拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶

文字の大きさ
10 / 34

8「チュートリアル4」

しおりを挟む
野分先輩が去ったあの後、(景品が豪華過ぎる)ビンゴゲームなどの余興が催された。ちなみに俺は高級茶葉が当たった。無論、ちみちみ味わって飲むつもりだ。

「あと一人、か…」

外の空気を吸おうと一人やって来たバルコニーから、まさにえんたけなわとなっている会場を見渡す。
チュートリアルで出会う攻略対象は残すところあと一人。確か、最後は紫髪紫眼の同級生だったはず。
だが、未だそれらしい人物にはまだ出会えていない。

…まあ、別にこのまま出会わずにパーティーもといチュートリアルを終えても良いんだが。そうなると最悪この学園にいる同じ特徴の同級生全員を警戒しなければいけなくなる。

しかし、俺は心置きなく平穏な学園生活を送りたい。なので、そんな展開は出来れば避けたいのが本音だ。

「せめてどんな風に登場したのかを思い出せたらなぁ…」

うーむと記憶を引っ張りだし、どうにか思い出そうとするが…

「…だめだ。さっぱり思い出せん」

何しろ姉ちゃんに無理矢理見させられたからな。大まかな展開は覚えているが、細かいところはあまり覚えていない。しかも、あの時はまさかそのゲームの世界に主人公として転生するなんて夢にも思っていなかったし。

「うーん…って、ん?」

何とはなしにバルコニーから広大な庭へと続く階段の先に視線を移した時だった。
丁寧に切り揃えられた庭木の影に、人の脚が見えたのだ。

え!?誰か倒れてる!?

もしそうだとしたら大変だ。先生を呼んで来ようかとも考えたが、それは止めた。この広い会場内でどこにいるか分からない先生を呼びに行くよりも、自分が行った方がきっと早いと思ったからだ。
それに俺は前世で救急処置の仕方を習った経験がある。

そうと決めれば、急がなくては!

バルコニーから庭へと続く階段を下り、急いで脚が見えている庭木の所へと走る。

「おい!大丈──」

…って、あれ?

しかし、息急いきせき切ってたどり着いた俺が見たのは

「───すー、すー」

穏やかに寝息を立て、夕風ゆうかぜに吹かれて気持ち良さそうに眠っている紫髪の生徒だった。
コサージュを付けている所を見るに同級生のようだが…

「寝、てる…?」

そっと近付き、容体ようだいを確認するも、やはりただ眠っているだけのようで。

「…良かった」

倒れてるとかじゃなくて。

ほっと胸を撫で下ろしながら、改めて芝生の上に寝転がっている男子生徒を見る。

うわ、凄い耳にピアス付いてる…痛くないのかな?

他にも、首にはいかつい意匠いしょうのネックレス、手には似たようなデザインの指輪が数個付けられていて、制服も着崩されている。
これは、もしかしなくても…

「…不良?」
「……ん」

すると、俺の呟きに反応したかのように紫髪の男子生徒が目を覚ました。
うすらと開いた紫の眼とばちりと目が合う。

「えーっと、こんばんは?」

とりあえず片手を上げて、挨拶してみる。

「……、!?」

眠そうな目でしばらくボーッと俺を見上げていたが、漸く覚醒したのか、勢い良く起き上がると男子生徒は「誰だお前!」と叫んだ。

「驚かせてごめん。俺は石留椿。バルコニーから君の脚が見えてさ、てっきり誰か倒れてるのかと思って様子を見に来たんだ」

威嚇いかくするかのようにこちらを睨み付けるその様は、まるで猫が毛を逆立てているかのようで。
無類の猫好きの血が騒ぎそうになるのをぐっと堪える。

「まあ、俺の早とちりだったみたいで良かったよ」
「…チッ、そんな理由で邪魔しやがったのかよ」
「わ、悪い」

本日二度目の舌打ちにショックを受けないでもなかったが、気持ち良く眠っていた所を邪魔してしまったのは本当だしな。

そう思って謝ると、何故か紫の眼がじっと俺を見る。それは何かを見定めようとしているようで、少したじろいでしまう。

「ど、どうかしたのか?」
「…何でもねぇよ」

そう言うと、男子生徒は立ち上がってパーティー会場の方へと歩き始めた。どうやら戻るようだ。
ならば俺もと腰を上げかけた時、先程まで男子生徒が寝ていた芝生の所に何か落ちているのに気が付いた。

「あ、おい。何か落としてるぞ」
「あ?」

拾い上げるとそれは黒猫の刺繍ししゅうが施されたハンカチだった。
そして、そのすみには名前が書いてあった。

紫麻しま秋臣あきおみ

読み方が合っているか分からないが、書いてある名前を目にしたと同時に、俺の手からハンカチが勢い良く奪い取られる。

見れば、さっきまでパーティー会場に戻ろうとしていたはずの彼が黒猫のハンカチを慌ただしくポケットに仕舞っているところだった。

「…えっと、紫麻しまくん、で良いのかな?」

問いかけると、それがどうしたとでも言いたげな紫眼がギロリと向けられる。
とりあえず、読み方は合っていたらしい。

「そのハンカチ──」

可愛いね、と言いかけたその時、

「そこの二人、早く会場に戻りなさい!」

バルコニーからこちらへと呼び掛ける先生の声がして、俺は「すぐ戻ります!」と返事をした。

「紫麻くんはどうす──」
「っ、覚えてろよ!」

俺が尋ね終えるよりも早く、何故か突然不良らしいと言えば不良らしい捨て台詞を吐いて、男子生徒──紫麻くんは脱兎の如く走って会場内へと戻っていった。

「………行っちゃった」

後に残された俺の髪を夕風が揺らしていく。

「俺も戻るか…」

多分、そろそろパーティーもお開きになる頃合いだろうし。

それにしても…最近の不良はちゃんと名前入りでハンカチ持ってるんだなぁ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。(完結)

薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。 アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。 そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!! え? 僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!? ※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。  色んな国の言葉をMIXさせています。 本作は皆様の暖かな支援のおかげで第13回BL大賞にて学園BL賞を受賞いたしました! 心よりお礼申し上げます。 ただ今、感謝の番外編を少しずつ更新中です。 よければお時間のある時にお楽しみくださいませ

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

ヴァレンツィア家だけ、形勢が逆転している

狼蝶
BL
美醜逆転世界で”悪食伯爵”と呼ばれる男の話。

処理中です...