パラレヌ・ワールド

羽川明

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二章 「スクール水着の半魚人」

その四

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 魚々乃女ぎょぎょのめさんが制服に着がえるのを待って教室に戻ると、古都(こと)さんは一時間目とまったく同じ姿勢で寝ていた。トモカさんがゆすって起こすと、おでこや髪が机の形にへこんでいた。
「……うーん。占い、ね。今日はもう、力使っちゃいましたからねぇー」
 意外にも、古都さんの返事は煮え切らないものだった。肩がこるのか、しきりに腕をまわしている。
「あれ、結構疲れるんですよ。それに、さっきもこってり叱(しか)られちゃいましたし」
 ふぁっと大きなあくびをする古都さんは、見るからにお疲れのようだ。ただ、あでやかな紫色の髪は、一時間目の占い以降、やけにつやつやとしている。
「そこを何とか、何とかなりませんの?」
「そうそう、ナントカカントカならないかなぁ。……まぁ明日でもいいんだけどさ」
「ダメですっ! 気になって夜も眠れませんわ!!」
 目を血走らせる魚々乃女ぎょぎょのめさんに、古都さんはたじたじだ。
「ちょっと魚々乃女ぎょぎょのめさん。古都さん、ホントに疲れてるみたいですし……」
「あらあら、お優しいんですね、カズマ様は」
 様?
「分かりました。今日のところはカズマ様に免じて、もう一度だけ、占って差し上げます」
「あのー、軽くで、いいですからね?」
 一応、釘を刺しておいた。

           *

「――――おぉ、見えます、見えますっ!」
 水晶玉が紫色に光る。一回目よりも控え目だった。ちゃんと忠告を聞いてくれたようだ。
 しかし、再び生き生きとし出した古都さんの表情が曇った。
「どうしたんですか?」
「えぇと、見えるには、見えるんですが、かすんでいて、何が何やら……」
 うんうん唸りながら水晶玉と格闘すること十数秒、古都さんは下がってきた金のティアラをくいと上げ、晴れやかな顔になる。
「見えてきました! これは、これは!」
「……何も見えませんわ」
「ちょっと魚々乃女さん、これはそういう演出なんですよ」
「あらそうでしたの。失礼、構わず続けてください」
 古都さんに、思いっきり睨(にら)まれた。なぜだろう。
 少し機嫌悪そうに咳払いをして、古都さんは続ける。
「これは、えぇっと、……そうですね。茶色い、バケツ、みたいなものが。いえ、サイズ的にはとっての無いマグカップにも見えますね。に、なんでしょう? 緑色の、小さくて細長いものが垂れています――――」
 力がうまく発揮できないのか、それとも興(きょう)がそがれたのか、古都さんの口調はどこか投げやりだ。
「――――これは、芋虫、でしょうか?」
 納得がいかないのか、古都さんはしきりに首をひねっている。
「良カッタネ。トモダチが見つかって」
「良いわけありませんわ!! 芋虫!? 私(わたくし)の友達が、芋虫だとでも言うんですか?」
 古都さんのえりをつかんで揺らす魚々乃女さんは、かわいそうなくらい必死だった。
「はぅっ、あう、あうっ! 占いは、占いっ、です、からっ」
「でも結構当たるよね」
「はい。さっきは百発百中でしたね」
「どういうことですの!?」
「ま、まま、待ってください! 文字が、文字が見えてきましたっ!」
「なんですって!? 今すぐっ、今すぐ読み上げてください!!」
「……こ、ここ、これはっ、何と読むんでしょう?」
 止めに入った僕らの耳に、思いもよらない単語が飛び込んできた。
「――――『木犀花もくせいか』?」
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