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しおりを挟む「ごめん、那月君。それ多分、イッちゃんなりの褒め言葉だと思う」
「は、褒め言葉?あれが?」
「そやけど?」
「…………」
至極当然だろとでもいうように返す砂酉に、頭が痛くなる。
「…じゃあ、何か?別に貶したとかじゃねえって事?」
「当たり前やろ。何でオレがそんなんせなあかんねん」
「…お前が俺と祭月との関係に何か言いたそうだったからだろが」
「? 別に何も文句なんかあらへんけど?言うたはずやで、虹がええんやったらオレは構わんて」
「その後、俺にこいつの事本当に好きなのか確認してきたじゃねえかよ」
「え…?」
「そら聞くやろ。身内も同然の虹に好きな奴が出来たて聞いたらその相手の事も気になるもんやろ?」
……身内?
じゃああの時砂酉が言った『大事な奴』ってのは………
「………………」
「なんか…ごめんね那月君。イッちゃんがややこしい事言ったみたいで。でもこれだけは信じて。イッちゃんが自分から俺以外に誰かと仲良くなりたいって言ったのは那月君が初めてなんだよ?」
「…………」
「やっぱり…信じられない?」
砂酉の事なのに、まるで自分が境中にいるかのように悲しげに眉を下げる。
「…分かったよ。信じるから、んな捨て犬みたいな眼で見んな」
溜め息を吐いて、見上げてくる祭月の視線を遮るようにに手の平を向ける。
その途端パッと華やいだ顔色が指の隙間から見えた。
…そもそもソイツが面倒くさい奴なのが悪いんだし。
これじゃあ祭月以外に友達がいない事も納得できるな。
「…じゃあ『何か隠してる』って言ったのも何か別の意味があったって事か?」
「まあ…そう、やな」
「あ? 何だよ」
少しだけ言い淀んだ砂酉に、まだ何かあるのかと首を捻る。
「そっちはオレの期待みたいなもんやな」
「期待?」
「オレちょっと楽器やっとってな」
「…楽器?お前が?」
あまりにもミスマッチな関係性にどうしても頭の中で点と点が繋がらなず、瞬きを繰り返す。
「うん。日本じゃあんまり知られてないんだけどね。向こうじゃイッちゃん結構有名なんだよ」
祭月の補足を聞いても今一イメージが結びつかなかったが…楽器云々の話より今は先を促す。
「それが俺とどう関係するんだよ」
これまで音楽とは一切無縁だった俺が何故期待などされたのか。
共通するものが何も思い当たらず訝しげな視線を送れば、砂酉は一瞬ちらりと祭月の方を見た。
その視線が何を意味していたのかは直ぐに分かった。
「虹と会うまで、オレの周りには胸張って仲ええって言える奴とか居らんかったし、しょうみ他人なんかどうでもええって思てた」
「―――…」
『那月ん家ってヤクザなんだってさ』
『え、怖っわ』
『あんまり関わりたくないよな』
…うわ、胸糞悪い事思い出しちまった。
「イッちゃんが他人に興味ないのは元からだけどね。すぐ名前とか顔忘れちゃうもんね」
「覚えられんもんはしゃーないやろ。まあ…ほんでオレと似たような匂いがしたからそう言うただけや。…けど、そうか…気ぃ悪うさせとったんか…」
考え込むように俯かせた目が、落ち込んだような色を滲ませていて
コイツは面倒くさいのではなく、単に少し…いやかなり不器用なだけなんじゃないかと思った。
俺とはまた違う事情の家ではあるが、他とは異なる環境を持つ、という意味では
こいつがこういう言い方しか出来ない気持ちも、俺ならその気持ちを理解してくれんじゃないかって期待した砂酉の思いも分かるような気がした。…十分、過ぎる程に。
だって、友達らしい友達など
俺も真琴ぐらいしかいなかったのだから。
丁度、砂酉にとっての祭月であるように…。
「それはマジで謝れ」
「…、」
知らず、低い声が出て
俺が本気で怒っていると思ったのか、砂酉は一瞬だけ顔を強張らせた…気がした。
「虹にもいつも言われる。オレの言い方は誤解されやすいて。けど…やから許して貰えるとは思てへん。今度からはもう何も言わんし話し掛けんし、なんやったら学校辞めてもええ。オレもう学校は通わんでええしな」
「…は?いやいや待て」
「何や?」
「色々ツッコミてぇが…学校通わなくてもいいってどういう事だ」
「どーゆうも何も、オレもう高校程度の学は有るから別にもう通う必要はないんや」
「…………さいで」
「何やねん」
「いや、いい。気にすんな。…でもお前が学校辞める必要はねぇと思うけど?」
「? でもお前怒っとるんやろ?」
「まあな。俺はそこまで出来た人間じゃねえからな」
「ほんなら…」
でもな、
「せっかくお前の思惑通りになったのに、わざわざ辞める必要はねぇんじゃねえの?」
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