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黎明編(~8歳)

雪の日の邂逅③ 出発

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 早朝6時半──。
 ジェラルド・テラ・バンフィールドを総大将に、レオルボ隊の大半二千五百騎と歩兵五千が領城アル・アイ・ラソンを出発した。なお、城には五百の騎士とそれ以上の馬、歩兵五千と予備隊が同じく五千以上残っており、城塞都市でもあるので防衛面の問題はない。ジェラルドの弟であり、双子の父シリル・ミナ・バンフィールドが護っている。

 朝七時には補給部隊、救護部隊に続いて各々騎乗したパトリシアとチャド総団長、騎士十名がゆったりと進軍した。
 最後に歩兵隊がぞろぞろと徒歩でついてくるが、騎馬隊には置いていかれている。騎馬が先行し、騎士たちが設営、初期展開を済ませてやっと着く──そのくらいにはゆったりと進軍している。

 パトリシアの護衛役のチャドを除く騎士は全員、負傷からの復帰戦──のための最終リハビリである。
 普段と違い、見知らぬ人員なのは、手練れは全員大掃討最前線に配置されているからだ。
 リハビリ騎士とはいえ、問題なしと太鼓判が押されているし、チャド総団長がついているのでパトリシアは安全にまわれる。

 そもそも、アルバーン領の大食いグルトン大掃討はやはり魔獣の取りこぼしが出る。そのための遊撃小隊のみならず、森周辺、森に近い村々に護衛任務の冒険者らが巡回や各所待機をしている。パトリシアは単独行動でもしなければ危険はないと説明をされた。
 広範囲の作戦とはいえ、毎年の行事なので手慣れたものだ。

 しばらくは進軍の後を続いていたが、やがてそれて森を見下ろす小高い丘にたどり着いた。
 息を吐いて広がる景色を見渡すパトリシア。その横にチャドが馬を寄せた。

「トリシア様、ご覧になれますか? こちらは五芒星の頂点側になります」
 そう言いながらチャドは厚手の巻紙を広げるとパトリシアに渡した。


 
 さっと広げる。使い込まれて変色した地図だ。
 パトリシアは北を基準に地図と目の前の景色を揃える。
 森は大きく、多少いびつではあるが☆星型であるとわかった。五カ所の窪みに砦があり、頂点と頂点の間辺りに四つの村があるらしい。

「これが大食いグルトンの森全体図になります。森の中は距離感や方向感覚を失いやすいので、初級予知魔術精霊の導きスピリットテルズで位置を把握しながら進みます。ですから、トリシア様の場合、魔力晶石を必ず持ち込んで頂くか、誰かとはぐれないことが重要です」
「…………私も森に入っていいの?」
「いえ! 今日は森の外からの見学に留めて頂きます。せっかくですのでこの森近辺で暮らすこの四つの村のいくつかを巡れたらとは思いますが」
「……そうよね」
「二日目、両側に距離はありますが、森に接するこの砦まではご案内できます」

 一日目二日目は星☆の五つの三角形△の討伐だとチャドは教えてくれる。この三角形は日頃から冒険者らが入っており、雑魚は狩られていることが多く、騎士団は難敵を落としてまわる。
 三角形の討伐完了時点から各砦と周辺を拠点にして、三日目以降に備えた夜営が始まる。騎士や馬は砦に入るが歩兵は周辺でテントをはる。

「……ノエルやクリフも最初はこうしたの?」
「え? ああ、はい。そうですよ。二年前から村、森の周囲の散策、周辺での小動物狩りを経て、あちこちの狩りやすい魔獣で経験を積みつつ、最近は難敵単体とやりあってきました。三角森にも来るようになってきてからの、今回の大掃討です」
「わかったわ。あの二人でもこの大食いグルトンの森のために頑張ってきたのね」

 三日目から中の五角形に入り、中心に空いた大穴──すり鉢にくだり、ド真ん中に底の見えない縦穴が空いている──まで接近する。
 この縦穴までを年に一度、狩りきってしまうのだ。それでも森は一年もすると魔獣であふれてしまうので、その縦穴に魔術的な仕組みがあるのではないかと言われている。

 ふっと顔をあげると三人で見に行った神の落涙アリオシスの滝が遠く、細い線のように見えた。
「ここから見えたんだ……」
「ああ、アリオシスの滝ですね。魔力が枯れ、晶石も尽きた時は木を登り、太陽の位置やあの滝で方角を知るのです。本来、大食いグルトンの森は侵入した人間を食らって離さない、恐ろしい森なのです」



 一通り地理的説明を受けると平原に馬を走らせ、一番近い村に入る。村に近付いた段階で収穫後休ませているらしい畑の間を駆け抜けた。
 今まで訪れてきた村と違い、村周囲を高い壁がグルッと覆っている。壁だけではない、深いお堀まで巡らせてある。壁はレンガを分厚く塗り固めているようだ。
 これが大食いグルトンの森もともに生きる村の暮らし方になるのだ。

 領内では有名人のチャド団長は顔パスならぬ声パスで跳ね橋を開けさせ、パトリシアを含む全員で村に入った。
 当然ながら、8歳の令嬢でしかないパトリシアは広場までにまばらに散らばる冒険者らの注目を一身に集めることになった。

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