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アーケディア国の、陸軍最高司令官ウィズウルブス将軍令嬢のエイミーは、本日をもってエイミーの夫となったアレックスとベッドで向き合った。
今日は、本当にすばらしい一日だった。皆が幸せそうに笑ってエイミーたちを祝福し、父はエイミーの花嫁姿を見て涙した。
そして、アレックスは。神の前で二人誓った時から、顔つきが少し変わったようだ。昔から、明るくておおらかな人だったが、なんだか頼れる雰囲気になったというか。
そんなアレックスの顔が、今は少し固くなっていて、エイミーは首を傾げた。
「アレックス、どうしたの?」
「……エイミーが今日、ずっときれいすぎて困ってる」
エイミーはなぜか、うれしくなってクスクスと笑った。
「なんだよ」
不貞腐れたように、アレックスが顔を背ける。
「私のこと、きれいって思ってくれてたの?」
「思ってるに決まってるだろ!エイミーが生まれた時から、なんてきれいな子だろうって、ずっと思ってた!」
「うれしいな。私もね、アレックスのこと、小さい時からずっと大好きだったよ」
アレックスが誰よりも大切だと気がついたのは、母クレアの死の真相を知った時のことだった。
「どうして? ママが何か悪いことしたの!? パパとママは、お互いが大好きだっただけなのに、なんで!?」
有色人種と結ばれた、「堕落した名家の令嬢」として、テロリストに無惨にも暗殺されてしまった、母。そのことを知り、一人隠れて泣くエイミーの元に、一番に来てくれたのはアレックスだった。抱きしめてくれたのも。
エイミーはその時に、この優しい男の子から、何があっても離れないと決意したのだ。
エイミーの幼い日の思い出は、つらい記憶と共に残った、宝物である。今でもその時の情景が、ありありと思い出される。
幸せだなあ、そう思っていると。
アレックスの顔がエイミーの前に降りてきて、ちゅ、と唇に口を触れた。
触れるだけの口付けは、頬にするのを含めると、幼いころから数え切れないほどしてきた二人だったので、エイミーはただ瞳を瞬かせた。
「そんなことばっかり言ってるんじゃねーぞ。お前今から何が始まるのか、本当にわかってんのか?」
「うーん、あんまりよくわかんない」
ベッドを共にする、その言葉の意味をエイミーは深く考えたことはなかったし、する必要性もあまり感じていなかった。きっと自分の相手はアレックスで、それは幸せな時間になるに違いないと確信していたのだ。
大人たちはというと、アレックスに全部任せれば大丈夫、とただその一言しか言わなかった。
「まじかよ……。全部、俺任せかよ。アデルさん、少しくらいは教えておけよ」
女子教育、問題あるんじゃねーの? などとぶつぶつ言い始めたアレックスをエイミーは不思議そうに見つめた。
「何すればいいの? アレックスは知ってる?」
エイミーの言葉にアレックスは、よし、と一つ頷いた。
「エイミー、その服脱いで」
「……はあああ!?」
思わずエイミーは、自分の体をぎゅっと抱きしめた。
「な、なに、なに、言ってんの!? 頭おかしくなった?」
「いや、大真面目。夫婦って、そういうもんなの。子ども作るために、それが必要なの。それとも、脱がせてもいい?て言うか、」
アレックスがエイミーの瞳をじっと見つめた。
「俺、エイミーの全部、見たい」
「ぜん、ぜん、ぶ、って、意味わかんないんだけど!」
「エイミーは? 俺のこと、もっと知りたくないか? 俺は、もっと、エイミーとつながりたい」
「……私が、お洋服を脱げば、そうなれるの?」
「うん」
言われたエイミーは覚悟を決めて、ドレスのボタンを一つ外そうとした。
指が震えていて、うまく動かない。
するとアレックスが、エイミーの頬に手を触れて、軽く口付けた。
ほっとして、そのキスに応じるように、エイミーは瞳を閉じる。頬に置かれていた手は、エイミーの頭をそっと撫でて、後頭部の赤髪を指に絡めながら、アレックスはそっとその舌をエイミーの口の中に差し込んだ。
「んんっ!? んむ、んん、ちょ、ちょっと!」
「なんだよ」
「ちょっと、なんかすごく、恥ずかしいんだけど!もうちょっと手加減できない?」
「いや、これでもだいぶ……、お前そろそろ黙って」
顔を赤く染めたアレックスは、そのままキスを続けながら、エイミーのドレスのボタンを外していった。
エイミーの肌がだんだんと現れていく様子に、エイミーは体を震わせた。
アレックスに全部任せるって、こういうこと? 恥ずかしすぎて、これだけで死んじゃいそうなんだけど。
「あ、」
エイミーは、一つ思いついて口を開いた。
「アレックスもお洋服脱げば、少しは私も恥ずかしくなくなるかも。そうしない?」
「………………」
沈黙である。じっとエイミーの瞳を見つめたまま、ひたすら無言である。圧さえ感じるアレックスの眼差しに、怖いもの知らずのエイミーも思わずたじろいだ。
「な、なによ。なんか変なこと言った?」
「まあ、いいけど」
そう言って、ばさっとジャケットを床に落とし、ベストを脱ぎ、ネクタイを外した。
「ほら、脱いだぞ。これでいいか?」
「……ううん。私こんな格好なのに、アレックスは全然じゃん。不公平だよ」
「本気で、勘弁してくれよ」
困りきった様子で、アレックスはくしゃりと自分の頭をかきあげた。
今日は、本当にすばらしい一日だった。皆が幸せそうに笑ってエイミーたちを祝福し、父はエイミーの花嫁姿を見て涙した。
そして、アレックスは。神の前で二人誓った時から、顔つきが少し変わったようだ。昔から、明るくておおらかな人だったが、なんだか頼れる雰囲気になったというか。
そんなアレックスの顔が、今は少し固くなっていて、エイミーは首を傾げた。
「アレックス、どうしたの?」
「……エイミーが今日、ずっときれいすぎて困ってる」
エイミーはなぜか、うれしくなってクスクスと笑った。
「なんだよ」
不貞腐れたように、アレックスが顔を背ける。
「私のこと、きれいって思ってくれてたの?」
「思ってるに決まってるだろ!エイミーが生まれた時から、なんてきれいな子だろうって、ずっと思ってた!」
「うれしいな。私もね、アレックスのこと、小さい時からずっと大好きだったよ」
アレックスが誰よりも大切だと気がついたのは、母クレアの死の真相を知った時のことだった。
「どうして? ママが何か悪いことしたの!? パパとママは、お互いが大好きだっただけなのに、なんで!?」
有色人種と結ばれた、「堕落した名家の令嬢」として、テロリストに無惨にも暗殺されてしまった、母。そのことを知り、一人隠れて泣くエイミーの元に、一番に来てくれたのはアレックスだった。抱きしめてくれたのも。
エイミーはその時に、この優しい男の子から、何があっても離れないと決意したのだ。
エイミーの幼い日の思い出は、つらい記憶と共に残った、宝物である。今でもその時の情景が、ありありと思い出される。
幸せだなあ、そう思っていると。
アレックスの顔がエイミーの前に降りてきて、ちゅ、と唇に口を触れた。
触れるだけの口付けは、頬にするのを含めると、幼いころから数え切れないほどしてきた二人だったので、エイミーはただ瞳を瞬かせた。
「そんなことばっかり言ってるんじゃねーぞ。お前今から何が始まるのか、本当にわかってんのか?」
「うーん、あんまりよくわかんない」
ベッドを共にする、その言葉の意味をエイミーは深く考えたことはなかったし、する必要性もあまり感じていなかった。きっと自分の相手はアレックスで、それは幸せな時間になるに違いないと確信していたのだ。
大人たちはというと、アレックスに全部任せれば大丈夫、とただその一言しか言わなかった。
「まじかよ……。全部、俺任せかよ。アデルさん、少しくらいは教えておけよ」
女子教育、問題あるんじゃねーの? などとぶつぶつ言い始めたアレックスをエイミーは不思議そうに見つめた。
「何すればいいの? アレックスは知ってる?」
エイミーの言葉にアレックスは、よし、と一つ頷いた。
「エイミー、その服脱いで」
「……はあああ!?」
思わずエイミーは、自分の体をぎゅっと抱きしめた。
「な、なに、なに、言ってんの!? 頭おかしくなった?」
「いや、大真面目。夫婦って、そういうもんなの。子ども作るために、それが必要なの。それとも、脱がせてもいい?て言うか、」
アレックスがエイミーの瞳をじっと見つめた。
「俺、エイミーの全部、見たい」
「ぜん、ぜん、ぶ、って、意味わかんないんだけど!」
「エイミーは? 俺のこと、もっと知りたくないか? 俺は、もっと、エイミーとつながりたい」
「……私が、お洋服を脱げば、そうなれるの?」
「うん」
言われたエイミーは覚悟を決めて、ドレスのボタンを一つ外そうとした。
指が震えていて、うまく動かない。
するとアレックスが、エイミーの頬に手を触れて、軽く口付けた。
ほっとして、そのキスに応じるように、エイミーは瞳を閉じる。頬に置かれていた手は、エイミーの頭をそっと撫でて、後頭部の赤髪を指に絡めながら、アレックスはそっとその舌をエイミーの口の中に差し込んだ。
「んんっ!? んむ、んん、ちょ、ちょっと!」
「なんだよ」
「ちょっと、なんかすごく、恥ずかしいんだけど!もうちょっと手加減できない?」
「いや、これでもだいぶ……、お前そろそろ黙って」
顔を赤く染めたアレックスは、そのままキスを続けながら、エイミーのドレスのボタンを外していった。
エイミーの肌がだんだんと現れていく様子に、エイミーは体を震わせた。
アレックスに全部任せるって、こういうこと? 恥ずかしすぎて、これだけで死んじゃいそうなんだけど。
「あ、」
エイミーは、一つ思いついて口を開いた。
「アレックスもお洋服脱げば、少しは私も恥ずかしくなくなるかも。そうしない?」
「………………」
沈黙である。じっとエイミーの瞳を見つめたまま、ひたすら無言である。圧さえ感じるアレックスの眼差しに、怖いもの知らずのエイミーも思わずたじろいだ。
「な、なによ。なんか変なこと言った?」
「まあ、いいけど」
そう言って、ばさっとジャケットを床に落とし、ベストを脱ぎ、ネクタイを外した。
「ほら、脱いだぞ。これでいいか?」
「……ううん。私こんな格好なのに、アレックスは全然じゃん。不公平だよ」
「本気で、勘弁してくれよ」
困りきった様子で、アレックスはくしゃりと自分の頭をかきあげた。
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