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1章 隠密令嬢(?)とリア充令息
弟子という地位
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仕事場に行くようになって早1週間。
バロンさんの一番弟子となるため、日々努力しています。彼の弟子は私一人しかいない訳だけど、ほぼ引き籠っての特訓と研究には訳はある。
バロンさんはこの王宮で有名な魔術師。彼の元で働く部下もおよそ30人。その彼には弟子なんて今まで一人もいなかった。何故なら、バロンさんが超人過ぎて人手を必要としないからだ。逆に、部下たちは任される仕事が単純作業――魔道具の不備などの確認や書類仕事ばかりだ。開発や研究に携われる人はごく僅か。当然、やりがいのある仕事を、バロンさんの元で学びたいと誰もが思っている。
そんな中、ぽっと出の少年が突然現れ、『ユースティン・バロン室長の弟子』と名乗ればどうなるか。
私は、無能な新参者でない事を証明しなくてはならないのだ。そのために、バロンさんの管轄外の分野で実力を発揮中なのですよ。管轄外といっても、魔法×機械×異世界の知識で、魔道具を作ったり、王宮の魔法省エリアのバリアフリーを試みたりしてます。
魔道具は様々な眼鏡を発明中です。例えば、透視の眼鏡。あ、いかがわしい意味では使わないよ?これは、医療用と軍事用です。臓器や血管などを見通せる胃カメラみたいなものと、王宮の塔から遠方5km先まで索敵ができるものだ。
そしてバリアフリーだけど、バロンさんから比較的信頼されてる面子に協力してもらって、魔法省の各々の分野のブロックに分かれ作業をしている。魔術師にも、ひたすら知識を生かした研究・開発班と、討伐に参加する討伐班、王宮に集まる情報を管理するシステム管理班に分かれている。これらの班の使う施設は王宮の右側にあり、王宮の5分の一の面積を占めている。広々とした建物を与えられているが、整備があまりされていない。そのため、出入りがしづらく、繁忙期は扱いに困る造りとなっている。そこで、バリアフリー――通路を増幅、建物の耐震対策、そして魔法ならではの転移式エスカレーターも設けてみました。このエスカレーターは、予め設置した転移先に詠唱で辿り着ける。それも、魔法石が常時転移スポットに埋め込まれていて、多少魔力を消費するものの、大人数で移動できるので便利。
ただ、便利な道具が多いため、システム管理班の責任が重くもなる――が、彼らのところにも役に立つ魔道具を贈呈しましたよ。貸出可能なものは誰が所有中かトラブル回避して、共同のものに関しては誤作動や盗難がないか確認する『四次元モニタールーム』というものを作ってみました。普通に透視眼鏡の応用版で監視カメラを作り、各箇所を監視。それとは別に、外部からの妨害を察知する機能を部屋に設置。これで、魔法省をはじめとする王宮の安全を確保でき、魔道具の悪用も事前に防げる。
(ふふ、我ながらいい仕事してるな~、私)
魔法省の方からも「度肝を抜かれた」と称賛され、早くもバロンさんの一番弟子にのし上がることができました!!パチパチ!何でか、私の弟子になりたい人が続出したが…、知らん。
現在はバロンさんの部屋…仕事場で正座してバロンさんのお言葉を待っています。
バロンさんの手には、私用のモノクルがあり、その精度を確認してもらっています。今回眼鏡にしなかったのは、予算が問題ではないのです。私も魔法省も今のところ金回りがいいからね。そうじゃなくて、魔力に当てられて両目にレンズをかけての生活を止められたんです、バロンさんに。ドクターストップならぬバロンストップです、ぐすん。
それで、魔力調整の末、バロンさんに見てもらいオッケーをいただくため正座してドキドキと待っているんです。
カタッという音に反応すると、バロンさんのため息が聞こえた。
あれ?まだ改善する余地あったのかな?
答えを待っていると、バロンさんが笑いながら答えてくれた。
「これなら安全に使えそうだね。これからはこのモノクルを基に何個か予備を作っておこう。他のサンプルも一応残しているんだね?」
頷き両手を差し出すと、モノクルの確かな重さを感じ、それを装着した。
視界が晴れ、バロンさんの柔らかな表情もはっきりと見えていた。
(やっぱりイケメンだな~)
私の成し遂げた偉業?のおかげで、魔法省で話せる人達が増えた。何回目かの会話の時に、バロンさんの恋愛事情について聞いてみた。本人はすぐはぐらかすと覚えたので、周りの意見から聞くことにしたのだ。
イケメン耐性がついている自分でさえトキめくバロンさんは、やはり無類の女好きで、モテるそうだ。あの通り、仕事が早いので、空き時間は女性とのデートでひっきりなしなんだとか。女性側も遊びとして付き合ってほしい人もいれば、独身イケメンを射止めようと積極的アプローチをする人もいる。中には、結婚する前に一度だけデートをしたいという理由でお誘いを申し込む令嬢方も多いと聞いた。バロンさんの人気は、自分の事をひけらかさない謙虚な所や物腰柔らかい紳士な所、そして笑顔が眩しいんだと。
目の前の彼は、私から見れば面倒見のいい近所のお兄さんみたいだ。ただ、何かスキンシップが激しいな~、とは思うけど、裏表のない優しい人に見えるんですよ。もしかしたら影はあるんだろうけど、詮索したらガラリと変わる気がするので踏み込まないようにしてる。
「…シリル」
急に呼ばれ、見えている左目のモノクル越しに彼の様子を窺う。…でも、何故近づいてくるんだろうか。離れようと思うも、すぐ後ろのソファの背に阻まれる。
「な、んですか?」
訝し気に見れば、「じっとしていて」と言われる。彼の手が私の頭を包むように耳から後頭部を手で髪の中に差し込まれる。…そういえば、私以外黒髪黒目の人を見ないけど、誰も気味悪がったりしないな。
ふふ、と笑っていると、いつの間に包み込まれていた。
「君と家族になりたい」
「は、い…?それはどういう――」
どこか甘く聞こえる言葉の意味を問えば、食いちぎられそうな獰猛な眼差しに射抜かれた。
――ドキッ
え?今鼓動が跳ねた…んだけど、何かな?トキめき、ううん、そんな可愛いものではないと思う。生命の危機が目前に迫っている感じに近い。
危うげな空気を醸し出すバロンさんの言葉の続きを待ってみることにした。
「私の弟になってほしいんだ。駄目だろうか?」
弟。家族。血は繋がっていないけど、私はもう庶子同然だし、いいのかな?
「私は別に構いませんけど―――――っ!!」
私が了承したら、バロンさんにきつく抱きしめられた。
「ありがとう!一生大事にするね」
んん?何かとても…会話が噛み合っていないような?私が頷けば家族になれるというのか?緩いな。これで簡単に戸籍が作れるとでもいうのか?
バロンさんは私の困惑など気にもせず、顔を近づけてくる。私は思考がフリーズしてしまい、近づいてくる強烈に美しい顔を只々眺めていた。
顔を傾けたな、という所で、バロンさんの眼鏡と私のモノクルがぶつかり合った。
「…――ああ、これは邪魔かな。君のも取ってあげるよ」
そう言って、バロンさんは自分のと私のモノクルを取り、机に置いたようだ。
…?
「…ちょ、ちょっと待ってくれませんか?」
結構間近まできたその唇を両手でガードし、至近距離で交差するその瞳に問いかけた。
「弟には、こんな風にキスをするのが当たり前なんですか?」
バロンさんが真剣な眼差しをこちらに向け、頷いてみせた。
「弟――家族になるには、正式な手続きが必要ですよね?戸籍とか、其々の合意だったり」
「そうですね。だから君の口元に印を残そうと思って――」
「印?契約とかの、ですか?」
「ああ、もちろん。生涯愛し合うという証。そして君は私のモノだという赤い花を」
私の知っている家族?とは全然違うのだけれど…、何て聞けばいいのか…。
そう考える間にもバロンさんの唇が私の指を食んできて、思わず硬直する。
「う~ん…、早すぎたかな。今日のところは証を刻むのはやめておくよ。
君がきちんと大人になるまで待つのは無理だけど…」
「ありがとうございます…?」
後半何て言ったか聞こえなかったけど、迂闊にしてはいけない行為、だよね?
何だろう、胃がキリキリとして、こう…、魔力に当てられたみたいな感覚がしたんだよね。
この時初めて、バロンさんの事を怖いと思ってしまった。
バロンさんの一番弟子となるため、日々努力しています。彼の弟子は私一人しかいない訳だけど、ほぼ引き籠っての特訓と研究には訳はある。
バロンさんはこの王宮で有名な魔術師。彼の元で働く部下もおよそ30人。その彼には弟子なんて今まで一人もいなかった。何故なら、バロンさんが超人過ぎて人手を必要としないからだ。逆に、部下たちは任される仕事が単純作業――魔道具の不備などの確認や書類仕事ばかりだ。開発や研究に携われる人はごく僅か。当然、やりがいのある仕事を、バロンさんの元で学びたいと誰もが思っている。
そんな中、ぽっと出の少年が突然現れ、『ユースティン・バロン室長の弟子』と名乗ればどうなるか。
私は、無能な新参者でない事を証明しなくてはならないのだ。そのために、バロンさんの管轄外の分野で実力を発揮中なのですよ。管轄外といっても、魔法×機械×異世界の知識で、魔道具を作ったり、王宮の魔法省エリアのバリアフリーを試みたりしてます。
魔道具は様々な眼鏡を発明中です。例えば、透視の眼鏡。あ、いかがわしい意味では使わないよ?これは、医療用と軍事用です。臓器や血管などを見通せる胃カメラみたいなものと、王宮の塔から遠方5km先まで索敵ができるものだ。
そしてバリアフリーだけど、バロンさんから比較的信頼されてる面子に協力してもらって、魔法省の各々の分野のブロックに分かれ作業をしている。魔術師にも、ひたすら知識を生かした研究・開発班と、討伐に参加する討伐班、王宮に集まる情報を管理するシステム管理班に分かれている。これらの班の使う施設は王宮の右側にあり、王宮の5分の一の面積を占めている。広々とした建物を与えられているが、整備があまりされていない。そのため、出入りがしづらく、繁忙期は扱いに困る造りとなっている。そこで、バリアフリー――通路を増幅、建物の耐震対策、そして魔法ならではの転移式エスカレーターも設けてみました。このエスカレーターは、予め設置した転移先に詠唱で辿り着ける。それも、魔法石が常時転移スポットに埋め込まれていて、多少魔力を消費するものの、大人数で移動できるので便利。
ただ、便利な道具が多いため、システム管理班の責任が重くもなる――が、彼らのところにも役に立つ魔道具を贈呈しましたよ。貸出可能なものは誰が所有中かトラブル回避して、共同のものに関しては誤作動や盗難がないか確認する『四次元モニタールーム』というものを作ってみました。普通に透視眼鏡の応用版で監視カメラを作り、各箇所を監視。それとは別に、外部からの妨害を察知する機能を部屋に設置。これで、魔法省をはじめとする王宮の安全を確保でき、魔道具の悪用も事前に防げる。
(ふふ、我ながらいい仕事してるな~、私)
魔法省の方からも「度肝を抜かれた」と称賛され、早くもバロンさんの一番弟子にのし上がることができました!!パチパチ!何でか、私の弟子になりたい人が続出したが…、知らん。
現在はバロンさんの部屋…仕事場で正座してバロンさんのお言葉を待っています。
バロンさんの手には、私用のモノクルがあり、その精度を確認してもらっています。今回眼鏡にしなかったのは、予算が問題ではないのです。私も魔法省も今のところ金回りがいいからね。そうじゃなくて、魔力に当てられて両目にレンズをかけての生活を止められたんです、バロンさんに。ドクターストップならぬバロンストップです、ぐすん。
それで、魔力調整の末、バロンさんに見てもらいオッケーをいただくため正座してドキドキと待っているんです。
カタッという音に反応すると、バロンさんのため息が聞こえた。
あれ?まだ改善する余地あったのかな?
答えを待っていると、バロンさんが笑いながら答えてくれた。
「これなら安全に使えそうだね。これからはこのモノクルを基に何個か予備を作っておこう。他のサンプルも一応残しているんだね?」
頷き両手を差し出すと、モノクルの確かな重さを感じ、それを装着した。
視界が晴れ、バロンさんの柔らかな表情もはっきりと見えていた。
(やっぱりイケメンだな~)
私の成し遂げた偉業?のおかげで、魔法省で話せる人達が増えた。何回目かの会話の時に、バロンさんの恋愛事情について聞いてみた。本人はすぐはぐらかすと覚えたので、周りの意見から聞くことにしたのだ。
イケメン耐性がついている自分でさえトキめくバロンさんは、やはり無類の女好きで、モテるそうだ。あの通り、仕事が早いので、空き時間は女性とのデートでひっきりなしなんだとか。女性側も遊びとして付き合ってほしい人もいれば、独身イケメンを射止めようと積極的アプローチをする人もいる。中には、結婚する前に一度だけデートをしたいという理由でお誘いを申し込む令嬢方も多いと聞いた。バロンさんの人気は、自分の事をひけらかさない謙虚な所や物腰柔らかい紳士な所、そして笑顔が眩しいんだと。
目の前の彼は、私から見れば面倒見のいい近所のお兄さんみたいだ。ただ、何かスキンシップが激しいな~、とは思うけど、裏表のない優しい人に見えるんですよ。もしかしたら影はあるんだろうけど、詮索したらガラリと変わる気がするので踏み込まないようにしてる。
「…シリル」
急に呼ばれ、見えている左目のモノクル越しに彼の様子を窺う。…でも、何故近づいてくるんだろうか。離れようと思うも、すぐ後ろのソファの背に阻まれる。
「な、んですか?」
訝し気に見れば、「じっとしていて」と言われる。彼の手が私の頭を包むように耳から後頭部を手で髪の中に差し込まれる。…そういえば、私以外黒髪黒目の人を見ないけど、誰も気味悪がったりしないな。
ふふ、と笑っていると、いつの間に包み込まれていた。
「君と家族になりたい」
「は、い…?それはどういう――」
どこか甘く聞こえる言葉の意味を問えば、食いちぎられそうな獰猛な眼差しに射抜かれた。
――ドキッ
え?今鼓動が跳ねた…んだけど、何かな?トキめき、ううん、そんな可愛いものではないと思う。生命の危機が目前に迫っている感じに近い。
危うげな空気を醸し出すバロンさんの言葉の続きを待ってみることにした。
「私の弟になってほしいんだ。駄目だろうか?」
弟。家族。血は繋がっていないけど、私はもう庶子同然だし、いいのかな?
「私は別に構いませんけど―――――っ!!」
私が了承したら、バロンさんにきつく抱きしめられた。
「ありがとう!一生大事にするね」
んん?何かとても…会話が噛み合っていないような?私が頷けば家族になれるというのか?緩いな。これで簡単に戸籍が作れるとでもいうのか?
バロンさんは私の困惑など気にもせず、顔を近づけてくる。私は思考がフリーズしてしまい、近づいてくる強烈に美しい顔を只々眺めていた。
顔を傾けたな、という所で、バロンさんの眼鏡と私のモノクルがぶつかり合った。
「…――ああ、これは邪魔かな。君のも取ってあげるよ」
そう言って、バロンさんは自分のと私のモノクルを取り、机に置いたようだ。
…?
「…ちょ、ちょっと待ってくれませんか?」
結構間近まできたその唇を両手でガードし、至近距離で交差するその瞳に問いかけた。
「弟には、こんな風にキスをするのが当たり前なんですか?」
バロンさんが真剣な眼差しをこちらに向け、頷いてみせた。
「弟――家族になるには、正式な手続きが必要ですよね?戸籍とか、其々の合意だったり」
「そうですね。だから君の口元に印を残そうと思って――」
「印?契約とかの、ですか?」
「ああ、もちろん。生涯愛し合うという証。そして君は私のモノだという赤い花を」
私の知っている家族?とは全然違うのだけれど…、何て聞けばいいのか…。
そう考える間にもバロンさんの唇が私の指を食んできて、思わず硬直する。
「う~ん…、早すぎたかな。今日のところは証を刻むのはやめておくよ。
君がきちんと大人になるまで待つのは無理だけど…」
「ありがとうございます…?」
後半何て言ったか聞こえなかったけど、迂闊にしてはいけない行為、だよね?
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