104 / 392
2[リア]
神薙様のスピーチ
しおりを挟む
抗戦訓練当日──
「打ち合わせどおり頼むよ」と、ヴィルさんに肩を叩かれた。
僭越ながら、開始前のご挨拶を担当することになっていた。
人前で喋るのは久々なので、少し緊張する。
悪役敵軍に扮した騎士の士気がやや低いらしく、わたしのスピーチでそれをブチ上げなくてはならない。
内容はヴィルさんから提案があったので決まっているけれども、問題はそれを上手く伝えられるかどうかだった。
戦士を鼓舞するスピーチなので、静かに始め、徐々に盛り上げていく感じにしようかな、と。
はあー緊張しますねぇ。
ビシッと整列した大勢の騎士の前に立った。
小さなマイクのようなものを渡され、それに向かって話す。
マイクテストを兼ねて試しに「皆さま、おはようございます」と言うと、きちんと大きな音で聞こえた。
「訓練はわたしの世界でも人命を守る大きな役割を果たしています。それが生死を分けた例をいくつも耳にしており……」
長くなり過ぎないように、「訓練は大事だから真面目に取り組みましょう。上手くやることも大事だけれども、不備を見つけることも大事ですよ」というような話をした。
あまりに真剣な眼差しで聞いてくれるので、かえって恐縮してしまう。
チラリとヴィルさんを見ると、満足そうに微笑んでいたので、ひとまずは合格点のようだ。
そして、彼と相談して決めたシメの一言を放つ。
「最後になりましたが、反王派役の皆さま、どうか悪役だとガッカリなさらないでください。皆さまは選ばれし精鋭集団です。どうぞ本気でわたしを攫いにきてください。見事攫えた場合は、お庭にて悪役限定のお茶会を開催いたしますっ」
お茶会ぐらいで頑張れるのかは疑問だったけれど、簡単にできるご褒美として真っ先に挙がったのがそれだった。もっといいもの出せよ、と言われるのは覚悟の上だ。
しかし、悪役軍団から「ウオオォォイ!」という雄叫びが上がったため、ホッと胸をなでおろす。
次回はもう少し良いものを用意しておこうと思いつつスピーチを締めた。
続いてヴィルさんが団長挨拶に立ち、重点的に確認したい箇所などを示した。
普段、甘えた柴犬のように絡みついてきている人と、ここにいる団長さんはほとんど別人だ。
「ご褒美の悪役茶会に邪魔な上官は参加しない。もちろん俺もだ。しっかり頑張るように!」
彼も悪役を煽り、「ウオォォォイ!」と喝采を浴びた。
そして「あからさまに喜ぶな!」とツッコんで笑わせると、全員に持ち場へつくよう指示をした。
「攫っても良いというのは大きいよな」
屋敷に向かいながらヴィルさんは言った。
「悪い団長です」と、アレンさんは呆れ顔だ。
「男は馬鹿だからな。攫うときは触れられると思うだろう?」
「へぁっ?」
誰もそこを触るとは言っていないのに、思わず胸を隠すような仕草をしてしまった。
「ももももしかして?」
「大丈夫。誰にも指一本触れさせませんよ」
「アレンさん……」
アレンさんは、わたしの頭をヨシヨシしながら言った。
先日の事件以降、彼はわたしを頻繁にヨシヨシするようになった。
アレンさんの持ち場は屋敷の入り口前で、フィデルさんと一緒だ。
彼が強いのは分かっているけれども、そんな彼が兄のように慕うフィデルさんは、その昔「氷結の狂犬」と呼ばれていた時期があるらしく、とてもとてもお強いのだとか。
今回は訓練なので魔法の使用は禁止されている。しかし、これが本番なら風神と氷神が猛吹雪を起こすわけだ。
屋敷は氷漬けになり、普通の生物には生き残れない環境になる(怖……)
「私とフィデルさんのところは、魔法抜きでも突破できませんから」
「そ、そうなのですねぇ……」
ヴィルさんは楽しげに「仮にアレン達を突破しても俺がいる。彼らはリアを攫えない」と言った。
屋敷の前に辿り着くと、上から「リア様ぁ~」という声が聞こえた。
見上げると、宮殿スタッフのために作ったベランダの観戦席から、侍女三人が手を振っていた。ちゃっかり一番良い席をゲットしている。
「皆さん、身を乗り出して落ちないよう気をつけてくださいね~」
そう言うと、ベランダを埋め尽くした従業員達から「はーい」と良いお返事が戻ってきた(ほのぼの♪)
訓練が始まると、一部の従業員は仕事ができなくなる。丸一日訓練をやっているわけではないので、今日は全員、業務に支障がない範囲で騎士団の訓練を見学しても良いことにしていた。
皆の避難訓練は別日に行われる予定だ。
時系列だと今日の戦闘の後、もしくは戦闘の最中に、必要なものを持って脱出することになる。
今日の訓練を見学をすることで、自分たちがどのような状況下で逃げるのかを知ってもらえるし、なによりも普段話す機会の少ない同僚と交流できる良い機会になる。
こちらの世界では、このように公然とオサボリを認められることはないらしく、ここ数日は皆そわそわしていた。
女子はそれぞれに憧れの騎士様を応援すると張り切っていたし、男子は戦略談義や勝敗予想で盛り上がっていた。
「もう宮殿の入り口は突破されている。そろそろ来るぞ」と、ヴィルさんは時計を見ながら言った。
騎士は馬を使って持ち場へ移動しているため、わたし達がのんびり歩いている間に訓練は始まっている。
しかし、それにしては入り口を突破されるのが少し早すぎる気がした。
「打ち合わせどおり頼むよ」と、ヴィルさんに肩を叩かれた。
僭越ながら、開始前のご挨拶を担当することになっていた。
人前で喋るのは久々なので、少し緊張する。
悪役敵軍に扮した騎士の士気がやや低いらしく、わたしのスピーチでそれをブチ上げなくてはならない。
内容はヴィルさんから提案があったので決まっているけれども、問題はそれを上手く伝えられるかどうかだった。
戦士を鼓舞するスピーチなので、静かに始め、徐々に盛り上げていく感じにしようかな、と。
はあー緊張しますねぇ。
ビシッと整列した大勢の騎士の前に立った。
小さなマイクのようなものを渡され、それに向かって話す。
マイクテストを兼ねて試しに「皆さま、おはようございます」と言うと、きちんと大きな音で聞こえた。
「訓練はわたしの世界でも人命を守る大きな役割を果たしています。それが生死を分けた例をいくつも耳にしており……」
長くなり過ぎないように、「訓練は大事だから真面目に取り組みましょう。上手くやることも大事だけれども、不備を見つけることも大事ですよ」というような話をした。
あまりに真剣な眼差しで聞いてくれるので、かえって恐縮してしまう。
チラリとヴィルさんを見ると、満足そうに微笑んでいたので、ひとまずは合格点のようだ。
そして、彼と相談して決めたシメの一言を放つ。
「最後になりましたが、反王派役の皆さま、どうか悪役だとガッカリなさらないでください。皆さまは選ばれし精鋭集団です。どうぞ本気でわたしを攫いにきてください。見事攫えた場合は、お庭にて悪役限定のお茶会を開催いたしますっ」
お茶会ぐらいで頑張れるのかは疑問だったけれど、簡単にできるご褒美として真っ先に挙がったのがそれだった。もっといいもの出せよ、と言われるのは覚悟の上だ。
しかし、悪役軍団から「ウオオォォイ!」という雄叫びが上がったため、ホッと胸をなでおろす。
次回はもう少し良いものを用意しておこうと思いつつスピーチを締めた。
続いてヴィルさんが団長挨拶に立ち、重点的に確認したい箇所などを示した。
普段、甘えた柴犬のように絡みついてきている人と、ここにいる団長さんはほとんど別人だ。
「ご褒美の悪役茶会に邪魔な上官は参加しない。もちろん俺もだ。しっかり頑張るように!」
彼も悪役を煽り、「ウオォォォイ!」と喝采を浴びた。
そして「あからさまに喜ぶな!」とツッコんで笑わせると、全員に持ち場へつくよう指示をした。
「攫っても良いというのは大きいよな」
屋敷に向かいながらヴィルさんは言った。
「悪い団長です」と、アレンさんは呆れ顔だ。
「男は馬鹿だからな。攫うときは触れられると思うだろう?」
「へぁっ?」
誰もそこを触るとは言っていないのに、思わず胸を隠すような仕草をしてしまった。
「ももももしかして?」
「大丈夫。誰にも指一本触れさせませんよ」
「アレンさん……」
アレンさんは、わたしの頭をヨシヨシしながら言った。
先日の事件以降、彼はわたしを頻繁にヨシヨシするようになった。
アレンさんの持ち場は屋敷の入り口前で、フィデルさんと一緒だ。
彼が強いのは分かっているけれども、そんな彼が兄のように慕うフィデルさんは、その昔「氷結の狂犬」と呼ばれていた時期があるらしく、とてもとてもお強いのだとか。
今回は訓練なので魔法の使用は禁止されている。しかし、これが本番なら風神と氷神が猛吹雪を起こすわけだ。
屋敷は氷漬けになり、普通の生物には生き残れない環境になる(怖……)
「私とフィデルさんのところは、魔法抜きでも突破できませんから」
「そ、そうなのですねぇ……」
ヴィルさんは楽しげに「仮にアレン達を突破しても俺がいる。彼らはリアを攫えない」と言った。
屋敷の前に辿り着くと、上から「リア様ぁ~」という声が聞こえた。
見上げると、宮殿スタッフのために作ったベランダの観戦席から、侍女三人が手を振っていた。ちゃっかり一番良い席をゲットしている。
「皆さん、身を乗り出して落ちないよう気をつけてくださいね~」
そう言うと、ベランダを埋め尽くした従業員達から「はーい」と良いお返事が戻ってきた(ほのぼの♪)
訓練が始まると、一部の従業員は仕事ができなくなる。丸一日訓練をやっているわけではないので、今日は全員、業務に支障がない範囲で騎士団の訓練を見学しても良いことにしていた。
皆の避難訓練は別日に行われる予定だ。
時系列だと今日の戦闘の後、もしくは戦闘の最中に、必要なものを持って脱出することになる。
今日の訓練を見学をすることで、自分たちがどのような状況下で逃げるのかを知ってもらえるし、なによりも普段話す機会の少ない同僚と交流できる良い機会になる。
こちらの世界では、このように公然とオサボリを認められることはないらしく、ここ数日は皆そわそわしていた。
女子はそれぞれに憧れの騎士様を応援すると張り切っていたし、男子は戦略談義や勝敗予想で盛り上がっていた。
「もう宮殿の入り口は突破されている。そろそろ来るぞ」と、ヴィルさんは時計を見ながら言った。
騎士は馬を使って持ち場へ移動しているため、わたし達がのんびり歩いている間に訓練は始まっている。
しかし、それにしては入り口を突破されるのが少し早すぎる気がした。
51
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜
文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。
花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。
堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。
帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは?
異世界婚活ファンタジー、開幕。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる