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一章 「世界征服はホドホドに」
その三
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「ダイジョウブ?」
「え? ……あれ」
突然、視界が半透明の虹色で満たされたかと思うと、パンと小さく弾ける音がして、僕は道の脇で茂みを背にへたり込んでいた。差し伸べられる、透き通るようなきめ細かい肌。顔を上げると、濃い青色の髪の女の子が、同じ色をした大きな瞳で僕を覗き込んでくる。……息がかかるような距離に、胸が高鳴った。
女の子の方は、両サイドを触覚のように垂らし、まゆ毛の上で軽く切りそろえられた前髪が夜風になびている以外、身じろぎもしない。見開かれた丸い瞳は、少し眠そうだ。
「あっ、あぁ。……大丈夫、ありがとう」
手を取るか迷って、結局自力で立ち上がると、女の子の髪が後ろで団子にまとめられているのがわかった。付け根には流れ星の髪留めが刺さっている。
「それより、さっきのって」
「ウン?」
僕に合わせて立ち上がり、少し考えた後、女の子は『あぁ、あれか』という顔になる。
「フライドポテトっ!」
「え?」
「……が食べたい」
「知らないよ」
言っているそばからおなかが鳴った。どうも本当に食べたいらしい。
「クッキーならあるけど、いる?」
「うん」
女の子は目を合わせたまままったく首を動かさずに答えた。
*
木の少ない開けた斜面に並んで座り、僕らはクッキーを片手に夜空を見上げていた。話しているうちに、人口流星群のことはもうどうでも良くなっていた。
「――――それで、さっきのシャボン玉だけど、ひょっとしてあれって……」
「あぁ、ホレ?」
言いながら、女の子は口の中からキャンディの棒を突き出した。さっきまで棒ごと口に含んでいたようだ。女の子は端を指でつまんでから吐き出し、手に持って構えた。良く見ればそれはシャボン玉をつくるストローで、飲み込んでいた方の先端に、小さな輪(わ)っかが付いていた。
「ワタシはスイセイ人なのです」
「え、どっちの?」
聞くと、女の子はクッキーを一つ取ってから立ち上がって、くるりと回ってからお団子の髪留めを指差す。僕の視線は翻(ひるがえ)ったチェックのスカートに釘づけだった。
「彗星人、ってことですか?」
「ソ。〝藍色の彗星人〟米津トモカ。十六歳。アナタは?」
脈絡のない自己紹介に戸惑いつつも、僕は座ったまま答えた。
「僕は、えっと、〝黒い〟地球人の伊瀬カズマ、同い年です」
ゲンタが〝白い月星人〟なら、この人は〝藍色の彗星人〟というわけだ。そして地球生まれ地球育ちの僕は、〝星の力〟を持っていないから〝黒い〟地球人。ちなみに、ゲンタもトモカさんも、〝星の力〟を得る前は〝黒い〟月星人、〝黒い〟彗星人だったことになる。〝黒〟はそういう位置づけなのだ。
「フーン。ジャ宇宙へは行ったことないの?」
「うん、僕はね。両親はいろんな星を飛び回ってたみたいだけど」
「それで、このキャンディストローだけど」
「あぁ、それ、そんな名前なんだ……」
「うん。これね、ワタシの〝星の力〟なの」
やっぱりそうか。一見何の変哲もない黄緑のストローも、〝星の力〟なら話は別だ。自転車を止めるくらい造作もない。
「ちなみにだけど、〝シャボン弾〟っていうのさ」
自慢げに胸を張るトモカさんは、誇らしげだった。
「そうですか」
〝星の力〟を持たない僕には、うらやましい限りだ。
「オイ、冷たいな」
「そうですか?」
「冷たいよ」
「そうですか」
「ちょい、手抜きかね?」
頬(ほほ)をふくらませてむくれていたトモカさんが、不意に空を見つめて満面の笑みを浮かべた。つられて夜空を見上げると、無数の人口流星群が、天の川を模して流れ始めた。
「え? ……あれ」
突然、視界が半透明の虹色で満たされたかと思うと、パンと小さく弾ける音がして、僕は道の脇で茂みを背にへたり込んでいた。差し伸べられる、透き通るようなきめ細かい肌。顔を上げると、濃い青色の髪の女の子が、同じ色をした大きな瞳で僕を覗き込んでくる。……息がかかるような距離に、胸が高鳴った。
女の子の方は、両サイドを触覚のように垂らし、まゆ毛の上で軽く切りそろえられた前髪が夜風になびている以外、身じろぎもしない。見開かれた丸い瞳は、少し眠そうだ。
「あっ、あぁ。……大丈夫、ありがとう」
手を取るか迷って、結局自力で立ち上がると、女の子の髪が後ろで団子にまとめられているのがわかった。付け根には流れ星の髪留めが刺さっている。
「それより、さっきのって」
「ウン?」
僕に合わせて立ち上がり、少し考えた後、女の子は『あぁ、あれか』という顔になる。
「フライドポテトっ!」
「え?」
「……が食べたい」
「知らないよ」
言っているそばからおなかが鳴った。どうも本当に食べたいらしい。
「クッキーならあるけど、いる?」
「うん」
女の子は目を合わせたまままったく首を動かさずに答えた。
*
木の少ない開けた斜面に並んで座り、僕らはクッキーを片手に夜空を見上げていた。話しているうちに、人口流星群のことはもうどうでも良くなっていた。
「――――それで、さっきのシャボン玉だけど、ひょっとしてあれって……」
「あぁ、ホレ?」
言いながら、女の子は口の中からキャンディの棒を突き出した。さっきまで棒ごと口に含んでいたようだ。女の子は端を指でつまんでから吐き出し、手に持って構えた。良く見ればそれはシャボン玉をつくるストローで、飲み込んでいた方の先端に、小さな輪(わ)っかが付いていた。
「ワタシはスイセイ人なのです」
「え、どっちの?」
聞くと、女の子はクッキーを一つ取ってから立ち上がって、くるりと回ってからお団子の髪留めを指差す。僕の視線は翻(ひるがえ)ったチェックのスカートに釘づけだった。
「彗星人、ってことですか?」
「ソ。〝藍色の彗星人〟米津トモカ。十六歳。アナタは?」
脈絡のない自己紹介に戸惑いつつも、僕は座ったまま答えた。
「僕は、えっと、〝黒い〟地球人の伊瀬カズマ、同い年です」
ゲンタが〝白い月星人〟なら、この人は〝藍色の彗星人〟というわけだ。そして地球生まれ地球育ちの僕は、〝星の力〟を持っていないから〝黒い〟地球人。ちなみに、ゲンタもトモカさんも、〝星の力〟を得る前は〝黒い〟月星人、〝黒い〟彗星人だったことになる。〝黒〟はそういう位置づけなのだ。
「フーン。ジャ宇宙へは行ったことないの?」
「うん、僕はね。両親はいろんな星を飛び回ってたみたいだけど」
「それで、このキャンディストローだけど」
「あぁ、それ、そんな名前なんだ……」
「うん。これね、ワタシの〝星の力〟なの」
やっぱりそうか。一見何の変哲もない黄緑のストローも、〝星の力〟なら話は別だ。自転車を止めるくらい造作もない。
「ちなみにだけど、〝シャボン弾〟っていうのさ」
自慢げに胸を張るトモカさんは、誇らしげだった。
「そうですか」
〝星の力〟を持たない僕には、うらやましい限りだ。
「オイ、冷たいな」
「そうですか?」
「冷たいよ」
「そうですか」
「ちょい、手抜きかね?」
頬(ほほ)をふくらませてむくれていたトモカさんが、不意に空を見つめて満面の笑みを浮かべた。つられて夜空を見上げると、無数の人口流星群が、天の川を模して流れ始めた。
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