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二章 「スクール水着の半魚人」
その七
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白亜紀の樹海を彷彿(ほうふつ)とさせる木星の花に囲まれながら話しているうちに、話題は自然と花畑を荒らした黒い異星人の話になった。
「――――そういえば、魚々乃女さんもプールで黒っぽい人影を見たって言ってましたよね?」
「本当か?」
「……えぇ、まぁ。実際に見たのは私(わたくし)の後輩ですけれど」
「やっぱり、黒い長髪に大柄の男だったのか?」
「さすがに性別までは分からなかったようですが、確かに、髪の黒い、長髪の人影だったと」
ジュリさんのやけに具体的な言及に、魚々乃女さんも違和感を覚えたようだ。
「ジュリさん、昨日も大方目星はついてるって言ってましたよね? もしかして、犯人を見たんですか?」
「いや、あたしも直接見たわけじゃないんだ。金星人の友達が、たまたまその場に居合わせたらしくてさ。そいつが言うには、肌はあたしらと同じ薄いだいだい色だったらしいんだけど、髪と瞳だけが真っ黒だったんだってさ」
「じゃあ花畑を荒らしたのは、異星人じゃなくて、〝黒い〟地球人なんですね?」
「あぁ、〝星の力〟なしじゃ、母星(ぼせい)の外へは出られないからな」
「でしたら、どうして〝黒い異星人〟なんて言う噂がたったんですの? 火のないところに煙は立ちませんわ」
「実は〝黒い異星人〟が現れただなんて言い出しのは、その金星人の友達なんだよ」
「え?」
「どういうことですの?」
「それが――――」
「――――すいませーん、倉庫の整理をしてたら遅くなっちゃいました」
自動ドアが開き、植木鉢を抱えたマミさんが慌ただしく駆け込んでくる。僕らを見てぱっと明るい顔になった。
「あぁ、そうそう。見てください! ほら、植木鉢の中に、こんなに可愛い芋虫さんが……」
「――――ぎゃああぁぁーーーーーーーーーーーっっ!!」
ジュリさんは、芋虫と聞くや否やレジのカウンターの奥へ引っ込んでしまった。
「ばっ、馬鹿、そういうの店の中に持ってくんなっつったろ!」
「えー、可愛いじゃないですかぁ。……可愛い、ですよね?」
「ま、まぁ……見ようによっては、そうかもしれませんわね」
魚々乃女さんの顔はこれ以上ないくらい引きつっていた。
「そう言えば、自己紹介がまだでしたね。はじめまして。〝褐色(かっしょく)の木星人〟、金木犀(きんもくせい)万美(まみ)です」
「じっ、自己紹介なんか後でいいだろっ! 早くその芋虫どっかに逃がしてこいっ!」
ジュリさんの声はほとんど悲鳴に近かった。よっぽど苦手らしい。
「それで、あちらにいるのが同じく木星人の、銀木犀(ぎんもくせい)樹里(じゅり)さんです」
ちなみに、〝褐色(かっしょく)の木星人〟も〝茶色の木星人〟も、言い方が違うだけでほとんど同じ位置づけだ。
「ところで、何の話をされてたんですか?」
えへへ、と可愛げに笑って、万美さんはさりげなく話の続きを促(うなが)してくれる。
「あぁ、そうだった。なぁ、最初に〝黒い異星人〟がどうとか言い出したのって、リオだったよな?」
「はい。変わった形のUFOから、髪も瞳も真っ黒な宇宙人が降りてきたって言ってましたね。だからあれは黒い異星人だーって」
「それって、どんな形だったんですか?」
「さぁ。さすがにそこまでは…… あっ! でも、確か写真を撮ったって言ってましたよ?」
万美さんはぽんと手をついて、嬉しそうに笑う。茶髪の分け目から飛び出したくせ毛がぴょんぴょん飛び跳ねた。
「その方に直接会って話を聞くことはできませんの?」
万美さんのくせ毛に気を取られていた魚々乃女さんが、思い出したように言う。
「……直接会うも何も、リオもあたしらと同じ雨中(あめなか)高だぜ?」
「あれ、樹里さんも雨中高校だったんですか?」
「知らなかったのかよ。廊下でたまにすれ違うだろ」
「私も雨中高校なんですよ?」
「わっ、私(わたくし)もですわ!」
輪に入りたかったのかなんなのか、遅れて言い添えた魚々乃女さんによって微妙な空気になった。
「……なんですの?」
「あたしらもうすぐシフト終わるから、後で家まで案内してやるよ。あいつはちょいちょい休むから、学校でも会えるとは限らないし」
「そんなに体が弱いなら、無理に押しかけない方がいいんじゃ……」
「いや、気まぐれなだけだよ、あいつは」
言いながら、樹里さんは自動ドア越しに頭一つ出た高層マンションに目を向けた。
「――――そういえば、魚々乃女さんもプールで黒っぽい人影を見たって言ってましたよね?」
「本当か?」
「……えぇ、まぁ。実際に見たのは私(わたくし)の後輩ですけれど」
「やっぱり、黒い長髪に大柄の男だったのか?」
「さすがに性別までは分からなかったようですが、確かに、髪の黒い、長髪の人影だったと」
ジュリさんのやけに具体的な言及に、魚々乃女さんも違和感を覚えたようだ。
「ジュリさん、昨日も大方目星はついてるって言ってましたよね? もしかして、犯人を見たんですか?」
「いや、あたしも直接見たわけじゃないんだ。金星人の友達が、たまたまその場に居合わせたらしくてさ。そいつが言うには、肌はあたしらと同じ薄いだいだい色だったらしいんだけど、髪と瞳だけが真っ黒だったんだってさ」
「じゃあ花畑を荒らしたのは、異星人じゃなくて、〝黒い〟地球人なんですね?」
「あぁ、〝星の力〟なしじゃ、母星(ぼせい)の外へは出られないからな」
「でしたら、どうして〝黒い異星人〟なんて言う噂がたったんですの? 火のないところに煙は立ちませんわ」
「実は〝黒い異星人〟が現れただなんて言い出しのは、その金星人の友達なんだよ」
「え?」
「どういうことですの?」
「それが――――」
「――――すいませーん、倉庫の整理をしてたら遅くなっちゃいました」
自動ドアが開き、植木鉢を抱えたマミさんが慌ただしく駆け込んでくる。僕らを見てぱっと明るい顔になった。
「あぁ、そうそう。見てください! ほら、植木鉢の中に、こんなに可愛い芋虫さんが……」
「――――ぎゃああぁぁーーーーーーーーーーーっっ!!」
ジュリさんは、芋虫と聞くや否やレジのカウンターの奥へ引っ込んでしまった。
「ばっ、馬鹿、そういうの店の中に持ってくんなっつったろ!」
「えー、可愛いじゃないですかぁ。……可愛い、ですよね?」
「ま、まぁ……見ようによっては、そうかもしれませんわね」
魚々乃女さんの顔はこれ以上ないくらい引きつっていた。
「そう言えば、自己紹介がまだでしたね。はじめまして。〝褐色(かっしょく)の木星人〟、金木犀(きんもくせい)万美(まみ)です」
「じっ、自己紹介なんか後でいいだろっ! 早くその芋虫どっかに逃がしてこいっ!」
ジュリさんの声はほとんど悲鳴に近かった。よっぽど苦手らしい。
「それで、あちらにいるのが同じく木星人の、銀木犀(ぎんもくせい)樹里(じゅり)さんです」
ちなみに、〝褐色(かっしょく)の木星人〟も〝茶色の木星人〟も、言い方が違うだけでほとんど同じ位置づけだ。
「ところで、何の話をされてたんですか?」
えへへ、と可愛げに笑って、万美さんはさりげなく話の続きを促(うなが)してくれる。
「あぁ、そうだった。なぁ、最初に〝黒い異星人〟がどうとか言い出したのって、リオだったよな?」
「はい。変わった形のUFOから、髪も瞳も真っ黒な宇宙人が降りてきたって言ってましたね。だからあれは黒い異星人だーって」
「それって、どんな形だったんですか?」
「さぁ。さすがにそこまでは…… あっ! でも、確か写真を撮ったって言ってましたよ?」
万美さんはぽんと手をついて、嬉しそうに笑う。茶髪の分け目から飛び出したくせ毛がぴょんぴょん飛び跳ねた。
「その方に直接会って話を聞くことはできませんの?」
万美さんのくせ毛に気を取られていた魚々乃女さんが、思い出したように言う。
「……直接会うも何も、リオもあたしらと同じ雨中(あめなか)高だぜ?」
「あれ、樹里さんも雨中高校だったんですか?」
「知らなかったのかよ。廊下でたまにすれ違うだろ」
「私も雨中高校なんですよ?」
「わっ、私(わたくし)もですわ!」
輪に入りたかったのかなんなのか、遅れて言い添えた魚々乃女さんによって微妙な空気になった。
「……なんですの?」
「あたしらもうすぐシフト終わるから、後で家まで案内してやるよ。あいつはちょいちょい休むから、学校でも会えるとは限らないし」
「そんなに体が弱いなら、無理に押しかけない方がいいんじゃ……」
「いや、気まぐれなだけだよ、あいつは」
言いながら、樹里さんは自動ドア越しに頭一つ出た高層マンションに目を向けた。
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