「そうだ。敵の将ヴァン・レインの娘にして、北部で『平和の聖母』などと持て囃された女が、今は俺の傍にいる。これは偶然ではない。運命だ。南部の運命だ。しかもあの女は、かのタイノ島の血を引いている。かつて奴隷の島と呼ばれた地から、黒人の血を、その高貴な魂に宿している。知性、気品、美貌――すべてを備えた女だ」
そう言ってからリーヴェルトは立ち上がる。コツ、コツ、と音を立てながらブーツを鳴らし、もったいぶるように口をつぐんだのち、片手をあげた。
「我々南部の紳士たちが彼女のすべてを受け入れることは、過去の贖罪ではなく未来への誓いだ。北部は黒人を解放するなどとほざきながら、自分たちのコミュニティに受け入れる気はさらさらない。差別と偏見に満ちた北部がその彼女を『聖母』と呼んだ欺瞞、反吐が出る! 正義は、我々南部とともにあるのだ!!」
言葉たちは力強く、まるでそこに真実が宿っているかのようだった。
「南部の紳士淑女は常に、黒人たちに住宅を、食を、幸せを与えてきた」
リーヴェルトは、南部の人間なら誰もが信じたがる美しい幻想を平然と口にした。
少年の頃に移民としてこのアーケディア国に渡ってきた彼は、その幻想の裏に横たわる数えきれない残虐と悲劇を、知識としてではなく肌身で知っていた。それでもそれは、自分には関係のないことだと冷ややかに見捨ててきた。そこに罪悪感は一片もなかった。
「そしてこれから、彼女のような身も心も美しき淑女を、我らは愛し、迎え入れる。これは我々がいかに高潔であるか、いかに変われるかの証明であり、世界に示すべき新しい南部のかたちだ。これは融合だ。あの女と俺の物語は、南部が立ち上がるための物語だ。復讐ではなく、再誕のための神話だ。…その舞台が、ここリオグランダなのだ」
「だが……彼女は心から我々に――いや、あなたに従っているのですか?」
リーヴェルトは再びどっかりと座り込む。椅子の背にもたれ、鼻で笑った。
「女心など、理屈ではない。彼女は俺に惹かれている。あの夜、捕らえた時の目を見た。恐怖と、それを超える何かがあった。尊敬と、恋慕。自分では気づいていないだけだ」
将校たちの間に微かな動揺が走ったが、リーヴェルトは続ける。
いっそ哀れとも呼ぶべき男の妄想は、とどまるところを知らなかった。
「これは単なる個人の問題ではない。我々はこの『恋』を、南部の物語にせねばならん。一度は『敗戦を認める』などという過ちを犯した南部が、北の誇った象徴を手に入れた。『勝利の証』。民衆は、真実より物語を信じる。そのために、この話はあくまでリオグランダ限定だ。カリーナの名が北に届けば、あの老いぼれヴァン・レインが軍を率いて乗り込んでくる。だがここリオグランダでは、彼女は我らが女神となる」
将校の一人が低く呟く。
「…それは、本当に勝利と言えるのでしょうか?」
リーヴェルトの目が鋭く光る。
「勝利とは、結果のことだ。正義ではない。誰が正しかったかなど、後の時代が決める。今は、我々が生き残るために勝たねばならん。そのために、あの女性を、いや、俺たちの『恋物語』を、利用する。それが南部再興の鍵になるのだ」
沈黙のなか、誰もがリーヴェルトの狂気と執念、そして冷徹な計算を感じ取っていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
昼頃、カリーナは無理やり起こされた。
まだ痛む体を引きずるように身を清め、ドレスを身につける。下着すら身に着けるのが苦痛だった。
「美しく装っていただかなくては。あなたは私の大切な誇りなのですから」
彼は、穏やかな声でそう言った。
だがその瞳は、冷酷な支配欲に満ちていた。
カリーナは、鏡に映る自分を見た。
深く刻まれた疲労の色。赤く腫れた瞼。痩せた肩。
(……これは私じゃない)
そう思った。
この身体も、心も、もはや自分のものではない。ただリーヴェルトという男の所有物に成り果てた。
何も感じまい、とカリーナは心に決めた。
感じれば、壊れてしまう。
だからせめて、心だけは閉ざす。何も思わず、ただ呼吸だけを繰り返す。
「おいでなさい、カリーナ嬢」
リーヴェルトが手を差し伸べる。カリーナは無言でその手を取った。機械人形のように、表情一つ動かさず。
外に出ると、待ち受けていた兵士たちが歓声を上げた。
リーヴェルトは誇らしげにカリーナの腰を抱き寄せ、皆に見せつけるように高らかに宣言した。
「この女性こそ、我らが南部の勝利の象徴、カリーナである。昨晩に神の名の下、我が妻となられた!」
兵士たちの喝采が空を割った。
カリーナはただ、無表情のまま立ち尽くした。心を、感じることを、殺して。
リーヴェルトの腕の中で、自分がただの「戦利品」になったことを、改めて思い知らされながら――。
「美人と毎晩ヤレるなんて、将軍がうらやましい!」
「俺にもやらせてくだせえ!!」
音もなく、テントの中へ男は勝手に忍び込んできた。
冷たく、重い足音が近づくたび、カリーナの全身が微かに震えた。
しかし、顔には何一つ出さない。出してはならないと、心に命じていた。
「カリーナ嬢」
リーヴェルトは丁寧な呼び方を崩さない。
それが却って、彼の冷酷さを際立たせた。
「……お疲れでしょうな。しかし私も、我慢できそうにありませんので」
そう言って、彼はカリーナの顎を無遠慮に掴み、無理やり顔を上げさせた。
彼女の瞳は、乾ききって何の光も宿していない。
それを見て、リーヴェルトは、ぞくりと悦びに震えた。
「本当に……なんと美しい。どれほど私を興奮させるか……カリーナ嬢、あなたにはお分かりにならないでしょうな」
唇が、再び無理やり重ねられる。
心を閉ざしたはずなのに、カリーナの奥底から、静かな絶望が滲み出してくる。
涙は、もう枯れ果てていた。
衣服が一枚ずつ剥がされ、無遠慮にベッドへ押し倒される。
痛みも、恐怖も、悲しみも、カリーナはすべて心の奥底へ押し込めた。
ただ、何も考えず、何も感じず、無になることだけを願っていた。
リーヴェルトは執拗に、冷酷に、彼女を貪った。
自分の所有物を、徹底的に刻みつけるように身体中を押し潰し、撫で回して、舐め、すする。
カリーナは、どこか遠いところで自分を見下ろしているような気がした。
もはやここにいるのは、彼女ではない。
ただ、リーヴェルトに蹂躙されるためだけの、名ばかりの「カリーナ嬢」。
(私は……もう、どこにもいない)
そう思った瞬間、カリーナの心は静かに、深く沈んでいった。
夜が更けても、リーヴェルトは満足しようとしなかった。
彼の欲望は底知れず、カリーナの身体を幾度も幾度も求めた。
そしてカリーナは、無感情のまま、それを受け入れ続けるしかなかった。
ただ、耐えるだけだった。
冷たい月光の下、心を殺して。
リーヴェルトは満足げに彼女の髪を撫でながら、彼女の乳首を舐めすすり、彼女の身体を揺する。
自分の手の中にある、か弱い存在を勝ち誇るように抱きしめながら。
その腕の中でカリーナは静かに目を開けた。濃い琥珀色の瞳に、絶対に屈しない意志を隠して。
──必ず、取り戻してみせる。
──私の自由も、私の誇りも、全部。
カリーナは、微かに唇を引き結んだ。
リーヴェルトは、まだそれに気づかない。
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