56 / 57
五章 「失われた色彩」
その十四(改稿)
しおりを挟む
暴れ蠢く緑の嵐を掻き分けて、僕は山道を駆け上った。
目に映るのは、元あった草木を呑み、大地を犯す緑。ツルやツタ、枝葉が生き物のようにうねって濁流のごとく押し寄せてくるのだ。そこに、もはや生命としての美しさはなかった。
残酷で横暴で醜い。荒々しくも美しさを残していたあの縄文杉モドキのほうがましだ。
草木が覆う夕焼けの向こうに、浮かび上がる黒い惑星が見えた。
沈みゆく太陽に照らされ、今は青く輝く海に緑を茂らせている。
――――それは、紛れもなく〝地球〟だった。
〝星の力〟で呼び出される星は、理想をかたどった分身のようなものなのだ。
唐突に視界が晴れ、頂上に着いたと気づいた瞬間、僕は叫んだ。
「――――やめろ、黒い異星人!!」
いいや。目の前に立ちはだかるそれは、もはや〝黒〟くも〝異星人〟でもなかった。
大地のごとく赤くひび割れた褐色(かっしょく)の肌に、眩むような黄金の瞳。そして、髪の毛に当たる位置からは、ツタやツルなどの緑が生い茂り、岩山のような肩の下まで垂れ下がっている。
五メートルを超える長身の巨人は、途方もない神々しさを湛(たた)え、はるか先から僕を見降ろしていた。
『――――それは、お前の方だろう!?』
はっきりと、そう聞こえた。言語の壁を越えて、頭に直接響き渡る。
法則を凌駕(りょうが)する力。それこそが、〝星の帝王〟の〝力〟だ。
「お前が望んだのは、こんなことだったのか!?」
それでも、力の限り叫んだ。例え相手が、宇宙を統(す)べる存在だろうとも。
『……私は、ただ、――――愛したものを、守りたかっただけだっ!!』
「そんなの、誰だって同じだ!」
『……ならば止めてみろ。――――この、〝生命の嵐〟を!!』
「ぐっ!!」
塊(かたまり)のような突風が吹いて、僕は数メートル先に吹き飛ばされた。幹に背中を強打して、肺の空気が押し出されてからっぽになる。
あっという間に血の気が失せて、みるみる意識が遠のいていく。
そんなとき、あの時の母さんの言葉が、走馬灯のようによみがえった。
『――――カズマ、もしもあなたに、大切な人ができたら。
あなたの〝力〟は、その人のために、使ってあげて……』
「――――母さんっ、母さん!! ……僕に、力を、くださいっ!!」
そのとき。首から下げたペンダントが、赤く光ってドロリと溶けた。
湧き上がる力が、マグマのように熱い血液となって全身を駆け巡る。
視界の端で揺れる前髪が、芯まで赤く染まった。
僕の目にはきっと、虹彩いっぱいに母星が映し出されていることだろう。
――――赤々と光る、火星が。
『……なぜだ、なぜ抗う? 母星を取り返すことの、何が悪いというのだ!?』
みんな違ってみんな良いと言えば、それは嘘になる。
違いで傷つく人だって、違いで悲しむ人だって、この広い宇宙にはきっといる。
けれど。
「――――みんな違って、みんな特別で! それが普通なんだっ!!」
だから。
「――――〝違い〟を、否定することを、僕は許さない」
次の瞬間、爆炎が空を吹き飛ばして、円状に燃え広がる炎の渦が、すべてを焼き尽くした。
目に映るのは、元あった草木を呑み、大地を犯す緑。ツルやツタ、枝葉が生き物のようにうねって濁流のごとく押し寄せてくるのだ。そこに、もはや生命としての美しさはなかった。
残酷で横暴で醜い。荒々しくも美しさを残していたあの縄文杉モドキのほうがましだ。
草木が覆う夕焼けの向こうに、浮かび上がる黒い惑星が見えた。
沈みゆく太陽に照らされ、今は青く輝く海に緑を茂らせている。
――――それは、紛れもなく〝地球〟だった。
〝星の力〟で呼び出される星は、理想をかたどった分身のようなものなのだ。
唐突に視界が晴れ、頂上に着いたと気づいた瞬間、僕は叫んだ。
「――――やめろ、黒い異星人!!」
いいや。目の前に立ちはだかるそれは、もはや〝黒〟くも〝異星人〟でもなかった。
大地のごとく赤くひび割れた褐色(かっしょく)の肌に、眩むような黄金の瞳。そして、髪の毛に当たる位置からは、ツタやツルなどの緑が生い茂り、岩山のような肩の下まで垂れ下がっている。
五メートルを超える長身の巨人は、途方もない神々しさを湛(たた)え、はるか先から僕を見降ろしていた。
『――――それは、お前の方だろう!?』
はっきりと、そう聞こえた。言語の壁を越えて、頭に直接響き渡る。
法則を凌駕(りょうが)する力。それこそが、〝星の帝王〟の〝力〟だ。
「お前が望んだのは、こんなことだったのか!?」
それでも、力の限り叫んだ。例え相手が、宇宙を統(す)べる存在だろうとも。
『……私は、ただ、――――愛したものを、守りたかっただけだっ!!』
「そんなの、誰だって同じだ!」
『……ならば止めてみろ。――――この、〝生命の嵐〟を!!』
「ぐっ!!」
塊(かたまり)のような突風が吹いて、僕は数メートル先に吹き飛ばされた。幹に背中を強打して、肺の空気が押し出されてからっぽになる。
あっという間に血の気が失せて、みるみる意識が遠のいていく。
そんなとき、あの時の母さんの言葉が、走馬灯のようによみがえった。
『――――カズマ、もしもあなたに、大切な人ができたら。
あなたの〝力〟は、その人のために、使ってあげて……』
「――――母さんっ、母さん!! ……僕に、力を、くださいっ!!」
そのとき。首から下げたペンダントが、赤く光ってドロリと溶けた。
湧き上がる力が、マグマのように熱い血液となって全身を駆け巡る。
視界の端で揺れる前髪が、芯まで赤く染まった。
僕の目にはきっと、虹彩いっぱいに母星が映し出されていることだろう。
――――赤々と光る、火星が。
『……なぜだ、なぜ抗う? 母星を取り返すことの、何が悪いというのだ!?』
みんな違ってみんな良いと言えば、それは嘘になる。
違いで傷つく人だって、違いで悲しむ人だって、この広い宇宙にはきっといる。
けれど。
「――――みんな違って、みんな特別で! それが普通なんだっ!!」
だから。
「――――〝違い〟を、否定することを、僕は許さない」
次の瞬間、爆炎が空を吹き飛ばして、円状に燃え広がる炎の渦が、すべてを焼き尽くした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる