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1[ヴィル]
神薙からの返事
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魔力ペンを渡したことで得られた結果は素晴らしいものだった。
神薙の持つ魔力は天人族と同じもので、それは高魔力者用のペン『フギンの二番』を使いこなせる王国最高クラスだ。
あの小リスのような神薙が、王族である俺と肩を並べるほどの魔力を持っているのだから凄いことだ。
香ばしくて甘い神薙のパイを思い出させるようなナッツ臭は、彼女の魔力の匂いで間違いない。
花のような香りは、魔力とは別物だと分かった。
魔力ペンを使っても花の香りに変化が起きなかったということは、つまりそういうことだ。正体は分からないが、神薙の別の力に違いない。
俺は興奮して足をばたつかせた。
封を切り、便箋を開くと、一瞬、思考が停止した。
気持ちが良すぎた。
一日の疲れが溶け出すようだ。
もし、俺が今日この手紙を持ち歩いていたなら、疲労とは無縁だっただろう。
神薙から漏れ出している魔力は包み込むように温かい癒しの力だ。
彼女は治癒や解毒・解呪などの回復魔法が属する『聖』属性の持ち主だ。そして、それは王宮医ブロックルの治癒魔法を弾くほど強い。
さらに、彼女の持つ属性の中では、聖属性が一番強いのだろう。魔力が漏れ出すとき、体内で最も強い属性を帯びて出ていくことが多いからだ。
聖属性を帯びた魔力を全身から垂れ流している人物にはお目にかかったことがない。どう考えても普通はいないだろう。
あの横道で、俺はただ神薙の手を冷やしてやろうと思っただけだった。
座らせる場所もなかったので、体を支えてやろうとした。
癒してやるつもりだった俺が逆に癒されてしまい、気持ち良くて放せなくなってしまった。
そこに、花のような香りがした。
俺はこの香りに弱い。
香っている間は妙な高揚感があり、神薙に吸い寄せられるようだった。
そして、香りが消えると落ち着かない気持ちになる。
真っ暗な夜に、部屋の灯りがすべて消えてしまったような、寂しい気分になる。
この香りが何なのかは、神薙のそばにいれば分かるかも知れない。寂しいような気持ちも、そばにいれば満たされるだろう。
しかし、それは俺が身分を明かすことに他ならない。
アレンとクリスには言わなかったが、俺があの横道で家名を名乗れなかったもう一つの理由は、俺個人の問題ではなく家の問題だ。
俺は父が決めた方針に則って、神薙と距離を置かなければならない。
俺と父はランドルフ姓を名乗っているが、父は元王太子だし、事実上は王家の一部だ。なにせ二人とも王位継承権を持っている。
王家というのは、必要なとき以外は神薙に近づかない家だ。
子孫を得るために致し方なく閨を共にすることはあるが、あくまでも王子を得るという目的があってのことであり、夫にはならない。
だから俺は、自分が何者かを明かさないという選択をしている。
そんな中、叔父は神薙に熱を上げている。
これまでの王家の在り方を考えると、これは由々しき事態だ。
しかし、当代の神薙は今までの神薙と違い過ぎる。あらゆるものが規格外で、今までと同じ型にはめられない。
王家の人間も神薙と婚姻を結ぶ可能性が出てきているのだ。誰かが冷静に彼女を見極めなくてはならない。
父や宰相では遠すぎる。
アレンでは近すぎる。
今、俺以上の適任者はいないだろう。俺は神薙の本性を知りたいのだ。
練習をしたのか、それともペンが手に合ったのか、神薙の字は前回に比べて上達していた。
そして、俺が書いたいくつかの質問に答えてくれていた。神薙は律儀だ。
彼女は元の世界では三か国語を話していたようだ。
母国語が標準語だったため、新しく学ぶ言語は訛りのある国の人から習ったと書いてあった。
神薙にとって、外国語は訛っているほうが良いようだ。面白い。だから宮廷訛りなのだろうか。
神薙は旅が好きらしい。
パトラという国はないが、似た地名の場所なら訪れたことがあると言う。歴史深い国の、小さな港町だそうだ。
空を飛ぶ船(?)を使って旅をするらしい。
神薙の世界では、船が空を飛ぶようだ。
家に馬はおらず、代わりに馬二百頭分の力がある車があるらしい。
……よく分からない。
神薙は一人で暮らしていたようだ。
これも意味がよく分からない。
誰が食事の支度をしたり、服を着せたりするのだろう。
もっと詳しく聞かねば分からないことがたくさんある。
俺への質問が書いてあった。
「ヴィルさんは、お休みの日はどんなことをして過ごしているのですか?」
ヤバい……、くそ可愛い。
馬で遠乗り、騎士科時代の仲間と食事、クリスと休みが合えば山や釣りへ行ったりもするが、一番多いのは「叔父と父に用を頼まれて休みを潰される」だ。
可哀想な俺を助けてくれ、神薙。
俺はセッセと手紙を書いた。
すると神薙も律儀に返事を返してきた。
神薙の花の香りは、やはり一日経つと消えてなくなり、俺に喪失感を与えた。
しかし、魔力ペンのおかげで、じんわりとした癒しの魔力が残り、次の返事が来る頃まで効果が持続するようになっていた。
俺は神薙の手紙を上着のポケットに忍ばせて仕事をしていた。
過去最高に毎日調子が良かった。
神薙の持つ魔力は天人族と同じもので、それは高魔力者用のペン『フギンの二番』を使いこなせる王国最高クラスだ。
あの小リスのような神薙が、王族である俺と肩を並べるほどの魔力を持っているのだから凄いことだ。
香ばしくて甘い神薙のパイを思い出させるようなナッツ臭は、彼女の魔力の匂いで間違いない。
花のような香りは、魔力とは別物だと分かった。
魔力ペンを使っても花の香りに変化が起きなかったということは、つまりそういうことだ。正体は分からないが、神薙の別の力に違いない。
俺は興奮して足をばたつかせた。
封を切り、便箋を開くと、一瞬、思考が停止した。
気持ちが良すぎた。
一日の疲れが溶け出すようだ。
もし、俺が今日この手紙を持ち歩いていたなら、疲労とは無縁だっただろう。
神薙から漏れ出している魔力は包み込むように温かい癒しの力だ。
彼女は治癒や解毒・解呪などの回復魔法が属する『聖』属性の持ち主だ。そして、それは王宮医ブロックルの治癒魔法を弾くほど強い。
さらに、彼女の持つ属性の中では、聖属性が一番強いのだろう。魔力が漏れ出すとき、体内で最も強い属性を帯びて出ていくことが多いからだ。
聖属性を帯びた魔力を全身から垂れ流している人物にはお目にかかったことがない。どう考えても普通はいないだろう。
あの横道で、俺はただ神薙の手を冷やしてやろうと思っただけだった。
座らせる場所もなかったので、体を支えてやろうとした。
癒してやるつもりだった俺が逆に癒されてしまい、気持ち良くて放せなくなってしまった。
そこに、花のような香りがした。
俺はこの香りに弱い。
香っている間は妙な高揚感があり、神薙に吸い寄せられるようだった。
そして、香りが消えると落ち着かない気持ちになる。
真っ暗な夜に、部屋の灯りがすべて消えてしまったような、寂しい気分になる。
この香りが何なのかは、神薙のそばにいれば分かるかも知れない。寂しいような気持ちも、そばにいれば満たされるだろう。
しかし、それは俺が身分を明かすことに他ならない。
アレンとクリスには言わなかったが、俺があの横道で家名を名乗れなかったもう一つの理由は、俺個人の問題ではなく家の問題だ。
俺は父が決めた方針に則って、神薙と距離を置かなければならない。
俺と父はランドルフ姓を名乗っているが、父は元王太子だし、事実上は王家の一部だ。なにせ二人とも王位継承権を持っている。
王家というのは、必要なとき以外は神薙に近づかない家だ。
子孫を得るために致し方なく閨を共にすることはあるが、あくまでも王子を得るという目的があってのことであり、夫にはならない。
だから俺は、自分が何者かを明かさないという選択をしている。
そんな中、叔父は神薙に熱を上げている。
これまでの王家の在り方を考えると、これは由々しき事態だ。
しかし、当代の神薙は今までの神薙と違い過ぎる。あらゆるものが規格外で、今までと同じ型にはめられない。
王家の人間も神薙と婚姻を結ぶ可能性が出てきているのだ。誰かが冷静に彼女を見極めなくてはならない。
父や宰相では遠すぎる。
アレンでは近すぎる。
今、俺以上の適任者はいないだろう。俺は神薙の本性を知りたいのだ。
練習をしたのか、それともペンが手に合ったのか、神薙の字は前回に比べて上達していた。
そして、俺が書いたいくつかの質問に答えてくれていた。神薙は律儀だ。
彼女は元の世界では三か国語を話していたようだ。
母国語が標準語だったため、新しく学ぶ言語は訛りのある国の人から習ったと書いてあった。
神薙にとって、外国語は訛っているほうが良いようだ。面白い。だから宮廷訛りなのだろうか。
神薙は旅が好きらしい。
パトラという国はないが、似た地名の場所なら訪れたことがあると言う。歴史深い国の、小さな港町だそうだ。
空を飛ぶ船(?)を使って旅をするらしい。
神薙の世界では、船が空を飛ぶようだ。
家に馬はおらず、代わりに馬二百頭分の力がある車があるらしい。
……よく分からない。
神薙は一人で暮らしていたようだ。
これも意味がよく分からない。
誰が食事の支度をしたり、服を着せたりするのだろう。
もっと詳しく聞かねば分からないことがたくさんある。
俺への質問が書いてあった。
「ヴィルさんは、お休みの日はどんなことをして過ごしているのですか?」
ヤバい……、くそ可愛い。
馬で遠乗り、騎士科時代の仲間と食事、クリスと休みが合えば山や釣りへ行ったりもするが、一番多いのは「叔父と父に用を頼まれて休みを潰される」だ。
可哀想な俺を助けてくれ、神薙。
俺はセッセと手紙を書いた。
すると神薙も律儀に返事を返してきた。
神薙の花の香りは、やはり一日経つと消えてなくなり、俺に喪失感を与えた。
しかし、魔力ペンのおかげで、じんわりとした癒しの魔力が残り、次の返事が来る頃まで効果が持続するようになっていた。
俺は神薙の手紙を上着のポケットに忍ばせて仕事をしていた。
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