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3[ヴィル]
アレンの説教
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帰りに俺だけ王宮へ寄ることをアレンに伝えた。
既に連絡は飛ばしてあり、叔父と父に時間を取ってもらうよう頼んであった。
父が申し込みをしなかった理由や事情に興味はない。
俺が王宮へ行く理由はただ一つ、一刻も早く一覧に俺の名を入れてもらうためだ。
「リア様も一緒にお連れください」と、彼が言った。
「あの体調では無理だ。父が何を言い出すかも分からない」
「私がそばに付いています」
「仮に父の気が変わっていたら、辛辣な言葉がリアに向けられるかも知れない。お前も知っているだろう。相手の気持ちを微塵も考えない非情な言い方をすることがある」
この数年、父は激しい二面性を見せていた。
普段の友好的な態度が突如として冷酷非情に転じることがあり、特に神薙が絡む物事に対しては場所や相手を問わずひどい言葉を使って罵った。
リアのことは気に入っているかのような口ぶりではあったが、仮に気が変わって申し込むことを止めたのであれば厄介だ。おっとりしたリアが口撃の対象になることは避けたい。
「リア様には何の非もないことですし、身分も彼女のほうが高い。一方的に何か言われる筋合いではありません」
「しかし……」
「憶測で勝手なことを言われるのなら、俺が彼女の口になります。何を言われても論破すれば良いだけです」
「俺の個人的な話に巻き込みたくない」
「もう十分過ぎるくらい巻き込んでいます。今日リア様が倒れたのは、団長の個人的な事情が原因です。団長が親のせいだと思うのは勝手ですが、誰が彼女を傷つけたのかという話であれば、それは団長です」
相変わらずキツイ。
落ち込んでいるときのアレンの説教はグサグサと突き刺さる。
「父の前で冷静でいられる自信がない。みっともない姿を彼女には見せたくない」
俺がそう言うと、アレンは厳しい目つきで「甘ったれないでくださいよ」と言った。
「王宮がまともに機能していたら、今頃、もう別の男が夫に選ばれています」
「……誰だ」
「彼女は『序列の上から順に見合いをしたい』と言ったのです。あの一覧を見れば理由が分かります。上のほうに知り合いが多い。それに……」
「それに?」
「クリス先輩のことはずっと好きだと言っています。会う機会が少ないせいもあるのでしょうが、好意を抱いていることは最初から隠さないし、それがずっとブレません」
一覧の序列順に見合いをした場合、最初の相手はクリスで、二番目がアレンだ。
辺境伯家はクランツ家しか申し込みをしなかったようだ。おそらくクランツ家に『配慮』をしたのだろう。
最初の夫は王家か、王家がダメならクランツ家かオーディンス家、二柱のどちらかが選ばれるように。いかにも国の重鎮らしい発想だ。
「彼女は一覧に先輩の名前がないことを嘆いていたのでしょう」と、アレンは言った。
「叶わぬなら知り合いの誰かから選ぼうとしていたのですよ。『知らない人と二人で会うのは怖い』とも話していました。想い人がいるから見合いなんかしたくなかった。だから早々に夫を決めようとしていたのだと思います」
「あの頃、様子がおかしかったのはそういうことか……」
「先輩にとってイドレは幸運のアホウドリです。彼が序列順の見合いをさせなかったのは、襲撃計画を立てていたのが子爵の息子だったからでしょう。結果的にクリス先輩との見合いは実現しなかった。その点についてはアホウに感謝したほうが良いですね」
複雑……。
今頃、フラれただけでなくクリスと微妙な空気になっていたかも知れない。想像しただけで恐ろしい。
「彼女の忍耐力を見たでしょう? したくもない見合いをしていたのに一度も弱音を吐かず、傷ついているのに民のために必死で微笑む。倒れるまで我慢する神薙なんて見たことありますか?」
「アレン、俺は……」
「今さら想い人のみっともない姿を見たところで彼女は動じませんよ。想い合っているのだから、さっさと手続きを済ませてリア様を楽にしてください」
そうしたいのは山々だが、彼女を父には会わせたくない。
これ以上彼女が傷つくことになるのは困る。
しかし、俺がそう言ってもアレンは納得しなかった。
「お父上に関しては、俺と先輩では少し意見が違います。俺もお父上とは二人だけで話をしたことがあります。ぶっきらぼうな方だとは思いますが、俺自身は何か言われたことはありません。いつも落ち着いて穏やかに話をしていたし、言っていることも理路整然としている。個人的には話しやすい相手です。当然、きつく言われている人を見たことはありますよ? ただ、明らかに落ち度のある人が叱られている光景でした」
「まあ、たまたまかも知れませんけれどね」と、彼は口を曲げた。
「リア様にとっては、義理の父になる人物です。見ておくには良い機会です」
「結婚しても、そんな付き合いをさせるつもりはない」
「彼女はそうは思っていないでしょう。クリス先輩のお父上とも話しているし、うちの父とも話しています。王宮で見かけると必ず彼女から声を掛けて、わずかでも雑談をする。物理的に距離があるときや急いでいるときは手を振ります。おじさん達は大喜びですが、彼女も嬉しそうです」
「親が夫選びの審査項目に入っているということか? それは困る」
「親なんかどうでも良いと思っていたら、市場で聞いた話などそもそも気にしませんよ。会ったこともないのに相手の親から結婚を反対されるほど嫌われていると聞かされた。だから傷ついているのですよ?」
「普通の親なら分かるが、俺ですらマトモな親子関係ではない相手だぞ」
「それを決めるのは彼女です。彼女の前で親子喧嘩でも何でもしたらいいじゃないですか」
既に連絡は飛ばしてあり、叔父と父に時間を取ってもらうよう頼んであった。
父が申し込みをしなかった理由や事情に興味はない。
俺が王宮へ行く理由はただ一つ、一刻も早く一覧に俺の名を入れてもらうためだ。
「リア様も一緒にお連れください」と、彼が言った。
「あの体調では無理だ。父が何を言い出すかも分からない」
「私がそばに付いています」
「仮に父の気が変わっていたら、辛辣な言葉がリアに向けられるかも知れない。お前も知っているだろう。相手の気持ちを微塵も考えない非情な言い方をすることがある」
この数年、父は激しい二面性を見せていた。
普段の友好的な態度が突如として冷酷非情に転じることがあり、特に神薙が絡む物事に対しては場所や相手を問わずひどい言葉を使って罵った。
リアのことは気に入っているかのような口ぶりではあったが、仮に気が変わって申し込むことを止めたのであれば厄介だ。おっとりしたリアが口撃の対象になることは避けたい。
「リア様には何の非もないことですし、身分も彼女のほうが高い。一方的に何か言われる筋合いではありません」
「しかし……」
「憶測で勝手なことを言われるのなら、俺が彼女の口になります。何を言われても論破すれば良いだけです」
「俺の個人的な話に巻き込みたくない」
「もう十分過ぎるくらい巻き込んでいます。今日リア様が倒れたのは、団長の個人的な事情が原因です。団長が親のせいだと思うのは勝手ですが、誰が彼女を傷つけたのかという話であれば、それは団長です」
相変わらずキツイ。
落ち込んでいるときのアレンの説教はグサグサと突き刺さる。
「父の前で冷静でいられる自信がない。みっともない姿を彼女には見せたくない」
俺がそう言うと、アレンは厳しい目つきで「甘ったれないでくださいよ」と言った。
「王宮がまともに機能していたら、今頃、もう別の男が夫に選ばれています」
「……誰だ」
「彼女は『序列の上から順に見合いをしたい』と言ったのです。あの一覧を見れば理由が分かります。上のほうに知り合いが多い。それに……」
「それに?」
「クリス先輩のことはずっと好きだと言っています。会う機会が少ないせいもあるのでしょうが、好意を抱いていることは最初から隠さないし、それがずっとブレません」
一覧の序列順に見合いをした場合、最初の相手はクリスで、二番目がアレンだ。
辺境伯家はクランツ家しか申し込みをしなかったようだ。おそらくクランツ家に『配慮』をしたのだろう。
最初の夫は王家か、王家がダメならクランツ家かオーディンス家、二柱のどちらかが選ばれるように。いかにも国の重鎮らしい発想だ。
「彼女は一覧に先輩の名前がないことを嘆いていたのでしょう」と、アレンは言った。
「叶わぬなら知り合いの誰かから選ぼうとしていたのですよ。『知らない人と二人で会うのは怖い』とも話していました。想い人がいるから見合いなんかしたくなかった。だから早々に夫を決めようとしていたのだと思います」
「あの頃、様子がおかしかったのはそういうことか……」
「先輩にとってイドレは幸運のアホウドリです。彼が序列順の見合いをさせなかったのは、襲撃計画を立てていたのが子爵の息子だったからでしょう。結果的にクリス先輩との見合いは実現しなかった。その点についてはアホウに感謝したほうが良いですね」
複雑……。
今頃、フラれただけでなくクリスと微妙な空気になっていたかも知れない。想像しただけで恐ろしい。
「彼女の忍耐力を見たでしょう? したくもない見合いをしていたのに一度も弱音を吐かず、傷ついているのに民のために必死で微笑む。倒れるまで我慢する神薙なんて見たことありますか?」
「アレン、俺は……」
「今さら想い人のみっともない姿を見たところで彼女は動じませんよ。想い合っているのだから、さっさと手続きを済ませてリア様を楽にしてください」
そうしたいのは山々だが、彼女を父には会わせたくない。
これ以上彼女が傷つくことになるのは困る。
しかし、俺がそう言ってもアレンは納得しなかった。
「お父上に関しては、俺と先輩では少し意見が違います。俺もお父上とは二人だけで話をしたことがあります。ぶっきらぼうな方だとは思いますが、俺自身は何か言われたことはありません。いつも落ち着いて穏やかに話をしていたし、言っていることも理路整然としている。個人的には話しやすい相手です。当然、きつく言われている人を見たことはありますよ? ただ、明らかに落ち度のある人が叱られている光景でした」
「まあ、たまたまかも知れませんけれどね」と、彼は口を曲げた。
「リア様にとっては、義理の父になる人物です。見ておくには良い機会です」
「結婚しても、そんな付き合いをさせるつもりはない」
「彼女はそうは思っていないでしょう。クリス先輩のお父上とも話しているし、うちの父とも話しています。王宮で見かけると必ず彼女から声を掛けて、わずかでも雑談をする。物理的に距離があるときや急いでいるときは手を振ります。おじさん達は大喜びですが、彼女も嬉しそうです」
「親が夫選びの審査項目に入っているということか? それは困る」
「親なんかどうでも良いと思っていたら、市場で聞いた話などそもそも気にしませんよ。会ったこともないのに相手の親から結婚を反対されるほど嫌われていると聞かされた。だから傷ついているのですよ?」
「普通の親なら分かるが、俺ですらマトモな親子関係ではない相手だぞ」
「それを決めるのは彼女です。彼女の前で親子喧嘩でも何でもしたらいいじゃないですか」
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