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5[リア]
ライバル
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「ランドルフ様があんな淫乱女のものになるなんて、有り得ないことですわ!」
ざわついていた廊下が一瞬にして凍りついた。
格式の高い舞踏会で「淫乱」とはスゴイ単語が出たものだ。
もしかして、それはわたしのことを言っていらっしゃる?
「わたくしたちが知らないとでも思っているのかしら。神薙なんてただの淫獣ですのよ? ランドルフ様と婚姻が結べるような生き物ではありませんわ」
「きっと、あのカラダで殿方を操っているのだわ」
「まるで娼婦ですわね。汚らわしいっ」
パウダールームからは三人の女性の声が聞こえていた。
お化粧を直しながら話しているうちに白熱してしまったのだろうか。淫乱・淫獣・汚らわしいの悪口三拍子を頂戴した。
「それは先代の神薙のことですよ」とコッソリ教えてあげたい。
それに、ヴィルさんはカラダごときで操れるような人ではないので、彼に対しても失礼だ。
先代の神薙が淫乱・淫獣・汚らわしいを基本三原則としていたのは紛れもない事実だ。
夫が書いた暴露本を熟読し、アレンさんたちから実際の話も聞いた。知れば知るほどひどい悪女なので、同類だと勘違いされるリスクがあることは承知していた。
情報統制をしていたとは言っていたけれども、やはり外へ漏れている。そもそも暴露本という形で世に出てしまっている以上、それが人から人へと渡ることは容易に想像がつく。戸を立てられないのが人の口だ。
訂正するにしても、わたしはパウダールームに入れない。出てきていただかないことには直接お話しすることが叶わない状況だ。
そうかと言って、話が終わって出てくるのを待っているのもチョット……。
とりあえず笑ってサクッとスルーするのが良いのだろうか。とっとと休憩室へ行って、のんびりと美味しいシャンパンを頂くほうが平和だ。
「うふふ、なんだかタイミング悪いところに来……ッ!?」
いつものノリで皆に話しかけようとして驚いた。
関係者一同の様子がおかしい。
侍女長は顔面蒼白で唇がヒクヒクと引きつっていた。
侍女のイルサは下唇を噛んで眉間にシワを寄せ、パウダールームをにらみつけている。丈の長いスカートの学生服を着せたら、伝説のヤンキー娘だ。
ヴィルさんは顔が真っ赤なのに無表情だった。
ついさっきまで祝福の言葉を浴びて照れ笑いしていた彼の表情筋が死に絶えている。
フィデルさんの頭上には小さな雪雲が発生しており、パラパラと雪が降っていた。脳内常夏男はオーバーヒートを防止するため、物理的に頭を冷やそうとしているようだ。
しかし、アレンさんの魔力が漏れ出して風が吹いている。せっかく降らせた雪が風に煽られてしまい、マークさんの顔にビシビシと吹きつけている。
寡黙で硬派なマークさんだけは皆と違って冷静に見えた。局地的吹雪を顔に浴びながらも表情はいつもどおり。
しかし、彼の右手はすでに剣のグリップを握っていて、殺る気満々だった。短い黒髪であるせいか、さっきから極道の若頭に見えてならない。
辺りに散らばっている護衛の騎士団員は皆、マークさんを見ていた。若頭の指示を待つ若い衆と化している。
このままでは死人が出る。止めなくては!
とりあえず組長(?)を止めよう!
わたしはヴィルさんの腕をさすった。
「ヴィルさんはモテますから、当然こういうこともありますよ。ね?」
「不敬罪だ。死をもって償わせよう」
「そ、そういうのは、ちょっと」
「こんなに証人がいることも珍しい」
彼の表情筋は死んだままだ。
無理に笑顔を作ろうとしたのか、口角が変な角度で上がってヒクヒクしている。
どなたかモザイクを……彼の顔にモザイクをっ(泣)
「物騒なことはやめましょう? ねっ?」
「人が増えてきたな。皆、リアを囲め!」
「へ?」
パウダールームの前には人だかりができていた。
たまたま現場に居合わせた人々は「これはもう不敬罪になる」と確信し、証人になるつもりなのだろう。皆その場に留まってくれていた。
後から来た通行人たちが「何があったのか」と声をかけている。口から口へと伝播し、人の輪はさらに膨らんだ。
ヴィルさんの指示で、わたしの周りに騎士の壁ができた。
「お黙りなさい。見苦しいですよ。わたくしの神薙様はそんなお方ではありません」
聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
「マリン? 中にマリンがいます!」
「リア様、ここを動いてはいけません」
騎士の壁から出ていこうとするわたしの手をつかみ、アレンさんが止めた。
「でも、マリンが一人で……」
「今はいい子にしていてください」
「アレンさん、行かせて?」
「ソレント子爵令嬢は神薙の女官となるべく厳しく育てられています。その辺の令嬢とはわけが違います。出てくるのを待ちましょう」
「そんな……」
「リア様はここで待機してください。大丈夫ですよ。心配は要りません」と、彼はわたしの頭をなでた。
わたしが納得いかない素振りを見せると、侍女長が後ろからそっと肩に手をかけた。
「リア様? わたくしたちの友人は、そんなにヤワではありませんわ」
悔しい……。
神薙だというだけで、大好きなマリンを助けにも行けないなんて。
ざわついていた廊下が一瞬にして凍りついた。
格式の高い舞踏会で「淫乱」とはスゴイ単語が出たものだ。
もしかして、それはわたしのことを言っていらっしゃる?
「わたくしたちが知らないとでも思っているのかしら。神薙なんてただの淫獣ですのよ? ランドルフ様と婚姻が結べるような生き物ではありませんわ」
「きっと、あのカラダで殿方を操っているのだわ」
「まるで娼婦ですわね。汚らわしいっ」
パウダールームからは三人の女性の声が聞こえていた。
お化粧を直しながら話しているうちに白熱してしまったのだろうか。淫乱・淫獣・汚らわしいの悪口三拍子を頂戴した。
「それは先代の神薙のことですよ」とコッソリ教えてあげたい。
それに、ヴィルさんはカラダごときで操れるような人ではないので、彼に対しても失礼だ。
先代の神薙が淫乱・淫獣・汚らわしいを基本三原則としていたのは紛れもない事実だ。
夫が書いた暴露本を熟読し、アレンさんたちから実際の話も聞いた。知れば知るほどひどい悪女なので、同類だと勘違いされるリスクがあることは承知していた。
情報統制をしていたとは言っていたけれども、やはり外へ漏れている。そもそも暴露本という形で世に出てしまっている以上、それが人から人へと渡ることは容易に想像がつく。戸を立てられないのが人の口だ。
訂正するにしても、わたしはパウダールームに入れない。出てきていただかないことには直接お話しすることが叶わない状況だ。
そうかと言って、話が終わって出てくるのを待っているのもチョット……。
とりあえず笑ってサクッとスルーするのが良いのだろうか。とっとと休憩室へ行って、のんびりと美味しいシャンパンを頂くほうが平和だ。
「うふふ、なんだかタイミング悪いところに来……ッ!?」
いつものノリで皆に話しかけようとして驚いた。
関係者一同の様子がおかしい。
侍女長は顔面蒼白で唇がヒクヒクと引きつっていた。
侍女のイルサは下唇を噛んで眉間にシワを寄せ、パウダールームをにらみつけている。丈の長いスカートの学生服を着せたら、伝説のヤンキー娘だ。
ヴィルさんは顔が真っ赤なのに無表情だった。
ついさっきまで祝福の言葉を浴びて照れ笑いしていた彼の表情筋が死に絶えている。
フィデルさんの頭上には小さな雪雲が発生しており、パラパラと雪が降っていた。脳内常夏男はオーバーヒートを防止するため、物理的に頭を冷やそうとしているようだ。
しかし、アレンさんの魔力が漏れ出して風が吹いている。せっかく降らせた雪が風に煽られてしまい、マークさんの顔にビシビシと吹きつけている。
寡黙で硬派なマークさんだけは皆と違って冷静に見えた。局地的吹雪を顔に浴びながらも表情はいつもどおり。
しかし、彼の右手はすでに剣のグリップを握っていて、殺る気満々だった。短い黒髪であるせいか、さっきから極道の若頭に見えてならない。
辺りに散らばっている護衛の騎士団員は皆、マークさんを見ていた。若頭の指示を待つ若い衆と化している。
このままでは死人が出る。止めなくては!
とりあえず組長(?)を止めよう!
わたしはヴィルさんの腕をさすった。
「ヴィルさんはモテますから、当然こういうこともありますよ。ね?」
「不敬罪だ。死をもって償わせよう」
「そ、そういうのは、ちょっと」
「こんなに証人がいることも珍しい」
彼の表情筋は死んだままだ。
無理に笑顔を作ろうとしたのか、口角が変な角度で上がってヒクヒクしている。
どなたかモザイクを……彼の顔にモザイクをっ(泣)
「物騒なことはやめましょう? ねっ?」
「人が増えてきたな。皆、リアを囲め!」
「へ?」
パウダールームの前には人だかりができていた。
たまたま現場に居合わせた人々は「これはもう不敬罪になる」と確信し、証人になるつもりなのだろう。皆その場に留まってくれていた。
後から来た通行人たちが「何があったのか」と声をかけている。口から口へと伝播し、人の輪はさらに膨らんだ。
ヴィルさんの指示で、わたしの周りに騎士の壁ができた。
「お黙りなさい。見苦しいですよ。わたくしの神薙様はそんなお方ではありません」
聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
「マリン? 中にマリンがいます!」
「リア様、ここを動いてはいけません」
騎士の壁から出ていこうとするわたしの手をつかみ、アレンさんが止めた。
「でも、マリンが一人で……」
「今はいい子にしていてください」
「アレンさん、行かせて?」
「ソレント子爵令嬢は神薙の女官となるべく厳しく育てられています。その辺の令嬢とはわけが違います。出てくるのを待ちましょう」
「そんな……」
「リア様はここで待機してください。大丈夫ですよ。心配は要りません」と、彼はわたしの頭をなでた。
わたしが納得いかない素振りを見せると、侍女長が後ろからそっと肩に手をかけた。
「リア様? わたくしたちの友人は、そんなにヤワではありませんわ」
悔しい……。
神薙だというだけで、大好きなマリンを助けにも行けないなんて。
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