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しおりを挟む───Prrrr、Prrrr
「…チッ、出ねえ」
歩きながらかけていた電話を切り、スマートフォンを上着のポケットにしまう。
珍しい。あいつが電話に出ないなんて。
雨月が電話に出なかった事なんて今までで二回くらいしかない。と言っても、後で必ずかけ直してきていたが…
「今回はねえだろーな…」
何となくだが、そう思う。
そうこうしているうちに雨月のマンションに到着し、エントランスに入って部屋番号を押してインターホンを鳴らすも…
「…居ねえのか?」
居留守を使われているのか、それとも本当に居ないのか。その後も何度か呼び出し続けたが、雨月が出る事はとうとう無かった。
「チッ、どこ行きやがったあいつ」
と、出直そうと踵を返したところでとあるものが目に入り、オレはその場に立ち止まった。
…郵便受けの表札がない?
以前来た時は、確かに雨月が住んでいた部屋番号の郵便受けの所に『寒河江』と表札が入っていたはずだ。だが今はそれが外されている。
「まさか…」
過ぎった可能性を確かめるべく、コンシェルジュに聞くと
「はい。前の住民の方が引っ越されたため、只今その部屋は空室になっております」
返ってきた答えは予想通りのものだった。
「………」
来た道を茫然と歩く。
居場所も分からない。電話にも出ない。
あいつがオレと接点を持とうとしなければ、こんなにも簡単に会えなくなるものなのか。
───カシャッ
「!」
突然のシャッター音に音がした方を振り返ると、そこには無精ひげを生やした見知らぬ男がニヤニヤと笑いながら立っていた。
その男を見た瞬間、嫌悪に体が震える。
知っている。いや、この男個人の事は何も知らないが、どういう人間かは知っている。
他人の粗探しばかりして、隙あらば揚げ足を取り、知られたくない事だろうがプライベートな事だろうが関係なく根掘り葉掘り追究するまで気が済まない連中。
俗に言うパパラッチと呼ばれる奴らだ。
「初めまして、氷室三門さん」
「………」
「俺はこういう者でしてね」
男はオレに近付いてくると、懐から名刺を取り出した。
『○×会社 カメラマン 沢巳 譲二』
名刺にはそう書かれていた。
「オレに何の用だ」
差し出された名刺を一瞥はしたものの、受け取らず無視して問いかけると、男───沢巳は肩をすくめながら名刺を懐に戻した。
「そう警戒しないで下さいよ。ここ最近アンタを尾行させて貰ったが特に面白いもんは撮れなかったんで」
「…!」
「ま、いくつか気になるもんは撮れましたがねぇ」
「………」
意味深な眼差しを寄越し、挑発するように嘲笑う沢巳に嫌悪感が募っていく。
「チッ、お前らに構ってる暇はねえんだよ」
一刻も早くこの場を、この男の前から去りたい。そう思い、歩き出そうとした時だった。
「寒河江雨月」
「…っ、」
沢巳の口から発せられた名前に思わず足を止めてしまう。
「彼の事、知りたくないですかぁ?」
「………」
見なくても分かる。下卑た嗤いを浮かべて、こちらの反応を窺っているのだろう。
こいつらの事は嫌いだ。大っ嫌いだが、情報収集にかけては方向性が間違っている事を除けば目を見張るものがあるのも事実。
そして雨月の情報が途絶えた今、オレがすべき選択は…
「…何が目的だ」
振り返り、沢巳の眼をきっと見据える。
「なぁに、単純な理由ですよ。俺は知りたがりなんでね。ああ、勿論情報料はタダで結構ですよ?」
「………」
「さて、それじゃあ場所を変えましょうか」
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