今、終わる世界。

羽川明

文字の大きさ
2 / 7

第二話

しおりを挟む
「国王、ベルフェゴール国王!! 非常事態です! 今朝がた、封印師ホミの棺を運んでいた馬車が盗賊団に襲撃されたとのことです!」
「なんだと!? そやつらの所在は分かっておるのか?」
「いえ、詳しいことはまだ……」
「……西じゃ。西に行けぇ!」
 連絡兵の声に被せるように、奥に座っていた呪術師が芝居がかった声で言う。
「西? まさか……」
 信じられないとばかりに目を見開く王。呪術師はそれに浅く頷いて答えると、しゃがれた声で続ける。
「サンフロントの洞窟。その最奥に、そやつらはおる。石も、そこにある」
「石?」
「貴様には関係のないことだ」
 王はスティーブンに睨みをきかせると、その視線をすぐに連絡兵の方へ移した。
「今すぐ騎兵隊を招集しろ!!」
 壁に掛けた厚手のマントを羽織りながら指示を仰ぎ、王はスティーブンの方にもう一度流し眼を寄こしてから部屋を出て行った。途端に生まれた静寂の中、呪術師が声を上げて不気味に笑い、スティーブンは隠すこともせず顔を顰めた。

           *

 サンフロントの洞窟。幼初期によく遊んでいた丘のふもとに、確かそんな名前の洞窟があった。雲一つない空の下、スティーブンは馬にまたがりながら当時を思い返す。
 ステファニィーと出会ったのもその頃だったはずだ。といっても、馬車の小窓で退屈そうにしている彼女を彼が一方的に見つめていたというだけだが。

「……着いたか」
 首の手綱を軽く引き、草原の上に降り立つと、青々と生い茂る草が衣服越しに肌を擽(くすぐ)った。
 青緑に埋もれ、どこから始まっているのか分からない緩やかな坂を上っていくと、やがて丘の上に辿り着いた。そのすぐ向こうは岩肌がむき出しになり、ほとんど崖と変わりない急勾配になっている。洞窟は恐らくこのふもとだろう。スティーブンは頂上付近でしゃがみ込み、一際背の高い草の根を掻き分けた。すると、草と岩肌の境目に、蛇の巣大の穴が現れる。
「まだあったか」
 スティーブンは安堵の溜め息をつき、その大人一人が肩を縮こまらせてなんとか入れるかと言う小ぶりな穴の淵に足を掛けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

処理中です...