シスルの花束を

碧月 晶

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26 side雨月

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その日、おれは裕太郎さんに謝りたくて、裕太郎さんの家の前に向かっていた。

けれど、途中通りかかった某高級ホテルの前で、裕太郎さんが入っていくのを見かけた。

この時は仕事かと思い、暫くエントランスで待っていたのだが、幾ら待っても現れない裕太郎さんに痺れを切らし、探しに行く事にした。

裕太郎さんの姿は、エレベーターで昇ったところにある眺めのいいラウンジで見つける事ができた。

後で思えば、迂闊だったと思う。裕太郎さんが誰かと話していると気付いたのは、呼び掛けて、近付いた時だった。

死角になっていた柱の陰から現れたのは、冷泉院ゆりえの姿で。

どうして彼女と伯父さんが会っているのか。理由も分からないまま、おれは…いやおれたちはラウンジを後にした。

「…それで、どうしてあの人と会ってたの」

家に帰ってくるなり、そう問い詰めるおれに裕太郎さんは少し迷った素振りを見せたが

雨月うげつ、俺はあの事故の事を独自に調べていたんだ」

ゆっくりと口を開いた。

「それで思ったんだ。彩子は酒を『飲んだ』んじゃなく『飲まされた』んじゃないかって」
「! それって…」

もしそうだったとしたら、あれは単なる事故ではなくなる。

「だが、確証がない。だから14年前、俺はゆりえちゃんに彩子の身の回りで何かトラブルが無かったか知らないかと話を聞きに行ったんだ。…だが、返ってきた答えは望んでいたものじゃなかった。寧ろ、あの事故は起こるべくして起こったような口ぶりだった」
「………」
「…後悔したよ。あの時もっと怪しんでいれば…彩子の日記をもっと早くに見つけていればって」
「…それは、おれも同じです」

そう言うと、裕太郎さんがそれまで俯かせていた顔を上げる。

「お前に言うべきかずっと迷っていたが…お前には知る権利がある。義務がある。だから話そうと思う」

その顔は何かを決意したような表情だった。

「さっき彩子が『飲まされた』可能性があると言ったが、もう一つ考えていた事がある」
「もう一つ?」

首を傾げるおれに裕太郎さんは言った。

「『酒を飲んでいた』という情報事態が嘘だったんじゃないかって」
「───え?」

耳を疑うおれに、裕太郎さんは更に話を続ける。

「つまり、だ。本当は飲酒運転なんかじゃなくて、もっと別の原因があった。でも、誰かが何らかの目的で『飲酒』だとでっち上げ、情報を操作した」
「で、でもそれじゃあ警察も…」
「ああ。グルだったか、誰かが手を回したかのどちらかだろうな」
「そんな…」

そんな事があり得るのか。
そうは思うものの、18年前、母さんの不審な点を訴えても警察もメディアも誰も信じてくれなかった事を思い出す。
確かに、そう考えれば辻褄が合う。

…待てよ?警察に圧力をかけられて、世論を操作できる程の『誰か』。そして、母さんが最後に会っていたと思しき『ゆりえ』の存在。

「まさか…」

裕太郎さんがこくりと頷く。

「俺はその『誰か』がゆりえちゃんだったんじゃないかと思ってる」

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