パラレヌ・ワールド

羽川明

文字の大きさ
38 / 57
四章 「五光年先の遊園地」

その六

しおりを挟む
「じゃあ、僕は、そろそろ……」
 立ち上がろうとする僕の腕に、必死の形相で魚々乃女さんが飛びつく。
「なんですか」
「泊っていって下さいまし」
「泊まれ」
「夜から大荒れだそうですし、泊りましょう、カズマ様」
 約一名、家主でもないのに命令形だった。
「……いえ、男女比一対三で寝泊まりとか、正直ハードル高いんで」
 本音だった。僕はラノベの主人公ではない。強いて言うならその友達ポジションだ。そして主人公にヒロインを奪われる。
「というか、なんでそんな全力で引きとめるんですか。樹里さんたちは普通に帰したのに」
 うっ、と言葉につまる一同。しかし即座に食い下がる。
「せ、せめてお風呂だけでも、お風呂でだけでもいかがです?」
「そ、そうですね、お風呂だけでも入った方が、いいと思いますよ?」
「ソーダソーダ、入れ」
 魚々乃女さんを含め六人分用意されているはずの夕食ならまだしも、頑(かたく)なに入浴をすすめられた。特に後半の二人は目が泳ぎっぱなしで落ち着きがない。トモカさんに至ってはなぜか鼻息を荒げていた。……怪しい。
「……お風呂に、何かあるんですか?」
「ナニもないよ」
「なんでトモカさんが答えるんですか」
「うっ」
「みっ、見えます! 間違いなく、何もありません」
「なんで古都さんが断言するんですか」
「はうっ」
 水晶代わりにふでばこの上で手を回していた。……球体でさえない。そんなもので何が見えるというんだろう。
「コイツ、強い!」
 苦しそうな顔で右肩を押さえるトモカさん。古都さんはなぜかファイティングポーズだ。
「う、うちのお風呂は、なんというかその、じっ、自慢ですの! 大きさとか、材質とか……」
「はぁ。……わかりましたよ、別に入らない理由もありませんし」
 結局渋々(しぶしぶ)承諾し、僕は魚々乃女さんに促されるまま脱衣所へ向かった。

 ――――扉を閉める寸前、三人が手を取り合ってなにやらニヤついているのが見えたが、きっと気のせいだろう。と、思うことにした。

           *

 数分後。脱衣所の固く閉ざされた扉の前に、三人の健全な女子高生たちが結集していた。
「――――のぞきましょう」
「「異議なし!!」」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...