パラレヌ・ワールド

羽川明

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三章 「双子の月」

その五

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「――――なんでしょう、あれ」
 時刻は午後九時過ぎ。
 樹理さんいわく、ボヤ騒ぎがあったのは三つ子山の裏側のふもとだということ。自転車で山を登るのはきついので、ぐるりと大きく迂回するルートを取ることになった。
 今は、目的地を目と鼻の先に控えたコンビニで自転車をとめて休憩中だ。
「月じゃない?」
 フードコートに腰かける僕の横で、トモカさんは適当に答えて立ち読みを再開する。
 僕が指さした夜空には、雲の分け目から顔を出す星々に混じって、一際大きい黒い星が見える。確かに、こんなに曇っていれば、月の表面が多少黒っぽくくすんでいても不思議ではなかった。それでも、違和感が拭い切れない。
「……月って、あんなに大きかったかな?」
「どうかしたか?」
 隣の椅子でサンドイッチを食べていた樹理さんが、不思議そうにこちらを見る。その横では万美さんが幸せそうな顔であんぱんをほうばっていた。
「あ、いえ、――――」
 ――――言いかけて、言葉につまる。僕は思わず、持っていた箸(はし)を取り落としてしまった。
「……嘘、だろ?」
 椅子を蹴飛ばして立ち上がり、呆然と口を開く樹理さん。トモカさんでさえ、ページをめくる手が止まっていた。
「アレって…………ナニ?」
 雲が割れ、どす黒い星の隣に、青白く光る月が現れた。
 毎晩のように見るいつもの月だ。今日は満月だった。
 ……だったら、あの黒い星は、なんだ?

 僕らは、誰からともなく走り出し、コンビニを飛び出して自転車に跨(またが)った。
「――――あの方向、三つ子山ですかね!?」
 立ちこぎで踏み込み、グンとスピードを上げる。先頭は樹理さんだ。一番後ろの万美さんが答える。
「そうだと思いますっ!」
「アノ黒い星、ナンナノ?」
「……多分、母星だ!! 誰かが、〝星の力〟で自分の母星を呼び出したんだっ!」
「ボセイ!? そんなコトって……」
「――――できる。〝星の帝王〟なら」
 必死にこぎながら強くうなずき、万美さんが続ける。
「聞いたことがありますっ! 母星は、〝星の力〟が強いほど、引き寄せられるって。〝星の帝王〟ほどの人なら、異星に呼び出すこともできるはずです!!」
 〝星の帝王〟。スター・エンペラーとも称されるその人たちは、名前の通り星の最高権力者、国で言う大統領のような人物だ。〝星の帝王〟は〝星の力〟を有する星人のいるすべての惑星に存在し、その〝力〟はあらゆる物理法則をも超越するという。
「……じゃ、じゃあ、今三つ子山に、ドッカの〝星の帝王〟がいるの?」
「分かりません。とにかく急ぎましょう!」
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