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五章 「失われた色彩」
その十四(改稿)
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暴れ蠢く緑の嵐を掻き分けて、僕は山道を駆け上った。
目に映るのは、元あった草木を呑み、大地を犯す緑。ツルやツタ、枝葉が生き物のようにうねって濁流のごとく押し寄せてくるのだ。そこに、もはや生命としての美しさはなかった。
残酷で横暴で醜い。荒々しくも美しさを残していたあの縄文杉モドキのほうがましだ。
草木が覆う夕焼けの向こうに、浮かび上がる黒い惑星が見えた。
沈みゆく太陽に照らされ、今は青く輝く海に緑を茂らせている。
――――それは、紛れもなく〝地球〟だった。
〝星の力〟で呼び出される星は、理想をかたどった分身のようなものなのだ。
唐突に視界が晴れ、頂上に着いたと気づいた瞬間、僕は叫んだ。
「――――やめろ、黒い異星人!!」
いいや。目の前に立ちはだかるそれは、もはや〝黒〟くも〝異星人〟でもなかった。
大地のごとく赤くひび割れた褐色(かっしょく)の肌に、眩むような黄金の瞳。そして、髪の毛に当たる位置からは、ツタやツルなどの緑が生い茂り、岩山のような肩の下まで垂れ下がっている。
五メートルを超える長身の巨人は、途方もない神々しさを湛(たた)え、はるか先から僕を見降ろしていた。
『――――それは、お前の方だろう!?』
はっきりと、そう聞こえた。言語の壁を越えて、頭に直接響き渡る。
法則を凌駕(りょうが)する力。それこそが、〝星の帝王〟の〝力〟だ。
「お前が望んだのは、こんなことだったのか!?」
それでも、力の限り叫んだ。例え相手が、宇宙を統(す)べる存在だろうとも。
『……私は、ただ、――――愛したものを、守りたかっただけだっ!!』
「そんなの、誰だって同じだ!」
『……ならば止めてみろ。――――この、〝生命の嵐〟を!!』
「ぐっ!!」
塊(かたまり)のような突風が吹いて、僕は数メートル先に吹き飛ばされた。幹に背中を強打して、肺の空気が押し出されてからっぽになる。
あっという間に血の気が失せて、みるみる意識が遠のいていく。
そんなとき、あの時の母さんの言葉が、走馬灯のようによみがえった。
『――――カズマ、もしもあなたに、大切な人ができたら。
あなたの〝力〟は、その人のために、使ってあげて……』
「――――母さんっ、母さん!! ……僕に、力を、くださいっ!!」
そのとき。首から下げたペンダントが、赤く光ってドロリと溶けた。
湧き上がる力が、マグマのように熱い血液となって全身を駆け巡る。
視界の端で揺れる前髪が、芯まで赤く染まった。
僕の目にはきっと、虹彩いっぱいに母星が映し出されていることだろう。
――――赤々と光る、火星が。
『……なぜだ、なぜ抗う? 母星を取り返すことの、何が悪いというのだ!?』
みんな違ってみんな良いと言えば、それは嘘になる。
違いで傷つく人だって、違いで悲しむ人だって、この広い宇宙にはきっといる。
けれど。
「――――みんな違って、みんな特別で! それが普通なんだっ!!」
だから。
「――――〝違い〟を、否定することを、僕は許さない」
次の瞬間、爆炎が空を吹き飛ばして、円状に燃え広がる炎の渦が、すべてを焼き尽くした。
目に映るのは、元あった草木を呑み、大地を犯す緑。ツルやツタ、枝葉が生き物のようにうねって濁流のごとく押し寄せてくるのだ。そこに、もはや生命としての美しさはなかった。
残酷で横暴で醜い。荒々しくも美しさを残していたあの縄文杉モドキのほうがましだ。
草木が覆う夕焼けの向こうに、浮かび上がる黒い惑星が見えた。
沈みゆく太陽に照らされ、今は青く輝く海に緑を茂らせている。
――――それは、紛れもなく〝地球〟だった。
〝星の力〟で呼び出される星は、理想をかたどった分身のようなものなのだ。
唐突に視界が晴れ、頂上に着いたと気づいた瞬間、僕は叫んだ。
「――――やめろ、黒い異星人!!」
いいや。目の前に立ちはだかるそれは、もはや〝黒〟くも〝異星人〟でもなかった。
大地のごとく赤くひび割れた褐色(かっしょく)の肌に、眩むような黄金の瞳。そして、髪の毛に当たる位置からは、ツタやツルなどの緑が生い茂り、岩山のような肩の下まで垂れ下がっている。
五メートルを超える長身の巨人は、途方もない神々しさを湛(たた)え、はるか先から僕を見降ろしていた。
『――――それは、お前の方だろう!?』
はっきりと、そう聞こえた。言語の壁を越えて、頭に直接響き渡る。
法則を凌駕(りょうが)する力。それこそが、〝星の帝王〟の〝力〟だ。
「お前が望んだのは、こんなことだったのか!?」
それでも、力の限り叫んだ。例え相手が、宇宙を統(す)べる存在だろうとも。
『……私は、ただ、――――愛したものを、守りたかっただけだっ!!』
「そんなの、誰だって同じだ!」
『……ならば止めてみろ。――――この、〝生命の嵐〟を!!』
「ぐっ!!」
塊(かたまり)のような突風が吹いて、僕は数メートル先に吹き飛ばされた。幹に背中を強打して、肺の空気が押し出されてからっぽになる。
あっという間に血の気が失せて、みるみる意識が遠のいていく。
そんなとき、あの時の母さんの言葉が、走馬灯のようによみがえった。
『――――カズマ、もしもあなたに、大切な人ができたら。
あなたの〝力〟は、その人のために、使ってあげて……』
「――――母さんっ、母さん!! ……僕に、力を、くださいっ!!」
そのとき。首から下げたペンダントが、赤く光ってドロリと溶けた。
湧き上がる力が、マグマのように熱い血液となって全身を駆け巡る。
視界の端で揺れる前髪が、芯まで赤く染まった。
僕の目にはきっと、虹彩いっぱいに母星が映し出されていることだろう。
――――赤々と光る、火星が。
『……なぜだ、なぜ抗う? 母星を取り返すことの、何が悪いというのだ!?』
みんな違ってみんな良いと言えば、それは嘘になる。
違いで傷つく人だって、違いで悲しむ人だって、この広い宇宙にはきっといる。
けれど。
「――――みんな違って、みんな特別で! それが普通なんだっ!!」
だから。
「――――〝違い〟を、否定することを、僕は許さない」
次の瞬間、爆炎が空を吹き飛ばして、円状に燃え広がる炎の渦が、すべてを焼き尽くした。
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