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[リア]
厄介者 §3
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「ダドリー・ドルマンさん、あなたはこうして訪れた人に上からものを言い、相手が泣いたり怒ったりする様子を見て楽しんでいるのですね? 趣味として」
わたしがそう言うと、セシル様はハッとして口を押さえた。
感情的になればなるほど彼を喜ばせることになる。その証拠に、彼は先程から姉としか話をしていない。わたしに何を言っても、シラーっとしていて、ばかにされるから面白くないのだ。
「時間が惜しいので、弟さんのことは王都に着いてから対処したいと思います」と伝えたところ、彼女も納得してうなずいた。
「ダドリー、これが最後に見る弟の姿かと思うと、情けない気持ちで一杯です。姉は金輪際、あなたの名は呼びません」
彼女は細い体を震わせ、弟に絶縁宣言をしていた。
わたしが来なければ、彼女はこんなことを言わなくて済んだのかも知れない。親切にしてくれた人の弟だけに、思いは複雑だった。
「ダドリー・ドルマンさん」と、声をかけた。
これだけ何度もリピートしておけば、さすがのわたしも名前を忘れることはないだろう。
わたしは仰々しくフォーマルなお辞儀をした。
オルランディアで生きているかぎり、死ぬまでに数回しかやらないお辞儀だ。これが皮肉だったとわかる時、彼は監獄の中にいるだろう。
「二度とお会いすることはございませんが、あなた様に言われたことは一言一句忘れず王都へ戻ることにいたします。あなた様の哀れで勘違いな幸福が一日でも長く続くことをお祈りしておりますわ」
彼はフンと鼻を鳴らして部屋から出ていった。
お姉さんの言うことを聞いておけばよかったのに。せいぜい威張りくさって嫌われていなさい。
☟
グレコルに来れば王都に帰れると思っていた。
無事に帰れるなら、なんだっていい。
なにせ結婚式が近い。男性向けおぱんつショップの開店も間近だ。
お店はわたしがいなくてもベルソール商会がやってくれるけれど、さすがに結婚式にわたしが不在というのは有り得ない。
頭に浮かんでいる選択肢は四つある。
お城でくまんつパパからお金を借り、パッケージツアーに申し込んで帰るのは超オーソドックスかつ真面目なプランAだ。
ハイリスクな選択肢もある。
セシル様にお金をお借りし、地図と定規を買う。座標を計算したら、近くにいる騎士様に声をかけ、確認してもらう。【転送】で王都に戻る。お金は後日返す。
【転送】失敗のリスクは伴うけれども、確認作業を助けてくれる人がいれば帰れるだろう。これはプランCだ。
プランDは身バレ上等の過激コース。
ここでちょっとした魔法を行使し、もう聖女だとばらしてしまう。そのうえで「領主を連れて来なさい」とでも言えば、殿に会えるだろう。聖女の非常事態ともなれば、大抵のことは許される。ただ、気は進まない。
わたしはあえて最も真っ当かつ安全な方法で帰ろうとしている。
なぜなら、アレンさんに心配をかけたくないからだ。
一人でエレベーターにも乗せてくれないほど過保護な彼が、今、死ぬほど心配しているのはわかっている。彼の焦った顔がまぶたの裏に焼きついて、わたしの胸をひどく締めつけていた。
「そんなに危ない橋を渡って帰ってきたのか」と思われたくない。ちゃんと石橋をたたいて、安全に帰ってきましたと言いたい。
申し訳なさそうに水色の瞳を潤ませるセシル様を励まし、お役所の受付に寄った。
「領主補佐を自称する妙な人が出てきて話になりません。申請したとおりトーマス様に会わせてください」と事情を話したけれども、彼らは何もしてくれなかった。
☟
「ええい、甘いものでも食べねば気が済みませんわーッ!」
ちょっぴり嫌いになりそうな『くまんつ城』を出るなり、セシル様は細い腕をぶんぶん振り回した。
貴族女子の皆さまは、よくこれを言うので面白い。甘いものが口に入ると「これがあれば、たいていのことはガマンできますわ」と言うのもお決まりだ。
彼女に連れられて、領館近くのしゃれたカフェに入った。
ダドリーは子どもの頃から少し変わっていたらしい。いつも何かブツブツ言っていて、彼の行動が原因で家族は手を焼いていたそうだ。どういうわけか領主の次男と親しくなり、従者に召し上げられたそうだ。
辺境伯家令息の従者が農家の息子というのは相当珍しい。やたらと身分のことを言うのは、彼の劣等感の現れだというのが姉の談だ。
「どうしてそんなに落ち着いてらっしゃるのですか?」と、彼女が不思議そうな顔をして言った。
「無一文で知らない場所に放り出されるのも、失礼な言葉を浴びるのも初めてではないので」と答えた。
「お助けいたしますわ。わたくしが旅費を!」
「まあまあまあ」
彼女を落ち着かせ、わたしたちはバターケーキをはむはむしながら作戦会議をした。
わたしは頭の中にあった計画を一つずつ丁寧に説明した。
役場に対して腹を立てていたこともあり、城の一部を爆破して「領主を呼んで来いや」と呼びつける案は彼女に大ウケした。えらく興奮して「それでもよろしいのでは? やっちゃいません?」と言う。わたしはそんなセシル様が大好きだ。
相談のうえでプランBが採用された。
時間が許す範囲でクランツ領の人々と触れ合い、売れるものを売って旅費を稼いで帰る計画だ。
「でも、売るって何を?」と、彼女は言った。
「あ、わたし、一見手ぶらなのですけれど、実は普通の旅行者よりも荷物をたくさん持っていて……」と説明をした。
どこに持っているかって?
テレレテッテレー♪ 【亜空間収納】!
☟
結婚式まで約一か月。
ここから王都までの道のりが約二週間。時間はあまり多くない。しかし、意地でも安全に王都へ帰ってみせる。
嫌な奴に邪魔されてお殿様に会えなかったので、今から帰りの旅費を稼ごうと思いますっ。ぷんっ!
わたしがそう言うと、セシル様はハッとして口を押さえた。
感情的になればなるほど彼を喜ばせることになる。その証拠に、彼は先程から姉としか話をしていない。わたしに何を言っても、シラーっとしていて、ばかにされるから面白くないのだ。
「時間が惜しいので、弟さんのことは王都に着いてから対処したいと思います」と伝えたところ、彼女も納得してうなずいた。
「ダドリー、これが最後に見る弟の姿かと思うと、情けない気持ちで一杯です。姉は金輪際、あなたの名は呼びません」
彼女は細い体を震わせ、弟に絶縁宣言をしていた。
わたしが来なければ、彼女はこんなことを言わなくて済んだのかも知れない。親切にしてくれた人の弟だけに、思いは複雑だった。
「ダドリー・ドルマンさん」と、声をかけた。
これだけ何度もリピートしておけば、さすがのわたしも名前を忘れることはないだろう。
わたしは仰々しくフォーマルなお辞儀をした。
オルランディアで生きているかぎり、死ぬまでに数回しかやらないお辞儀だ。これが皮肉だったとわかる時、彼は監獄の中にいるだろう。
「二度とお会いすることはございませんが、あなた様に言われたことは一言一句忘れず王都へ戻ることにいたします。あなた様の哀れで勘違いな幸福が一日でも長く続くことをお祈りしておりますわ」
彼はフンと鼻を鳴らして部屋から出ていった。
お姉さんの言うことを聞いておけばよかったのに。せいぜい威張りくさって嫌われていなさい。
☟
グレコルに来れば王都に帰れると思っていた。
無事に帰れるなら、なんだっていい。
なにせ結婚式が近い。男性向けおぱんつショップの開店も間近だ。
お店はわたしがいなくてもベルソール商会がやってくれるけれど、さすがに結婚式にわたしが不在というのは有り得ない。
頭に浮かんでいる選択肢は四つある。
お城でくまんつパパからお金を借り、パッケージツアーに申し込んで帰るのは超オーソドックスかつ真面目なプランAだ。
ハイリスクな選択肢もある。
セシル様にお金をお借りし、地図と定規を買う。座標を計算したら、近くにいる騎士様に声をかけ、確認してもらう。【転送】で王都に戻る。お金は後日返す。
【転送】失敗のリスクは伴うけれども、確認作業を助けてくれる人がいれば帰れるだろう。これはプランCだ。
プランDは身バレ上等の過激コース。
ここでちょっとした魔法を行使し、もう聖女だとばらしてしまう。そのうえで「領主を連れて来なさい」とでも言えば、殿に会えるだろう。聖女の非常事態ともなれば、大抵のことは許される。ただ、気は進まない。
わたしはあえて最も真っ当かつ安全な方法で帰ろうとしている。
なぜなら、アレンさんに心配をかけたくないからだ。
一人でエレベーターにも乗せてくれないほど過保護な彼が、今、死ぬほど心配しているのはわかっている。彼の焦った顔がまぶたの裏に焼きついて、わたしの胸をひどく締めつけていた。
「そんなに危ない橋を渡って帰ってきたのか」と思われたくない。ちゃんと石橋をたたいて、安全に帰ってきましたと言いたい。
申し訳なさそうに水色の瞳を潤ませるセシル様を励まし、お役所の受付に寄った。
「領主補佐を自称する妙な人が出てきて話になりません。申請したとおりトーマス様に会わせてください」と事情を話したけれども、彼らは何もしてくれなかった。
☟
「ええい、甘いものでも食べねば気が済みませんわーッ!」
ちょっぴり嫌いになりそうな『くまんつ城』を出るなり、セシル様は細い腕をぶんぶん振り回した。
貴族女子の皆さまは、よくこれを言うので面白い。甘いものが口に入ると「これがあれば、たいていのことはガマンできますわ」と言うのもお決まりだ。
彼女に連れられて、領館近くのしゃれたカフェに入った。
ダドリーは子どもの頃から少し変わっていたらしい。いつも何かブツブツ言っていて、彼の行動が原因で家族は手を焼いていたそうだ。どういうわけか領主の次男と親しくなり、従者に召し上げられたそうだ。
辺境伯家令息の従者が農家の息子というのは相当珍しい。やたらと身分のことを言うのは、彼の劣等感の現れだというのが姉の談だ。
「どうしてそんなに落ち着いてらっしゃるのですか?」と、彼女が不思議そうな顔をして言った。
「無一文で知らない場所に放り出されるのも、失礼な言葉を浴びるのも初めてではないので」と答えた。
「お助けいたしますわ。わたくしが旅費を!」
「まあまあまあ」
彼女を落ち着かせ、わたしたちはバターケーキをはむはむしながら作戦会議をした。
わたしは頭の中にあった計画を一つずつ丁寧に説明した。
役場に対して腹を立てていたこともあり、城の一部を爆破して「領主を呼んで来いや」と呼びつける案は彼女に大ウケした。えらく興奮して「それでもよろしいのでは? やっちゃいません?」と言う。わたしはそんなセシル様が大好きだ。
相談のうえでプランBが採用された。
時間が許す範囲でクランツ領の人々と触れ合い、売れるものを売って旅費を稼いで帰る計画だ。
「でも、売るって何を?」と、彼女は言った。
「あ、わたし、一見手ぶらなのですけれど、実は普通の旅行者よりも荷物をたくさん持っていて……」と説明をした。
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☟
結婚式まで約一か月。
ここから王都までの道のりが約二週間。時間はあまり多くない。しかし、意地でも安全に王都へ帰ってみせる。
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