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5[リア]
東方聖教
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お正月と言えばコタツ・ミカン・お煎餅の三点セットだ。
わたしのお部屋にコタツはないけれども、リビングの土禁区画には「ちゃぶ台もどき」がある。
まずはそこでモフモフ毛布を膝に掛けておミカンを頂く。
ターロン市場で買ったお煎餅風クラッカーをパリポリかじれば、なんとなく実家の居間と雰囲気が似ていなくもない。
テレビで漫才でも見られたら最高なのだけれども、あいにくこの世界にテレビはない。
しかし、同じ毛布を膝に掛け、あぐらをかいてリラックスしているヴィルさんとアレンさんが漫才のようなやり取りをしているおかげで、しっかり初笑いもさせてもらえた。
異世界のナンチャッテ正月。初めてにしては上出来だ。
コロンと横になった。
「は~っ、これで今年は大丈夫」
オルランディアの皆さま、明けおめです♪
「美味いミカンを食べてゴロゴロするところまでが新年の儀式なのか? リアの国は面白いな」と、ヴィルさんが笑った。
「これぞわたしの年明けです」
「普段から食事のたびに祈り、会ったこともない農夫にまで感謝をささげる。なのに一年の始まりの日には料理にまで願をかける」
「一年の最後の日もやるのですよ? 細く長く生きられるようにと、そばの粉で作った細長い麺を食べるので」
「太く長くではないのか?」
「図々しい民に母国の神様は微笑んでくれないのです」
「なるほど。それはオルランディアの神も同じかも知れない」
「いつもならこの後は初詣……こちらで言うところの礼拝に行きます。夜中に行く人たちもいるのですが、我が家では昼間に行くのが習慣でした」
「まさか、またそこで祈るのか?」
「フフッ、そうなのです」
「なんて信心深い民だ!」
わたしは人差し指をこねこねした。
「でも、聖堂には行かないほうがいいのですよね?」と、彼をのぞき込む。
「不便をかけてすまない」
彼はすまなそうな顔で、わたしの頭をなでた。
☟
王都には聖堂や教会がたくさんある。
人が多く集まる商業区画には大きな聖堂、人の少ない場所にはこぢんまりとした教会が建てられていた。
王宮の南側にある王都中央大聖堂は、国教である「東方聖教」の中心地で、その荘厳な建築物は街のランドマークにもなっている。
前を通るたび、中もさぞかし美しいのだろうとは思うものの、残念ながらわたしはそこに立ち入ることができない。陛下から行かないようにと「お願い」をされているのだ。
アレンさんはお米クラッカーを食べながら、宗教事情について詳しく教えてくれた。
この世界の宗教観は独特で、世界人口のほとんどが同じ神様を信仰しているらしい。
「神の存在は、やや漠然としています。名前もありませんし、どのような姿をしているのかもわかりません」と、彼は言う。
「ただ、この図が神です。世界中どこへ行っても『これは神だ』と誰もがわかります」
大小二つの円を並べて線でつないだような図を見せてもらった。それが神のシンボルらしい。
二つの円の大きさと位置関係から、太陽を表しているように見えた。
「この円はお日様ですよね? 二つあるから、神様は二人ですか?」
「いいえ、神は一つで、『光』の神です。しかし、これを見るとお日様だとわかります」
「いわゆる全知全能の神というやつですか?」
「明言はされていませんが、そう考えて良いかと思います」
「太陽神かつ唯一神……なるほどぉ」
光の神や太陽神は地球にもいろいろあったけれど、唯一神となると少ない気がする。
神の下には『神の遣い』と呼ばれる存在が三つあると彼は言った。
①守護龍 ②守護龍の補佐役 ③聖女だそうだ。
「神は一つですが、神の遣いは大陸ごとに異なります。ここ東大陸の守護龍は『大地の龍』です」
「あ……国旗の?」
「そうです」
国旗だけではない。
いつも陛下が首から下げているメダリオン、男子のアクセサリー、お店の看板、壁のイタズラ書き……。あらゆる場所に描かれていた。
元ネタは何なのだろうと思っていたけれど、まさかの宗教だった。
守護龍の役割は大陸の「管理」だそうだ。
穢れて建て直しが必要になると、その地に降り立ち、火を噴いて焦土にする(!)という。
守護龍と言いつつ、生きとし生けるものを根こそぎ死滅させるキャラ設定は怖すぎる。
「守護龍の補佐役は補助者などとも呼ばれますが、情報収集などをして龍の手伝いをする動物です。小さい子どもたちは『龍のお友達』などと教わります」
「まあ、かわいらしい♪」
東大陸では疾風のように地を走る銀毛のオオカミで、人々はそれを「神狼」と呼んでいるそうだ。
「仕事の道中で悪人を見かけると、目にも止まらぬ速さで食べてしまいます」
「どうして、龍もお友達も残忍キャラ設定なのですか……」
法で悪事を裁かれるならまだしも「出張先での食事」みたいなノリで食べられてしまっては、悪人もたまったものではない。
オルランディアの親御さんたちは、言うことを聞かない子どもに「神狼様が来てお尻をかじられるよ」などと言うらしい。日本の「鬼が来るぞ」みたいなものだろう。
子どもたちにとって、カッコイイ龍のお友達は「おしりかじりオオカミ」なのだ。
「東大陸に聖女はいませんが、よその大陸には一人ずついます。いずれも信仰の対象です。聖女は民を愛し、大陸に繁栄と平和をもたらす存在です。あなたは聖女の代わりにいる人なので、すなわち神の遣いでもあります」
「いえいえいえ、わたしは平凡すぎるただの人です」
わたしが思い切り否定すると、アレンさんは笑った。
「聖女は今、西と南の大陸に一人ずついるだけですが、昔は北と東大陸にもいました。それと、歴史上にもう一人、これは私が生まれる少し前くらいのようですが、わずかな期間だけこの世界にいた聖人がいます」
「聖人……? ということは男性ですか?」
「男性です。魔物の大発生から知恵を用いて世界を救った英雄です」
「へえ~」
ヴィントランツ王国に行くと、王宮のすぐ近くにその聖人を祀る聖堂があるそうだ。
「聖女と聖人だけは生身の人間でありながら、信仰の対象になっているのですねぇ」
「実は守護龍とそのお友達も、現実に存在する生き物だと言われています」
「え……ええーー?」
オオカミは良いとしても、龍まで実在すると言われたら少し戸惑う。
「龍を見たことがあるのですか?」
「私はないですが、西大陸では見たことがあると言っている人がいました」
もし、本当に大陸をまるっと焦土にするなら、間違いなく巨大生物だろう。
そうなると、神の遣いというより、むしろ「大陸の支配者」に近い気がする。
龍がリアルに存在するかはさておき、神・守護龍・お友達・聖女、この四つを信仰するのが「エルーシア聖教」だそうだ。
信仰する「龍」の種類によって宗派は分かれる。
大地の龍を信仰する東大陸では「エルーシア東方聖教」もしくは単に「東方聖教」と呼んでいるらしい。
エルーシアとは、この惑星の名前のようだった。
ところが「惑星」についての認識がうまく噛み合わない。
天体と世界は必ずしもイコールでつながらないようなニュアンスで彼らは話していた。この星の中に、エルーシアとは別の世界が存在するかも知れない、と。
わたしがこの世界を理解するには、もっと時間が必要だと感じた。
わたしのお部屋にコタツはないけれども、リビングの土禁区画には「ちゃぶ台もどき」がある。
まずはそこでモフモフ毛布を膝に掛けておミカンを頂く。
ターロン市場で買ったお煎餅風クラッカーをパリポリかじれば、なんとなく実家の居間と雰囲気が似ていなくもない。
テレビで漫才でも見られたら最高なのだけれども、あいにくこの世界にテレビはない。
しかし、同じ毛布を膝に掛け、あぐらをかいてリラックスしているヴィルさんとアレンさんが漫才のようなやり取りをしているおかげで、しっかり初笑いもさせてもらえた。
異世界のナンチャッテ正月。初めてにしては上出来だ。
コロンと横になった。
「は~っ、これで今年は大丈夫」
オルランディアの皆さま、明けおめです♪
「美味いミカンを食べてゴロゴロするところまでが新年の儀式なのか? リアの国は面白いな」と、ヴィルさんが笑った。
「これぞわたしの年明けです」
「普段から食事のたびに祈り、会ったこともない農夫にまで感謝をささげる。なのに一年の始まりの日には料理にまで願をかける」
「一年の最後の日もやるのですよ? 細く長く生きられるようにと、そばの粉で作った細長い麺を食べるので」
「太く長くではないのか?」
「図々しい民に母国の神様は微笑んでくれないのです」
「なるほど。それはオルランディアの神も同じかも知れない」
「いつもならこの後は初詣……こちらで言うところの礼拝に行きます。夜中に行く人たちもいるのですが、我が家では昼間に行くのが習慣でした」
「まさか、またそこで祈るのか?」
「フフッ、そうなのです」
「なんて信心深い民だ!」
わたしは人差し指をこねこねした。
「でも、聖堂には行かないほうがいいのですよね?」と、彼をのぞき込む。
「不便をかけてすまない」
彼はすまなそうな顔で、わたしの頭をなでた。
☟
王都には聖堂や教会がたくさんある。
人が多く集まる商業区画には大きな聖堂、人の少ない場所にはこぢんまりとした教会が建てられていた。
王宮の南側にある王都中央大聖堂は、国教である「東方聖教」の中心地で、その荘厳な建築物は街のランドマークにもなっている。
前を通るたび、中もさぞかし美しいのだろうとは思うものの、残念ながらわたしはそこに立ち入ることができない。陛下から行かないようにと「お願い」をされているのだ。
アレンさんはお米クラッカーを食べながら、宗教事情について詳しく教えてくれた。
この世界の宗教観は独特で、世界人口のほとんどが同じ神様を信仰しているらしい。
「神の存在は、やや漠然としています。名前もありませんし、どのような姿をしているのかもわかりません」と、彼は言う。
「ただ、この図が神です。世界中どこへ行っても『これは神だ』と誰もがわかります」
大小二つの円を並べて線でつないだような図を見せてもらった。それが神のシンボルらしい。
二つの円の大きさと位置関係から、太陽を表しているように見えた。
「この円はお日様ですよね? 二つあるから、神様は二人ですか?」
「いいえ、神は一つで、『光』の神です。しかし、これを見るとお日様だとわかります」
「いわゆる全知全能の神というやつですか?」
「明言はされていませんが、そう考えて良いかと思います」
「太陽神かつ唯一神……なるほどぉ」
光の神や太陽神は地球にもいろいろあったけれど、唯一神となると少ない気がする。
神の下には『神の遣い』と呼ばれる存在が三つあると彼は言った。
①守護龍 ②守護龍の補佐役 ③聖女だそうだ。
「神は一つですが、神の遣いは大陸ごとに異なります。ここ東大陸の守護龍は『大地の龍』です」
「あ……国旗の?」
「そうです」
国旗だけではない。
いつも陛下が首から下げているメダリオン、男子のアクセサリー、お店の看板、壁のイタズラ書き……。あらゆる場所に描かれていた。
元ネタは何なのだろうと思っていたけれど、まさかの宗教だった。
守護龍の役割は大陸の「管理」だそうだ。
穢れて建て直しが必要になると、その地に降り立ち、火を噴いて焦土にする(!)という。
守護龍と言いつつ、生きとし生けるものを根こそぎ死滅させるキャラ設定は怖すぎる。
「守護龍の補佐役は補助者などとも呼ばれますが、情報収集などをして龍の手伝いをする動物です。小さい子どもたちは『龍のお友達』などと教わります」
「まあ、かわいらしい♪」
東大陸では疾風のように地を走る銀毛のオオカミで、人々はそれを「神狼」と呼んでいるそうだ。
「仕事の道中で悪人を見かけると、目にも止まらぬ速さで食べてしまいます」
「どうして、龍もお友達も残忍キャラ設定なのですか……」
法で悪事を裁かれるならまだしも「出張先での食事」みたいなノリで食べられてしまっては、悪人もたまったものではない。
オルランディアの親御さんたちは、言うことを聞かない子どもに「神狼様が来てお尻をかじられるよ」などと言うらしい。日本の「鬼が来るぞ」みたいなものだろう。
子どもたちにとって、カッコイイ龍のお友達は「おしりかじりオオカミ」なのだ。
「東大陸に聖女はいませんが、よその大陸には一人ずついます。いずれも信仰の対象です。聖女は民を愛し、大陸に繁栄と平和をもたらす存在です。あなたは聖女の代わりにいる人なので、すなわち神の遣いでもあります」
「いえいえいえ、わたしは平凡すぎるただの人です」
わたしが思い切り否定すると、アレンさんは笑った。
「聖女は今、西と南の大陸に一人ずついるだけですが、昔は北と東大陸にもいました。それと、歴史上にもう一人、これは私が生まれる少し前くらいのようですが、わずかな期間だけこの世界にいた聖人がいます」
「聖人……? ということは男性ですか?」
「男性です。魔物の大発生から知恵を用いて世界を救った英雄です」
「へえ~」
ヴィントランツ王国に行くと、王宮のすぐ近くにその聖人を祀る聖堂があるそうだ。
「聖女と聖人だけは生身の人間でありながら、信仰の対象になっているのですねぇ」
「実は守護龍とそのお友達も、現実に存在する生き物だと言われています」
「え……ええーー?」
オオカミは良いとしても、龍まで実在すると言われたら少し戸惑う。
「龍を見たことがあるのですか?」
「私はないですが、西大陸では見たことがあると言っている人がいました」
もし、本当に大陸をまるっと焦土にするなら、間違いなく巨大生物だろう。
そうなると、神の遣いというより、むしろ「大陸の支配者」に近い気がする。
龍がリアルに存在するかはさておき、神・守護龍・お友達・聖女、この四つを信仰するのが「エルーシア聖教」だそうだ。
信仰する「龍」の種類によって宗派は分かれる。
大地の龍を信仰する東大陸では「エルーシア東方聖教」もしくは単に「東方聖教」と呼んでいるらしい。
エルーシアとは、この惑星の名前のようだった。
ところが「惑星」についての認識がうまく噛み合わない。
天体と世界は必ずしもイコールでつながらないようなニュアンスで彼らは話していた。この星の中に、エルーシアとは別の世界が存在するかも知れない、と。
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