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第一章 ぶつかり合う感情
お茶会④ 宮廷薬剤師の勧誘
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ラウス殿との対面が終わり、既に私は疲れを感じ始めた。
こ、これは、自己研鑽のためにも、人脈を作るためにも必要な事!
次は、ウェンディ・パーレン子爵令嬢。
彼女は書架並みの知識量を用い、植物に関する研究をしている才児。
市場に出ている薬の半数が彼女の生み出したもので、昨年は国王様直々に宮廷薬剤師にならないかと打診があったそう。本人は人付き合いを好まない方のようで、承諾しなかったとか何とか。
学園への入学前の今なら、接触できると思って探しているのだけど…。
彼女はどうやら影を薄くする術も覚えたようだ。見渡す限りでは見つからない。
来城は初めてだけど、これは違う場所を探した方がいいかもしれないわね。
人の合間を縫って、私は『ルピナス・クレイ』を抜け出した。
左手に様々な庭園を見ながら長い廊下を歩いて、思わず足を止めた。
蓮の花が浮かぶ噴水がメインであろう庭園で珍しい花を見つけたのです。
親切にも庭園の名とテーマや解説が書かれた看板があり、しっかりと目を通してその花に視線を戻した。
鈴のような形をした小ぶりな白い花が一つの茎から連なっている。
可愛らしいわ。風に揺られたら、鈴の音がしそうだわ。
気になって手を伸ばしたら、肩に重みを感じて尻餅をついた。
「わぁ!?」
転がったまま仰ぎ見たら、モスグリーン色のドレスを着た少女がいた。
顔に影が落ちていて、表情が見えない。けど…――
「…パーレン子爵のご令嬢、」
言いかけてハッと口を噤んだ。逃げ出してしまうかもしれない。
と思ったのだけど、彼女は顔を真っ青にしながらぼそぼそと話し出した。
「ッ、その花は毒があるもので、毒の成分はコンパラトキシンと言うんです。青酸カリの15倍程の濃度で、食べたら嘔吐や頭痛、心臓麻痺を引き起こしますし、触るなんてもってのほかです。可愛いから触れてみようなんて思ったんでしょうけど、揺らしただけで毒が発生して手がかぶれるだけじゃすまないかもしれないんですよ。こんな所に鈴蘭を配置した者の神経を疑いますが、私がいなかったらどうなってた事か…」
言い終えて私から視線を注がれているのに気づき、俯き気味に解説してくれた。
「えっと、これは鈴蘭という毒のある花で、直に触れたら危ないんです。
だから、咄嗟に肩を掴んでしまって…、ごめんなさい。」
謝罪をする彼女は今にも消えてしまいそうで、私も意識を戻した。
「大丈夫よ。身体を張って助けてくださってありがとうございます。」
「いえ、そんな…。まさかここに人が来ているなんて思っていなくて…」
「――もしかして、研究などしてらしたのですか?」
気になっていた事を尋ねたら、困った顔をされた。
「私なんかと話したりして平気なんですか?こう・・・気分が悪くなったりとか」
要領を得ない話し方に首を傾げていたら、彼女はビクビクしながら答えてくれた。
私は恐喝なんてしていないわよ?
「――要するに、貴女が話し始めると相手の顔色が悪くなったり、虫を見るような眼で見られたり、逃げ出す方がいらっしゃるのね?」
「そうなんです…」
私が言葉にした事でより心を抉ってしまったようね。
申し訳ないけれど、彼女側の意見しか聞いていない今の段階でも、これは単なる勘違いだと言えよう。
「パーレン子爵令嬢。貴女は魅力的な方よ」
「え」
「知識は然ることながら、努力した結果世に役立つものを多く生み出していますわ。貴女の容姿も整ってらっしゃいますし、嫌う要素なんてありませんわ。貴女を不快にさせた方々がいるというのなら…」
「…なら?」
「無視してかまいませんわ!!」
「えっ…、それはさすがに」
狼狽える彼女を宥めていたら、「貴女が落ち着いてくださいぃ」と言われてしまった。
私の対処法、いいと思うだけど。
「国王様からいただいている名誉を利用すればいいのよ。」
「でも、私・・・お断りしたから…」
「そうでもないんだけどな~・・・」
彼女に目の前の看板を見せた。先程の解説の所に“幼き女性宮廷薬剤師”の証言も書かれていたのだ。彼女も目を通していたが、自分の事とは思わなかったらしい。
「え、私・・・なの?」
「そうよ。家の者に調べさせたけど、薬剤師もしくは見習いの中で成人していない者といったら貴女しかいないわ」
ね?だから自信もって?と言ったら、私の腰にしがみついて大声で泣き出した。
道行く使用人達から微笑ましい光景でも見るかのように目を細められ、肩身が狭くなった。
・・・私、精神擦り切れちゃうわよ?
こ、これは、自己研鑽のためにも、人脈を作るためにも必要な事!
次は、ウェンディ・パーレン子爵令嬢。
彼女は書架並みの知識量を用い、植物に関する研究をしている才児。
市場に出ている薬の半数が彼女の生み出したもので、昨年は国王様直々に宮廷薬剤師にならないかと打診があったそう。本人は人付き合いを好まない方のようで、承諾しなかったとか何とか。
学園への入学前の今なら、接触できると思って探しているのだけど…。
彼女はどうやら影を薄くする術も覚えたようだ。見渡す限りでは見つからない。
来城は初めてだけど、これは違う場所を探した方がいいかもしれないわね。
人の合間を縫って、私は『ルピナス・クレイ』を抜け出した。
左手に様々な庭園を見ながら長い廊下を歩いて、思わず足を止めた。
蓮の花が浮かぶ噴水がメインであろう庭園で珍しい花を見つけたのです。
親切にも庭園の名とテーマや解説が書かれた看板があり、しっかりと目を通してその花に視線を戻した。
鈴のような形をした小ぶりな白い花が一つの茎から連なっている。
可愛らしいわ。風に揺られたら、鈴の音がしそうだわ。
気になって手を伸ばしたら、肩に重みを感じて尻餅をついた。
「わぁ!?」
転がったまま仰ぎ見たら、モスグリーン色のドレスを着た少女がいた。
顔に影が落ちていて、表情が見えない。けど…――
「…パーレン子爵のご令嬢、」
言いかけてハッと口を噤んだ。逃げ出してしまうかもしれない。
と思ったのだけど、彼女は顔を真っ青にしながらぼそぼそと話し出した。
「ッ、その花は毒があるもので、毒の成分はコンパラトキシンと言うんです。青酸カリの15倍程の濃度で、食べたら嘔吐や頭痛、心臓麻痺を引き起こしますし、触るなんてもってのほかです。可愛いから触れてみようなんて思ったんでしょうけど、揺らしただけで毒が発生して手がかぶれるだけじゃすまないかもしれないんですよ。こんな所に鈴蘭を配置した者の神経を疑いますが、私がいなかったらどうなってた事か…」
言い終えて私から視線を注がれているのに気づき、俯き気味に解説してくれた。
「えっと、これは鈴蘭という毒のある花で、直に触れたら危ないんです。
だから、咄嗟に肩を掴んでしまって…、ごめんなさい。」
謝罪をする彼女は今にも消えてしまいそうで、私も意識を戻した。
「大丈夫よ。身体を張って助けてくださってありがとうございます。」
「いえ、そんな…。まさかここに人が来ているなんて思っていなくて…」
「――もしかして、研究などしてらしたのですか?」
気になっていた事を尋ねたら、困った顔をされた。
「私なんかと話したりして平気なんですか?こう・・・気分が悪くなったりとか」
要領を得ない話し方に首を傾げていたら、彼女はビクビクしながら答えてくれた。
私は恐喝なんてしていないわよ?
「――要するに、貴女が話し始めると相手の顔色が悪くなったり、虫を見るような眼で見られたり、逃げ出す方がいらっしゃるのね?」
「そうなんです…」
私が言葉にした事でより心を抉ってしまったようね。
申し訳ないけれど、彼女側の意見しか聞いていない今の段階でも、これは単なる勘違いだと言えよう。
「パーレン子爵令嬢。貴女は魅力的な方よ」
「え」
「知識は然ることながら、努力した結果世に役立つものを多く生み出していますわ。貴女の容姿も整ってらっしゃいますし、嫌う要素なんてありませんわ。貴女を不快にさせた方々がいるというのなら…」
「…なら?」
「無視してかまいませんわ!!」
「えっ…、それはさすがに」
狼狽える彼女を宥めていたら、「貴女が落ち着いてくださいぃ」と言われてしまった。
私の対処法、いいと思うだけど。
「国王様からいただいている名誉を利用すればいいのよ。」
「でも、私・・・お断りしたから…」
「そうでもないんだけどな~・・・」
彼女に目の前の看板を見せた。先程の解説の所に“幼き女性宮廷薬剤師”の証言も書かれていたのだ。彼女も目を通していたが、自分の事とは思わなかったらしい。
「え、私・・・なの?」
「そうよ。家の者に調べさせたけど、薬剤師もしくは見習いの中で成人していない者といったら貴女しかいないわ」
ね?だから自信もって?と言ったら、私の腰にしがみついて大声で泣き出した。
道行く使用人達から微笑ましい光景でも見るかのように目を細められ、肩身が狭くなった。
・・・私、精神擦り切れちゃうわよ?
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