パラレヌ・ワールド

羽川明

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三章 「双子の月」

その二

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 それぞれで椅子を持ち寄って、僕ら三人は各々の弁当箱を取り出した。
「あれ? トモカさんの弁当箱、意外と小さいんですね?」
 袋と同じピンク色の布から現れた藍色のそれは、思いのほかこぢんまりとしていた。
「失敬ナ。今はダイエット中なの!」
 ちょっぴり恥ずかしそうにむくれる。……万美さんのためにも、むしろ増やした方がいいんじゃないだろうか。
「ン、そう言えば、樹理ちゃんが今晩一緒に三つ子山に行かないかって」
「あら? 仲直りはできたんですか?」
「うっ、……ま、まぁね。ハッハッハ」
 棒読みで笑い、目をそらすトモカさん。思いのほか溝(みぞ)が深いようだ。
「それで、どうして今晩三つ子山に? あのUFOを見に行くんですか?」
「ナンカ、最近三つ子山の裏でボヤ騒ぎがあったらしくて。樹理ちゃんが、〝黒い異星人〟の仕業かもしれないからーって」
「……ボヤ騒ぎ?」
「カズマ様? そんなに見つめられたら、私、恥ずかしいです……」
 どうも自覚がないらしい。
「ナニナニ、どうしたの? ワタシも見て!」
 胸を張り、腕を広げるトモカさん。決めポーズというより、ラジオ体操のようだ。
「でも、ボヤ騒ぎって、〝黒い異星人〟の噂が立つ前からありませんでしたっけ?」
「どちらにせよシバくとかナントカ。大変お怒りでした」
 〝黒い異星人〟かもしれないからというより、植物を傷つける人をこらしめることが樹理さんの目的のようだ。
「何にせよ、山の中でボヤ騒ぎというのは、確かに、あまり芳(かんば)しくありませんね」
 ブロッコリーをかじりながら眉をひそめる古都さん。
 学校の中でボヤ騒ぎというのも、どうとかと思う。
「そういうことなら、私が占って差し上げ――――」
「やめましょう」
 カバンの中から占いセットを取り出そうとする手を、全力で止めにかかる。
「へ? どうしてです?」
 心底不思議そうに首を捻る古都さん。
「……せめて、グラウンドとか、広い屋外で」
「ナニあせってるの、カズマ」
 あんたもか。
「そうですよ、カズマ様。昨日はほんの少し力加減を間違えただけですから」
「ソウソウ。二回目はちゃんとダイジョウブだったじゃん」
「……まぁ、そうですけど」
 この人たちは、あらかじめ換気扇を回し窓を全開にしておいた僕の苦労を知らないらしい。
「――――おぉ、おぉ! 見えます、見えますっ!」
「って、もう始めてるし」
 おでこに金のティアラをはめて頭からブレザーをかぶり、古都さんは赤いクッションの上に乗せた水晶玉に両手をかざす。僕は、さりげなく入口付近のスイッチ押し、エアコンをつけた。換気扇代わりだ。
「これは、これはっ!」
 水晶玉がほんのりと薄い紫色に輝き出し、うっすらと煙が立ち込める。
「深い森の中? ……いえ、斜面が急ですね。山の中、でしょうか?」
「じゃあやっぱり、犯人は〝黒い異星人〟なの?」
「いっ、いえ、人が映っていないので、まだ何とも。あ、見えてきましたっ。おぉ! 立派な木ですね。これは、縄文杉、でしょか?」
「縄文杉? 樹齢数百年単位の木ってことですか? そこに、〝黒い異星人〟がいるんですね?」
「……まぁ、はい。そう、だと思います」
 えらく煮え切らない答えだった。確信を求めるように、水晶玉の輝きが増す。察したクラスの皆さんが、例によって次々に退出していく。
「そう言えば、何を占うか、はっきり決めてませんでした……」
 ぽつりととんでもないことを口にする古都さん。煙は、すでに取り返しがつかないくらい充満していた。今さら後戻りはできない。
「ゴホッゴホッ……とっ、とりあえず続けましょう? ボヤの犯人でも〝黒い異星人〟の居場所でもいいですから」
 ここまで来て山奥の縄文杉だけではさすがに割に合わない。この後古都さんがみっちり説教されるだろうことを考えても。
「――――古都」
 と、その時。噂をすれば、なんとやら。
 クラスの人から聞きつけたのか、単に近くを通りかかったのか。
 おそらく後者だろうごはん粒だらけの体育の先生が、大きな手で古都さんの肩を叩いた。
「――――はぁれぇーーーーーーっ!! ……お助けぇーーーーーっ!!」
 頭からブレザーをかぶったまま、古都さんは床を引きずられていった。
 廊下の向こうに消えた後、遅れて火災報知機が鳴った。
「……だから言ったのに」
 古都さんのその後を、僕はまだ知らない。
 まぁ、今度こそ停学だろうと思う。
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