シスルの花束を

碧月 晶

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吐く息が白くなる、薄曇りの空の下。
世間ではかの聖人の誕生日とされている年末のこの日、オレたちは山奥にある冷泉院グループが経営するとあるホテルにやって来ていた。

会場である大きな広間の上座には、達筆な字で

───『冷泉院宗一郎様 生誕パーティー』

と書かれたものがでかでかと吊り下げられている。

冷泉院宗一郎そういちろうとは、オレの義理の祖父に当たる人で、冷泉院本家の当主にしてグループの現会長でもある。そして、今日で御年77歳を迎えた。

そんなめでたい席で、ゆりえさんと腕を組んで他の客と談笑している雨月を少し離れた場所から見る。

雨月は時折話し掛けられているようだったが、持ち前の顔の良さで上手く躱しているようだった。

今日このパーティーに来るに当たって、一番のネックだったのは雨月をどうやって怪しまれないように入らせるかだった。
ゆりえさんとオレには当然このパーティーの参加資格がある。だが、完全に冷泉院とは関係のない雨月にはそれが無い。

オレたちはどうするか考えた。そして考えに考えて、考えた結果、ゆりえさんの『同伴者』──つまり『愛人』として参加させる事になった。

この方法に最初オレは反対した。だが、それ以外の方法をオレが提案できるのかと問われれば答えは否で。雨月の強い要望もあり、オレは渋々頷くしかなかった。

「お集まりの皆さま、本日は宗一郎様の誕生パーティーにご出席下さり、誠にありがとうございます」

会場が暗転し、司会者にスポットライトが当たる。

…今だ

薄闇の中、他の客たちに怪しまれないように会場の外に出る。

「行きましょう」

同じく抜け出してきたゆりえさんと雨月と合流して、オレたちは目的の場所へと急いだ。


******


「話とは何だ。とおる

かつんと杖を突き、冷泉院宗一郎は部屋に足を踏み入れた。

宗一郎の視線の先には通が立っている。

「やあ、お父さん。無事、喜寿を向かえられたこと嬉しく思いますよ」
「ふん。世辞はいい。早く本題を話したらどうなんだ」
「相変わらず、せっかちな人ですね」

通の言葉に、宗一郎の白髪混じりの眉がピクリとつり上がる。

「まあ、そう怒らないで下さいよ。今日はあなたにとても良いニュースを持ってきたんですから」
「…何だ」

にこにことまるで貼り付けているような笑みを絶やさず、通は口を開いた。

「理一郎の居場所が分かりました」
「何!?それは本当か!?」

目を見開き、詰め寄る宗一郎を通は「落ち着いて下さい」となだめる。

「どこにいるんだ!」
「今、日本へ向かってきているようですよ」
「そうか、そうか…」

「ようやっと見つかったか…」と安堵したように零す宗一郎を、通は刹那凍り付くような眼差しを向ける。
だが、それは本当に一瞬の事で、直ぐに笑顔を浮かべた通の表情の変化に、宗一郎は気付いていない。

「…つきましては、お父さん、その事で大事なお話があるのですよ」
「何だ、まだあるのか」

首を傾げる宗一郎に、通はニコリと笑う。

「私は身を引きますので、この機会に理一郎に当主の座を譲ってはいかがでしょう」
「…何?」
「勿論、分家の方々は私が説得致します」
「…お前はそれで良いのか」
「はい」

訝しむ宗一郎に、通は殊更笑いかけてみせる。

「どうです?このめでたい報せに、一献いっこんご一緒しませんか?」

通は傍に用意してあったワインの栓を抜きワイングラスに注ぐと、宗一郎に差し出した。

「………」
「お父さんの生まれ年と同じものです。この日のためにご用意したんですよ」
「…では」

宗一郎がワイングラスを口元へと近付けていく。

あと10cm、あと5cm、あと───

その瞬間、通は勝利を確信したようにほくそ笑んだ。

だが、

「ちょっと待ったぁ!」

突然、乱入してきた三門たちによって宗一郎の手は口を付ける直前で止まった。

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