昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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1[ヴィル]

披露目の会

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「神薙の杖ごときで脅迫なんて、無理ではありませんか? 少なくとも自分の場合、あんな杖を取り戻すために何かするなんて考えられないのですが」

 アレンの言うとおりだった。

「そうなのだよなぁ。万が一に備えて魔力測定器をかき集めようとしたのだが……」
「騎士団の倉庫に、年代物の測定器が売るほどあったでしょう?」
「そう。昔は入団試験で二百台くらい使っていたらしいな」
「そのネズミ、天人族ではない気がします。盗んでも価値がないとわかっていない。つまりヒト族かと」

 いずれにせよ、今、宝物庫の目録を見ているような連中はろくでもない奴らだ。

「とりあえず、俺はネズミを捕らえてから行くよ」
「一人で行くのですか?」
「団員を動かすと逃げるだろう。今後のこともあるから確実に捕らえておきたい」
「それはそうですが」
「クリスが手伝うと言ってくれている。杖と冠は場所を変えて代わりに別のオモチャを放り込んでおいた。しかし、まるで変わっていないように行動する。運び入れる時間が前後すると思うが、本番に遅れることはないから心配するな」
「なるほど」
「お前は神薙を守れ。そばを離れるな」

 アレンはしばし押し黙り、考えを巡らせていた。

「反王派ですかね?」
「現時点ではわからない。目的もよくわからないが、ただ、おそらく狙いは神薙なのだろうな」
「わかりました。戻って変更の準備をします」
「フィデルには伝えて構わない。二人で協力しろ。こちらの仕事はマークに手伝わせる」
「はい」
「お前が神薙の最後の砦だ。今回の件に限らず今後ずっとそうだ。仮にお前が最後の一人になっても神薙を守れ。それが側仕えの任務だ。フィデルにはそれを支援するのが任務だと伝えてある」
「はい、俺もそのつもりです」

 披露目の会の前日、神薙は離宮に入り、念入りに予行練習をしたようだった。
 デートの日以来、彼女とは顔を合わせていなかったが、お互いに同じ日に向けて万全の準備を整えていた。


 ――披露目の会 当日

 俺とクリスは宝物庫であっさりと賊を捕らえた。
 それはもうため息をついて肩を落とすほど簡単であっけない捕り物だった。

 俺たちはあらかじめ宝物庫の中で待つことにした。
 ネズミは二人。小柄なヒト族のオッサンだった。
 入り口の近くで気配を消して待ち構えていたクリスは、二人目が宝物庫に入って扉を閉めようとした瞬間、足をはらって転倒させた。
 ギャッという悲鳴を聞いて、最初に入ったほうの男が振り返ると、クリスのデカい拳がみぞおちにめり込んだ。
 転んでバタバタしていた二人目が起き上がり、テメェだかオメェだか、その類の勇ましい言葉を口走りながら懐に手を突っ込む。
 武器を取り出そうとしている間に、クリスの張り手がバチーン!
 小っちゃいオッサンは吹っ飛び、宝物庫の床にはコロンコロンと情けない音を立てて短いナイフが転がった。
 俺は神薙の杖に見せかけたホウキの隣に座ったまま。ただ見ていただけで終わってしまった。

「弱っ……」とクリスがつぶやくと、俺たちはそこでゲラゲラと笑った。

 あらかじめ叔父と父には話を通してあったため、そのまま身柄を託した。

 宝物庫の手前にある受付に、二匹のネズミは第二騎士団の制服に身を包んで「第一騎士団長と副団長」を名乗って現れたようだ。
 その第一騎士団長と副団長が、王宮内でどれほど顔が知れているか、何もわかっていないで入ってきていたのだ。
 受付にいた第三騎士団の連中も心得ていたため、笑いをこらえながらわざと話を合わせて彼らを通した。
 
 その話し方から、他国の人間の疑いが強かった。流暢ではあるが外国人特有の訛りがあった。
 ところが、取り調べの場で『真実の宝珠』を見た瞬間、奴らは口の中に仕込んでいた毒の袋をみきり、命を捨てて取り調べを拒否した。
 どうもプロには思えない。金で雇われただけのような盗人だった。
 身元のわかるものは一切所持しておらず、残念ながら賊の正体は暴けなかった。


 神薙の控え室へ杖と冠を運んでいくと、アレンの機嫌がすこぶる悪かった。
「なぜ身分を明かさなかったのですか」とおかんむりだ。不満と鬱憤が溜まりに溜まった状態のようだった。
 どうやらリアが第一騎士団の団長を「おじさん」と発言したことで、俺が身分を明かしていないことに気づいたらしい。

「おじさんか……。まあ、おじさんに片足を突っ込んでいる気もするけどな……そのうちオヤジ臭がするとか言われて、しょっちゅう浄化魔法をかけては香水をふりかけまくるのだろうなぁ……。ああ嫌だ。老いは恐ろしい」

 おじさん予備軍は応接室で出されたお茶を飲みながら独りごちた。
 
 リアの支度が終わり、アレンに連れられて俺の待つ応接室に入ってきた。
 俺を見たリアはひどく動揺していた。
「空が曇っている」と、フィデルが知らせに飛んできた。
 それがアレンの導火線に火を点けた。
 お前なんぞにリア様を任せられるかとブチ切れられ、突風が吹きすさぶ中で、俺はようやくリアに身分を明かした。

 王兄の息子、ヴィルヘルム・ランドルフ。王位継承順第三位。第一騎士団長。
 それ以外の肩書きはどうでもいい気がしている。それが俺だ。

 白と金のドレスに身を包んだリアは女神のように美しく、六百人を超える来客を魅了した。
 彼女が『オルランディアの涙』を着けたことで、少なくとも王家が彼女の後ろ盾であることを示せた。
 先代とは違い、側仕えに名の知れた天人族を二人つけてある。反王派も不用意に近づきはしないだろう。

 しかし、彼女が『神薙の杖』を手にしたとたん、甘い花の香りが噴き出し、半数近い天人族をなぎ倒して退場させた。そのうち一名が病院へ救急搬送された。
 ある意味、予想どおりではある。

 恥じらって震える彼女の胸元で、王とともに治世を行う者の証である『オルランディアの涙』が光っていた。
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