パラレヌ・ワールド

羽川明

文字の大きさ
17 / 57
二章 「スクール水着の半魚人」

その六

しおりを挟む
「――――ゴキブリが出ても動じないマミが青い顔して駆け込んできたと思ったら。
 ……お前ら、何したんだよ」
「こここ、この人っ、いきなり私の手をかんだんです!!」
 震えながらジュリさんの背にしがみつく女の子の手には、うっすら歯型がついていた。
「トモカが?」
「おなかがすいていて、あまり覚えていない。誰デモヨカッタ」
「トモカさん、ちゃんと謝ってください」
「そうですわっ! 私(わたくし)の恥じらいを返してください」
 それは知らない。
「……後悔している」
「反省してくださいよ」
 人の手にかみついたことが自分でも信じられないのか、トモカさんは相当混乱しているようだ。
「まぁ、別にケガしたわけじゃないし、事を荒立てるつもりはないけどさ……」
「ナイケド?」
「トモカ、――――お前当分出禁(できん)な」
「マジで?」
「マジで」
 ジュリさんは、相応(そうおう)にお怒りだった。
「帰れ」
 しっし、と手で追い払われるトモカさん。自動ドアまで追いやられ、本当に追い出された。
「じゃ、そゆことで。頑張ってくれたまえ、諸君」
 反省しているのかいないのか、トモカさんはおでこで敬礼して帰って行った。
「……なんだったんですか? あの人」
「気にするなマミ。ただの馬鹿だ」
 フォローのしようがなかった。本音を言えば、気まずいので今すぐにでも帰りたいのだが、魚々乃女さんが僕の左腕をがっちりホールドしていた。何とは言わないけど、いろいろ当たってしまっていて、正直まんざらでもなかった。
「ふふっ、お二人は、仲良しさんですね」
 気づいたマミさんが、楽しそうに笑った。
「ギョギョ! し、心外ですわっ!」
 心底嫌そうな顔で飛び退(の)く魚々乃女さん。そしてちょっぴり傷つく僕。
「――――植木鉢、取りに行ってきますね?」
「あぁ、気をつけてな」
「大丈夫ですよ、すぐ戻りますから」
「いや、トモカに、なんだけど……」
 その一言を聞く前に、マミさんはパタパタと飛び出していった。すぐに左に曲がったので、さっき放り投げたやつを取りに行ったんだろう。
「……マミもそんなに気にしてないみたいだし、出禁はやりすぎたか?」
 ばつが悪そうに頬をかくジュリさんに、僕らは即答した。
「妥当かと」
「同意ですわ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...