1 / 7
第一話
しおりを挟む
「ステファニィー、ステファニィーっ!! どこだ?」
城内の薄暗い廊下、そこに一人の男が居た。切れ切れになった吐息で婚約者の名を叫び、もう何時間も城内を駆け回っている。彼が最後に彼女のそのブロンズの髪を目にしたのは、二日も前の晩のことだ。
『西……サンフロントの洞窟……そこに………力……〝創世の石〟が……』
通りかかった扉の向こうから、年老いた老婆の声が漏れ聞こえて来た。――――呪術師だ。その特徴的なしゃがれ声には男にも覚えがあった。
『……それを用いれば、………力、…滅の石〟をも鎮められ…か?』
今度は先程よりも近い。扉のすぐ向こうからだ。老婆のものより幾分か若く、雑音の少ない、良く通る低声。この声にもまた、彼には聞き覚えがあった。
「ここにいらっしゃったのですか、国王!! ステファニィーを、姫を見かけませんでしたか!? 一昨日の晩から姿が見えないのです!」
扉を開け放ち尋ねると、廊下よりもさらに暗い部屋の中で、痛んだブロンズの髪がゆっくりと振り返る。精気のない青い瞳の中で、机上の蝋燭が揺れていた。
「あぁ、スティーブンか。婚約は、無しになった。あれのことは、……忘れろ」
「何をおっしゃっているのです! 式も間近だと言うのに――――」
「黙れ!!」
スティーブンの声を遮って、王の激しい怒声が飛ぶ。その濁った白眼は異様なまでに血走り、点のようになった瞳孔が絶え間なく震えていた。
「貴様、誰に口を利いていると思っているのだ! 今ここで、首を刎ねてやっても良いのだぞ!!」
鬼気迫る形相で立ち上がり、帯剣に手を掛ける王。鞘から抜き出た刃が闇の中で煌めき、スティーブンは狭い部屋の中であっという間に壁際まで追いやられてしまう。そして、振り上げられた刃先に今まさに切りつけられようと言う時、真横の扉が勢いよく開いた。
城内の薄暗い廊下、そこに一人の男が居た。切れ切れになった吐息で婚約者の名を叫び、もう何時間も城内を駆け回っている。彼が最後に彼女のそのブロンズの髪を目にしたのは、二日も前の晩のことだ。
『西……サンフロントの洞窟……そこに………力……〝創世の石〟が……』
通りかかった扉の向こうから、年老いた老婆の声が漏れ聞こえて来た。――――呪術師だ。その特徴的なしゃがれ声には男にも覚えがあった。
『……それを用いれば、………力、…滅の石〟をも鎮められ…か?』
今度は先程よりも近い。扉のすぐ向こうからだ。老婆のものより幾分か若く、雑音の少ない、良く通る低声。この声にもまた、彼には聞き覚えがあった。
「ここにいらっしゃったのですか、国王!! ステファニィーを、姫を見かけませんでしたか!? 一昨日の晩から姿が見えないのです!」
扉を開け放ち尋ねると、廊下よりもさらに暗い部屋の中で、痛んだブロンズの髪がゆっくりと振り返る。精気のない青い瞳の中で、机上の蝋燭が揺れていた。
「あぁ、スティーブンか。婚約は、無しになった。あれのことは、……忘れろ」
「何をおっしゃっているのです! 式も間近だと言うのに――――」
「黙れ!!」
スティーブンの声を遮って、王の激しい怒声が飛ぶ。その濁った白眼は異様なまでに血走り、点のようになった瞳孔が絶え間なく震えていた。
「貴様、誰に口を利いていると思っているのだ! 今ここで、首を刎ねてやっても良いのだぞ!!」
鬼気迫る形相で立ち上がり、帯剣に手を掛ける王。鞘から抜き出た刃が闇の中で煌めき、スティーブンは狭い部屋の中であっという間に壁際まで追いやられてしまう。そして、振り上げられた刃先に今まさに切りつけられようと言う時、真横の扉が勢いよく開いた。
0
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる