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二章 「スクール水着の半魚人」
その五
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放課後。僕ら三人は通りの花屋、『木犀花(もくせいか)』の角で立ち止まっていた。曲がった先にすぐ目的地があるというのにどうしてそんなことになっているのかというと、主に魚々(ぎょぎょ)乃女(のめ)さんの気持ちの問題だった。というか、魚々乃女さんが覚悟を決めればそれだけで済む話だった。
「……ま、待ってくださいまし。そっ、そもそも、何をどうすれば友達になれますの?」
魚々乃女さんは、生まれたての小鹿もびっくりなくらい弱腰だった。
「普通にトモダチになってくださいって言えばいいんじゃない?」
「普通ってなんですの? 普通じゃわかりませんわ!」
「知らないよ」
トモカさんは、なんかもう、見るからに面倒臭そうだ。さっきからずっとこの調子だから無理もないけど。
置いていこうにも、魚々乃女さんはトモカさんの制服のすそをつかんだまま離さない。そしてトモカさんはなぜか僕の制服の襟首をひっつかんだまま離してくれない。
……おかげで、僕だけいたずらがバレて捕まった小学生のようなありさまになっていた。
「トモカさん、離してください。……首、しまちゃってます」
「ウオノメさんが離したらね?」
「ウオノメさん……」
「魚々乃女(ぎょぎょのめ)です!!」
「おなかすいた」
「――――あのー」
いつまで続くのかと思われた押し問答は、唐突に終わりを告げた。振り返ると、エプロン姿の茶髪の女の子が、怪訝そうな顔でこちらを見つめている。
「……ここで、何をされてるんですか?」
右手で抱えた植木鉢には、『木犀(もくせい)花(か)』の文字。左手には銀色のじょうろを携(たずさ)えていた。幼さの残るおとなしそうな顔立ちに、気の弱そうな目つき。肩まで伸びた髪は、おかしのような甘い香りを放っている。
「はむ」
と、突然。おなかをすかせたトモカさんが、女の子の手にかみついた。
「へ?」
真っ青になる女の子。
「――――ひぃやぁぁーーーーーーーーーーーーっっ!!」
空の植木鉢を放り出し、店の方へ走って行ってしまった。まぁ、そうなるよな。
「あ、ああの、私(わたくし)と、お、お友達に……って、あら?」
「トモカさん!」
「ついうっかり」
「――――私(わたくし)のお友達候補は、どこへ?」
「とっくに店の中です! 追いかけますよっ!」
「ま、待ってくださいまし。まだ心の準備が!」
構わず駆け出した。一刻も早く誤解を解かなければ、友達どころか不審者だ。この顔にピンと来たら110番されてしまう。
自動ドアを待つのももどかしく、僕はトモカさんを連れ木犀花(もくせいか)へ駆け込んだ。
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「……ま、待ってくださいまし。そっ、そもそも、何をどうすれば友達になれますの?」
魚々乃女さんは、生まれたての小鹿もびっくりなくらい弱腰だった。
「普通にトモダチになってくださいって言えばいいんじゃない?」
「普通ってなんですの? 普通じゃわかりませんわ!」
「知らないよ」
トモカさんは、なんかもう、見るからに面倒臭そうだ。さっきからずっとこの調子だから無理もないけど。
置いていこうにも、魚々乃女さんはトモカさんの制服のすそをつかんだまま離さない。そしてトモカさんはなぜか僕の制服の襟首をひっつかんだまま離してくれない。
……おかげで、僕だけいたずらがバレて捕まった小学生のようなありさまになっていた。
「トモカさん、離してください。……首、しまちゃってます」
「ウオノメさんが離したらね?」
「ウオノメさん……」
「魚々乃女(ぎょぎょのめ)です!!」
「おなかすいた」
「――――あのー」
いつまで続くのかと思われた押し問答は、唐突に終わりを告げた。振り返ると、エプロン姿の茶髪の女の子が、怪訝そうな顔でこちらを見つめている。
「……ここで、何をされてるんですか?」
右手で抱えた植木鉢には、『木犀(もくせい)花(か)』の文字。左手には銀色のじょうろを携(たずさ)えていた。幼さの残るおとなしそうな顔立ちに、気の弱そうな目つき。肩まで伸びた髪は、おかしのような甘い香りを放っている。
「はむ」
と、突然。おなかをすかせたトモカさんが、女の子の手にかみついた。
「へ?」
真っ青になる女の子。
「――――ひぃやぁぁーーーーーーーーーーーーっっ!!」
空の植木鉢を放り出し、店の方へ走って行ってしまった。まぁ、そうなるよな。
「あ、ああの、私(わたくし)と、お、お友達に……って、あら?」
「トモカさん!」
「ついうっかり」
「――――私(わたくし)のお友達候補は、どこへ?」
「とっくに店の中です! 追いかけますよっ!」
「ま、待ってくださいまし。まだ心の準備が!」
構わず駆け出した。一刻も早く誤解を解かなければ、友達どころか不審者だ。この顔にピンと来たら110番されてしまう。
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