昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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[リア]

主役の所業 §3

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「駄目だ、キリがない。もう帰ろう!」
 終了予定時刻まで一時間以上残っていたにもかかわらず、夫はいきなりギブアップを宣言。
「あきらめるの早すぎでしょう!」と突っ込む暇もなく、彼はわたしを軽々と抱き上げた。
「ちょっ、旦那様ッ!? 人前ですよ!」
「父上、叔父上、もう帰ります」
 そう言うと彼はサッサと会場を出てしまった。その間、わずか数秒の出来事だ。あっという間の脱出劇に、わたしは抱っこされたまま、石像のように固まっていた。

 ——あ……あのぅ、あなた様は、本日の主役なのですが?

 各国の来賓の前でこんなことをしたら、お義父様と陛下だけでなく、すべての国民が恥をかく。晩餐ばんさん会での振る舞いが原因で、冷たい視線を浴びていたことに気づかなかったのだろうか。
 彼がカルセドの大公殿下から逃げたのは明白だ。しかも、妻であるわたしを置き去りにしたのだから、イメージは最悪。
 大公殿下は旦那様の話題には一切触れなかったけれど、なんとも思っていないわけがない。同じテーブルにいたヤキトリ伯様も、さぞかしお怒りだろう。
 わたしも困る。大公殿下から、あとでもう少し話そうと言われていたのに……。

「いけません、旦那様! 戻ってください!」
 彼は長い足でぐんぐんと馬車へ向かって乗り込んだ。
「国際問題になりますわ!」と言おうとした瞬間、ものすごい口づけが落ちてきた。
「ちょっ……聞い……んムっ……このっ……!」
 チューが止まらないジコチュー・・・王子である。ええい、もう、どうしてくれよう、このオバカわんこ!
 一瞬の隙をついて何か言いかけても、即座にふさがれる。そうこうしているうちに馬車が出発してしまった(オーノォォォ! どっちもストーップ!)
 彼は覆いかぶさるように、わたしを背もたれに押し付けていた。結婚したばかりなのに、夫を押しのけようと必死で抵抗しているわたし。いったい何をやっているのだろう。
「リア……きれいだ……」と、彼は吐息まじりに言った。
 旦那様、あなたはわかっていないわ。吐息まじりの男性のセリフがセクシーだと感じるのは、その人に知性があって正しい行いをしているからこそなのですよ~っ。

 わたしの思いもむなしく、夫の自己チューは止まらない。
 しばらくすると、彼は急にガバッと顔を離した。
「まずい! 理性が吹き飛びそうだ。リア、ちょっと離れてくれないか!」
 何を言うかと思えば、まるでわたしのせいのような言い方だ。
「いきなり襲ってきたのは旦那様でしょう? ご自分から離れれば済むことですわっ」ぷんっ。
「ヤバい、ヤバいぞ……」

 特大のため息が出た。彼が自分勝手な行動を連発したおかげで、人生で一度きりの結婚披露宴はめちゃくちゃだ。
 こんなことなら旦那様と合流せず、アレンさんと一緒にいたほうが平和だったのではないかという気持ちになってくる。
「旦那様……あとで陛下とお義父様におわびをなさってくださいね? それから、カルセドの大公様とヤキトリ伯様にも」
「なぜ?」と、彼は首をかしげた。
 ——わたしの夫って、もともとこういう人だったかしら???

「なぜ?じゃないですわーーっ」
「そうは言うが、俺は疲労で限界だぞ? クタクタだ」
「それは昨晩早く休まなかったからでしょう? 不義理を働いていい理由にはなりませんわ」
「平気さ」と、彼は悪いことをしている自覚がまるでなかった。
 明日からようやくゆっくりできると思っていたのに、おかげでおわび状を何通も書かなければならなくなった。ルアランとカルセドは同じ言語だからいいけれど、ほかの国は先に字を書く練習をしてからだ。また指がつるほど文字を書かなくては……。

「帰ったらおわびを伝えるための使者を出して、もうお風呂でまったりしますわ」
 わたしはそっぽを向いて言った。何を言ったところで、どうせ彼は「なぜ?」と言うに違いない。後日、お義父様からこっぴどくお説教を受けることになるだろうから、わたしはもう黙っていよう。
 ところが彼は「一緒にか!!」と興奮気味に言った。
 なんの話かと思ったら、わたしの言った「お風呂でマッタリ」の部分に食いついているのだ。
 ——ちがうよ(泣)そんなわけないでしょ?
 心の中で号泣しつつ、表向きは冷静を装う。
「とりあえず別々にお願いしたいですわ」
「いいだろう。とりあえずは・・・・・・別々に。つまり、後で一緒に、ということだな!」
 わたしはあきれて白目をむいた。
 旦那様は初夜のことで頭がいっぱいなのだ。
「家に帰るまでが遠足です」のノリで「初夜の寝室までが禁欲だ!」と言いたい気分だった。
 しかし、がまんがまん。人生は辛抱だ。

 複雑な気持ちで迎える新婚初夜。夫は再びおかしなことをやらかした——
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