パラレヌ・ワールド

羽川明

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四章 「五光年先の遊園地」

その五

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「ン、どったの?」
 眠たげな眼をこすり、ぼんやりとした様子で画面を見るトモカさん。すぐに、その藍色の瞳が見開かれる。
『……うち一人は重傷で、男たちは、大柄な黒髪の男と口論になったと話しているということです。現在、警察は行方を追っています。近隣住民の皆さんは、戸締りなどに十分警戒し、警戒がとけるまで、三つ子山へは絶対に近づかないでください。繰り返します――――』
 緊迫した表情で原稿を読み上げる男性アナウンサー。その下では、目を引く赤い太枠の中に、『〝星の力〟を武力行使か?』と映し出されている。
 呆気(あっけ)にとられているうちに、画面が三つ子山の映像に切り替わった。
 ヘリで上空から撮影しているらしく、不気味な縄文杉モドキの根が周囲の木々をなだれのようになぎ倒してふもとを埋め尽くしている様子が画面いっぱいに映し出される。暗くてよく見えなかった昨日とは違い、被害の甚大さがはっきりとわかった。
『――――〝星の力〟の攻撃目的での使用は、太陽系特別不戦条約で固く禁じられており、太陽系連合は、場合によっては銀河規模の問題にも発展しかねないとの見方を示しています』
「緑を操る〝力〟なんて、珍しいですわね。緑神(りょくしん)でもあるまいし……」
「緑神(りょくしん)? 魚々乃女さん、何か知ってるんですか?」
「へ? えぇ、まぁ、水星に古くから伝わる、伝説程度のものですが……」
「聞かせてっ!」
 僕らの剣幕に圧倒されたのか、魚々乃女さんはきょとんとしたまま語り出す。
「――――その昔、自然を操る神様がいたとかなんとか…… なんでも、大地のごとき褐色(かっしょく)の肌に太陽のごとき黄金の瞳を宿して、頭からはツタやツルでできた緑色の髪を生やしていたと」
「その星人の〝星の力〟で、緑を操れたってことですか?」
「え、えぇ…… 星人というか、巨人というか。水星人でないのは間違いありませんわ」
「巨人? そんなデカいの?」
「……天に届くほどの身の丈で、腕を振って嵐を起こし、足で耕(たがや)して森を創ったとか。伝説ですので、本当かどうか。ただ、祀(まつ)られているのは確かですわ」
 部屋の扉が上品にノックされ、大貫さんの声がする。
『お嬢様。古都冥王という方がいらしています』
「学校のお友達です。通してくださいまし」
『かしこまりました』
 静かな足音が玄関の方へ向かって行き、二人分になって戻ってきた。
「お嬢様、失礼いたします。どうぞ、こちらです」
 控え目なノックの後、大貫さんは脇に立ったまま扉を開いて古都さんを中へ促(うなが)すと、深々と頭を下げてすぐに扉を閉めた。
 その間、魚々乃女さんはまったくの無反応だった。偶然居合わせた近所の人設定はもういいのだろうか。
「……すみません、遅くなりました」
「何かあったんですの?」
 聞かれると、古都さんはいたずらを誤魔化す小学生のような顔で視線をそらした。
「――――その、ちょっとだけ、……ケンカになっちゃいました」
「ケンカ?」
「はい。取り上げられた占いセットをこっそり奪い返そうとしたら、あとちょっとのところでお母さんに見つかっちゃいまして……」
「で、口論になったと?」
「いえ、お尻をペンペンされちゃいました」
 恥ずかしそうに赤くなりながらお尻をさする古都さん。……ちょっと想像してしまった。頭の中で危ない妄想が流れ出す前に、半ば強引に話題を変える。
「……そういえば、遊園地の方は行けそうですか?」
 今日の勉強会で集まったのが六人なのも、遊園地の予定をじっくり考えることが理由だった。
「はい。テスト後なら許してもらえそうです。あとは、天候さえ味方してくれれば。カズマ様はどうですか?」
 紫の瞳で上目づかいに見つめられ、耐性のない僕の心臓は簡単に跳ね上がる。最近はとくに多い気がした。
「あぁ、うん。僕も、テスト後の三連休なら大丈夫そう、かな?」
 どうしてか、背中に魚々乃女さんたちの視線を感じる。
「お二人はどうです?」
「ワタシも多分そんな感じ」
「同じく、ですわ」
 気のせいか、少し棘(とげ)のある言い方だった。
「なら、日曜日なんてどうでしょう?」
 しかし、古都さんの提案に不満の声は上がらなかった。
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