昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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[リア]

初夜の衝撃 §2

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「だ、だんなさま?」
 夫は気味が悪いほど満面の笑みを浮かべており、やたらと鼻息が荒かった。
「リア~」
「あの、わたくし、先ほどから何度もお返事をしているのですが?」
「リアぁ……」
「はい? ねえ、旦那様……大丈夫ですか?」
 心配するわたしをよそに、彼はガウンを脱がせようとグイグイ引っ張り始めた。
「ちょちょちょっ?! あの、もしもし?」
「リ~~アぁぁ~」

 お……おぉーい、旦那様がおかしいぞぅ……(汗)

「フッ、フーッ、フーッ。ハーッ、ハァーーッ、ムフーッ」
 息づかいがほとんどケモノだ。わたしの夫は、前からこんなに肉食獣のようだったかしら……。
「リアぁ~。リアぁぁ、リアァ~」
 そういう鳴き声になってしまったのかと思うほど、なぜかリピートが止まらないわたしの名前。寝室に入って以来、一度も会話が成り立っていなかった。

「旦那様、ちょっと落ち着きましょう? 何か冷たいものでも飲んだほうがよいのでは? ね?」
「はあ、はあ、ムハーーッ、リアぁぁ!」
 オーマイブッダ……まるで聞いちゃいないわ。
 何が起きているのかしら……でも、彼は普段からどこかちょっと面白いおかしい人だし、人の話を聞いていないこともしょっちゅうだ。そのせいか、本当におかしいのかどうか判断に迷ってしまう。

 彼の手はせわしなく動いており、わたしの服を脱がせるのに大忙しだった。ところが、胸元のリボンを変なふうに引っ張ったのか、結び目が固くなってほどけない。それをどうにかしようと、フーハーフーハー言いながら躍起になっていた。
 手を貸そうとした瞬間、絹を引き裂く音が寝室に響いた。
 ブチッ! ビッ! ビビビーーッ!
 夫は短気を起こしてドレスを破いてしまったのだ。
「は……? だぁばっ! そわぁっしょおょーーーっ!!」
「旦那様、バカなのですか? それは駄目でしょう」と言うつもりが、言葉にならない音が団子となり、口から一気に飛び出して行く。

 ――しょ、初夜のために作った超お高いドレスがぁぁーっ! 信じられないですわーっ! これ、原価いくらすると思っているのですかぁー!
 初夜のベッドで、妻がドレスの原価のことを考えているなんて由々しき事態だ。おぱんつプロジェクトの皆で試行錯誤した日々が、走馬灯のように脳裏をよぎる……。
 マダムが練りに練ったピンクのナイトドレスは、デザインがかわいいこともさることながら、王国では最高級の素材で作られていた。着て一時間足らずでビリビリだなんて、短命にもほどがある。
「な、なんてことを……」
 ウェディングドレスとセットで思い出の品になるはずだったのに。

 彼は無我夢中でわたしの服をむいていた。
 さすがにこれは通報案件ではないだろうか……。
 通報すれば、アレンさんはドアでも壁でも容赦なくぶち破って、この寝室に踏み込むだろう。わたしは彼に恥ずかしい姿をさらすことになるかもしれない。
 でも、コミュニケーション機能を失った夫と、このままおかしな初夜を過ごすよりはマシなのでは?と思えてきた。
 ……やっぱり通報しよう。
 わたしはガウンをつかんでポケットをまさぐった。

「リィィアァァ~♪」
「あっ、ちょっと!」
 夫はわたしが通報機を探している間にドレスをむき終え、ガウンと一緒にくちゃくちゃに丸めて放り投げた。
 これにはさすがのわたしもカチンときてしまった。

「旦那様、どうして今日は一から十までお行儀が悪いのですか? 金輪際ドレスを破くのはやめてください。くちゃくちゃにもしないで! 放り投げるのもダメですわ! 話を聞いてください! あのね、これ初夜ですよ?! わかってます? 今日の山場なのでしょう? とっても大事なのですよっ! 旦那様のせいで、もう台無しですわ!」
 必死の訴えも彼の耳には届いていないらしい。顔をピンク色に上気させ、目をハートにして、シッポをブンブン振り回していた。
「ヴァ~、ウアァァ~~♪ リアァ~♪ リアぁ~~♪」

 ――もはや、ただの陽気なゾンビである。

「ちょっと旦那様! ほかに何か言うことはな……ふえっ?」
 膝をつかんでグイと足を広げられた。も、もうスッポンポンですのにっ。
 夫の動きがピタリと止まった。ようやく目が覚めたのかと思いきや、そうではない。彼はある一点を凝視し、うれしそうにハァハァしていた。

 ――ふんぎゃァァァ~ッ!!(滝汗)

 ちょっと待てぇ、ヴィル太郎! やっていいことと悪いことがあるでしょうがーっ。あなたには理性とか人の心というものがないのですかーーっ!? 
「こ、このバカ旦那……目を覚ませえぇぇーッッ!」
 わたしは力いっぱい彼を蹴飛ばした。許せ、夫……もう我慢の限界だ。
「あガァッ!」
 わたしの足は夫の顔面にクリーンヒット。大きくのけぞるゾンビを、ドキドキしながら見守るスッポンポンのわたし。
「や……やったか?」
 初夜のベッドの上とは思えぬセリフである。

 しかし、ゾンビは腹筋の力だけでガバァッと起き上がってきた。
「リアぁぁ~~♪ ハァハァハァ、りーあ~♪」
「き、効かないっ!?」
 会心の一撃だと思ったのに……なんという打たれ強さだろう。
「リアっ♪ リーアっ♪」
 むしろ蹴られて喜んでいるようにも見える。
 もしかして、ゾンビに蹴りは効果がないのだろうか。だからゾンビゲームはどれも武器が銃だったの?(※たぶん違う)

 だらしない顔のゾンビは、わたしの足首をつかもうと手を伸ばしてきた。
「ちょっ、手ぇ! 離せっ!」
 淑女ですらない言葉が次々と飛び出して止まらない。
「スンスンスン、はぁ~~っ♪」
「ふぎゃーっ! このバカゾンビ!」
「リアァァ~~♪」
「どこに向かって話しかけているのですかぁーー!」
「りーあっ♪ リーアっ♪」
「ほかに言うことないのかぁーっ」
「リアァぁぁ~~~♪」
「ふおぉぉぉ……離婚するぞ、ゴルァァー!」

 わたしは今後、この夜の話をするたび、こう言うだろう。
「初夜の夫は暴走するエロバカゾンビでした」と。
 その後も二発、三発と彼を蹴飛ばしまくった。
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