終の九生

碧月 晶

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十三

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「『あははっ、ありがとねぇ。ぼくの思い通りに動いてくれて。これでやっとお兄さんと遊べるよ』」

その瞬間、ぶわりと全身が総毛立ち、背筋に悪寒が走った。

この感じは…!

覚えのある嫌な感覚に、夜空を仰ぎ見ると異様な程に大きく浮かぶ真っ赤な月が目に入って。瞬時に九重が結界を張ったのだと理解した。

その事に気が付いたのは俺だけではなかった。白炎さんたちも閉じ込められた事に気が付き、動揺を見せる。

「『ねぇねぇ、その人間ってお兄さんと仲良かったんでしょ?今どんな気分?自分のせいで運命が変わっちゃったんだよ?怒った?それとも悲しい?ねぇ!答えなよ!』」
「…答える必要はないぞ、宗介」

だが、九重が声高にあざけわらう中でただ一人、八代君は静かに九重を見据えていた。

「…おい、白炎」

落ち着き払った声。けれど、どこか有無を言わさぬ圧があって。白炎さんが「な、何だ」と少し気圧けおされたように答える。

「お主たちの慢心を責めるつもりはない。じゃが、落ち度はある事は分かるな?」
「っ、ああ、分かってる」
「なら良い。この期に及んで認めんと言うのなら灸を据えるつもりじゃったが……ならばワシの言いたい事は分かるな?」
「チッ、分かったよ。…お前たち!これより我らはこの者と共闘して式神の討伐に当たる!心して掛かれ!」

白炎さんが後ろに控えていた数人の男性たちに号令を飛ばす。男性たちが頷いたのを確認して、白炎さんは八代君の隣に立った。

「今回だけだからな」
「当たり前じゃろう」
「は、やはり貴様は気に食わん!」

そう言うや否や、白炎さんが式神に向かって走り出す。

「*****、かしこみかしこみ申す!我が名は白炎!御身の兵仗へいじょうたまわりし者なり!」

次の瞬間、口上のようなものを述べた白炎さんの手元に強く光る玉が出現した。
その光は段々と細長く変形していき、白炎さんが自身の背丈を超える程までに伸びたそれを掴む。

それと同時にそれを覆っていた光が霧散し、漸くその正体が分かった。

それは、長い柄の先に三日月型の刃が付いた武器──薙刀なぎなただった。

「*****、かの者たちを守護せよ!」

八代君がそう叫ぶと、白炎さんと彼の部下の男性たちの身体を薄紫色の膜が包み込む。

「これは…まもりのまじないか?」
「なんと…これ程精巧なまじないは久方ぶりに見たぞ」
「御託は良い。援護はワシがする。お主らは白炎に加勢せよ」
「わ、分かった」

八代君の術に感心しているような様子だった白炎さんの部下の男性たちだったが、ピシャリと八代君にそう言われ、頷き合うと白炎さんと同じ口上を述べて、薙刀を手に九重の式神と戦っている白炎さんの元へと加勢しに行った。

その背中を見送ると、八代君が不意にこちらへと視線を向けた。

「お主らにも護りの呪いと結界を張っておく。決してそこから動くでないぞ」

宣言通りに俺と相田さんの周囲に薄紫色のドーム状の結界を張ると、八代君は九重の式神の所へと向かっていった。

『………ねぇ、聞いても良いかな?』

戦っている八代君たちをハラハラしながら見ていると、唐突に相田さんに質問され、隣を見れば彼は視線を真っ直ぐに戦う八代君たちに向けていた。

「な、何ですか?」
『敬語じゃなくてもいいよ。あと、もう君の事は恨んでないからそんなに警戒しないで』

視線は相変わらず八代君たちの方を向いたままだったけれど、その横顔は憑き物が落ちたように落ち着いていた。

「…何を聞きたいの?」
『……この姿になったから分かった事なんだけどさ、あいつ…九重?って奴が僕に接触してきたのって久住さんの魂と何か関係あったりする?』
「!!」

驚きに声を詰まらせた俺をちらりと一瞥すると、相田さんは『そっか。やっぱりそうなんだね』とどこか納得したように言った。

「…もしかして、俺の魂が視えてるの?」
『うん。多分、幽霊になった人は全員視えると思うよ』
「因みにだけど、どんな風に視えてるのか聞いてもいい?」
『…真っ白くて、強烈に光ってる』
「え、強烈なの?」
『うん。近くで視るとちょっと眩しい』
「…もしかして、それでさっきからこっち見ないの?」
『見ないっていうか、見れない。…でも、凄くあったかい光だ』
「え?」
『…本当は君の魂を視た時から分かってたんだ。ああ、この人は本当に優しい人なんだって。でも…突然死んじゃったから現実を受け入れられなかった。完全に八つ当たりだよね。死因は変わったけど、僕が死ぬのは決まってた事なのに。本当に…ごめん』
「相田さん…」
『それに八代さん、だっけ?彼、話し方はぶっきらぼうだったけど、今なら優しさから僕にああ言ったんだって分かるよ』
「!」

そう。八代君は優しい。いつもは辛辣なお言葉を頂戴される事が多いけれど、何だかんだ言って最終的には要望を聞いてくれる。

そんな不器用な彼の事を分かってくれて、嬉しさのあまり思わず俺は相田さんに詰め寄った。

「そう、そうなんだよ!八代君は凄く優しいんだよ!」
『ちょ、分かったからあんまり近寄らないで!眩しい!』
「あ、ごめん…」

そうだった。俺の魂は相田さんには眩しく視えるんだった。わざとじゃなかったとはいえ、悪い事をした。

『ふふ、ほんとに彼が好きなんだね』
「え!?」

好き!?

『? 好きじゃないの?』

いやまあ好きか嫌いかで言えば、間違いなく好きだけれども…改めて言うとなると少し恥ずかしいと言いますか…

ごにょごにょとそう答えると、相田さんは不思議そうに『ふーん?そういうもの?』と首を傾げた。
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