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五章 「失われた色彩」
「Ⅵ」
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モニターは、照準に似た黄緑の円を映し出したまま沈黙していた。
『――――クソッ!!』
打ちつけられた拳に、悲鳴を上げる船内。等間隔に電子音を発していたスピーカーはひしゃげ、モニターの画面が砕け散って床に転がる。
さかさまになった外面とは違い、船内は常に水平を保っていた。冷凍睡眠装置などの精密機器は不時着の衝撃でおおむね破損したが、水平安定装置(スタビライザ)だけは生きていた。
『なぜだ! なぜ繋がらない!? ……あれは、なんなんだ? ――――父上が、あんなものを許すはずがない!!』
特別不戦条約。その名の意味はすぐに分かった。……間違いなく、敗者の背負う不平等条約だ。
宇宙人たちが闊歩(かっぽ)する街。
住み着いた黒髪の異星人。
戦争を、他人事のように見世物にする資料館。
そして、特別不戦条約。
壊れたスピーカーは、未だ健気(けなげ)に電子音を発してた。
しかしもはや、くぐもったノイズでしかない。
ひび割れ、むき出しになったモニターは、依然何の反応も示さなかった。
――――脳裏を過(よぎ)るのは、〝絶望〟という、最悪のシナリオ。
男は、とうに気づいていた。本当は、わかっていた。
変わり果てた木々を、草花を見たとき。出くわした、黒い異星人を見たとき。意図せず、母星を呼び出したとき。沸き起こる、未知の〝力〟を知ったとき。
男は、既に予感していた。
自分が、最後の一人かもしれないと。
ただ、男は信じたかった。
何一つ変わらない、頭上の星空を。緑溢れる、ただ一つの母星を。
――――突如鳴り出したけたたましい警告音に、意識が現実に引き戻される。
『……なんだ!?』
沈黙を破り、赤々と点滅するモニター。スピーカーのノイズが、判然としない何かを告げる。何度も繰り返されるそれは、男が発信した救難信号に何者かが気づいたに違いなかったが、好ましい反応でないことは明らかだった。苦渋の決断で乗せた位置情報を、敵軍が察知したのかも知れない。
背後で扉(ハッチ)がひとりでに閉まったかと思うと、船内を、ボゥという不気味な効果音が包んだ。
――――次の瞬間、嵐を裂いて飛来した光線(レーザー)が、宇宙艇(ロケット)を貫いて炸裂(さくれつ)した。
『――――クソッ!!』
打ちつけられた拳に、悲鳴を上げる船内。等間隔に電子音を発していたスピーカーはひしゃげ、モニターの画面が砕け散って床に転がる。
さかさまになった外面とは違い、船内は常に水平を保っていた。冷凍睡眠装置などの精密機器は不時着の衝撃でおおむね破損したが、水平安定装置(スタビライザ)だけは生きていた。
『なぜだ! なぜ繋がらない!? ……あれは、なんなんだ? ――――父上が、あんなものを許すはずがない!!』
特別不戦条約。その名の意味はすぐに分かった。……間違いなく、敗者の背負う不平等条約だ。
宇宙人たちが闊歩(かっぽ)する街。
住み着いた黒髪の異星人。
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そして、特別不戦条約。
壊れたスピーカーは、未だ健気(けなげ)に電子音を発してた。
しかしもはや、くぐもったノイズでしかない。
ひび割れ、むき出しになったモニターは、依然何の反応も示さなかった。
――――脳裏を過(よぎ)るのは、〝絶望〟という、最悪のシナリオ。
男は、とうに気づいていた。本当は、わかっていた。
変わり果てた木々を、草花を見たとき。出くわした、黒い異星人を見たとき。意図せず、母星を呼び出したとき。沸き起こる、未知の〝力〟を知ったとき。
男は、既に予感していた。
自分が、最後の一人かもしれないと。
ただ、男は信じたかった。
何一つ変わらない、頭上の星空を。緑溢れる、ただ一つの母星を。
――――突如鳴り出したけたたましい警告音に、意識が現実に引き戻される。
『……なんだ!?』
沈黙を破り、赤々と点滅するモニター。スピーカーのノイズが、判然としない何かを告げる。何度も繰り返されるそれは、男が発信した救難信号に何者かが気づいたに違いなかったが、好ましい反応でないことは明らかだった。苦渋の決断で乗せた位置情報を、敵軍が察知したのかも知れない。
背後で扉(ハッチ)がひとりでに閉まったかと思うと、船内を、ボゥという不気味な効果音が包んだ。
――――次の瞬間、嵐を裂いて飛来した光線(レーザー)が、宇宙艇(ロケット)を貫いて炸裂(さくれつ)した。
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