僕だった俺。

羽川明

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 二日目  「変わり始めた明日」

その一

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 ――――起きると朝を通り越し昼になっていた。
 俺は今更帰る気も起きず、結局この宿で一夜を明かしていた。

 ……とうとうこの日が来てしまった。憂鬱ゆううつな気分になり、こうべを垂れる。
 そう、この日、もしこの日、俺が学校に戻らなければ、俺はもう絶対に戻れなくなる。
 なにせ今日は、定期テストの日だ。しかも主要三教科。もしそれらを全て白紙で提出すれば、退学は免(まぬが)れないだろう。まぁ、今更だけど。
 備え付けられた、画質が残念なことになっているブラウン管テレビを点けると昨日の昼ごろ○○高校の男子生徒が突然学校を抜けだし行方不明になっていると報道していた。学校から電話を受けた俺の両親が、あの後すぐ、警察に捜索願を出したらしい。
 いきなり窓から飛び降りたんだから無理もないが。
 画面が切り変わり、うちの学校を上空から生中継で映し始めた。見ていてあまり気分のいいものではなかったので、チャンネルを切り変えた。
 今度は俺が中学生ぐらいだったころに撮った写真がでかでかと映し出されていた。
 ほかのどのチャンネルも、同じようなものを報道していた。
 あるチャンネルでは、俺が街中を疾走しているのが目撃されたことから、何らかの精神的障害を抱えているのかもしれないと、偉そうな専門家たちが口々に話していた。
 またあるチャンネルでは、目撃者の証言をもとに俺がどのようなルートで走ったのかをパネルを使って考察していた。俺の居場所がバレるのも、時間の問題かもしれない。
 朝食を食べに行こうと食堂へ向かう途中、廊下ですれ違った宿屋の従業員から視線を感じた。怪しまれているとしても報道されている写真のほとんどは中学生の頃のもので、今とはかなり見ためが違うし、そう簡単に通報されたりはしないと思うが、食べ終わり次第すぐにこの宿を立ち去ることにした。
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