パラレヌ・ワールド

羽川明

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五章 「失われた色彩」

その七

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「――――なんだ? 今の」
 荒れ狂う嵐の中、二人の木星人と一人の冥王星人は、三つ子山の頂上にて、生き残った花々にブルーシートをかぶせて回っていた。吹きつける風と豪雨のせいで、昼前にもかかわらず視界が悪かった。
「もう、樹理さん。手伝ってください」
 作業の手を止めた樹理に、重りのつけもの石を抱えた万美が口を尖らせる。
「あぁ、悪い。……なぁ、今さっき、なんか聞こえなかったか?」 
「へ? 気のせいじゃないですか?」
「――――いえ、気のせいじゃありません!」
 二人の会話に割って入ったのは、一人しゃがみ込む古都だった。足元に転がるつけもの石を水晶に見立て、何やら占い師のように手のひらをまわしている。
「…………お前さっきからなにやってんだ?」
「占いです」
「仕事しろ」
 真顔で答える古都冥王に、樹理は即答する。
「見えます、見えます! ……押し寄せる、UFOの群れが! ――――はうっ!?」
 樹理に丸めたブルシートの筒ではたかれ、姿勢を崩してひっくり返る古都。
「仕事しろっつの。……ったく、何のために呼んだんだか――――」

 ――――振り返った樹理の目の前に、レーザービームが飛来した。

「うわっ!!」
「樹理さん!?」
「危険です!」
 古都は足をすべらせた樹理を咄嗟(とっさ)に抱きとめると、即座に茂(しげ)みの中へ引き込む。レーザーの着弾点は、クレーターのようにえぐれていた。
「きゃっ!?」
 数秒後、花畑めがけて再び数発のレーザービームが飛来する。それらは万美を取り囲むように弾けると、小爆発によって地面を吹き飛ばした。
「万美! 〝星の力〟だっ!!」
「はいっ!!」
 叫ぶ樹理に、万美は土煙りの中で答える。
 数秒後、吹きすさぶ風を無視するように、晴れた土煙りを噴き出した白煙が塗り替える。白煙は嵐をも意に返さずあっという間に周囲一帯に広がると、意志を持つように塊のまま浮き上がり、山の頂上を屋根のように漂い始めた。それこそが、万美の〝星の力〟だった。
 やがて白煙の中心から、息を切らした万美が現れる。嵐に弄(もてあそ)ばれた長髪が、真後ろに向けてはためく中、決然(けつぜん)と見開かれた瞳には、木星が映し出されていた。


「――――私たちはここに残ります! 冥王(みお)さんは逃げてくださいっ!!」
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