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第一章 封印の書
【1.7】いざ冒険へ出発
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春風に桜の花びらが舞い散る、旅立ちの季節が来た。
オレたちが目指したのは、オリオン王国の古都ベテルギウスだ。エルフの都シリウス、獣族が権勢をふるうプロキオンと並び、南の三大都市の呼び声が高い。
白装束の連中の手が及んでいない都市の中では最大規模で、今現在最も安全な場所と言える。
能力が未熟なオレのトレーニングには、うってつけだ。
このまま奴らとぶつかり合うのは、やばいというのがパセリたちの判断だ。
ベテルギウスはミルキー川の豊富な水産資源でも知られ、北方にある農業国シグナスのデネブ市とは古い交易で栄えている。
一言でいえば、食事(メシ)が旨い。そして王国最大の冒険者組合があることでも有名だ。
ポプラ並木の小石が多い道を、馬車に揺られて移動する。
小高い丘を幾度も通過しながら、雲がゆっくりと泳ぐ緑の野原を視界におさめる。
二人乗り馬車には、バジルとパセリが並んで腰かけている。黒猫はバジルの膝の上で、丸くなって眠っていた。
ひげを寝かせて、目を気持ちよさそうに閉じて、お腹を上下させながら寝息を立てている。
いつの間に、打ち解けたのだろう。獣同士感じるところがあるのかもしれない。
身長百十センチに満たないオレは、仕方なくパセリの膝に座らされている。
前世、いい大人だった自分は、なおさら小さいのは不便だと思う。
前世の記憶もあるので、「さすがに女の子の膝の上に座るのは恥ずかしい」と抗議しても、「お姉さんの言うことを聞きなさい」と押し切られてしまった。
魂の年齢でいけばオレの方が年上のはずなのに、子供の容姿のせいかどうも立場が弱い。精神年齢は三千歳のはずなので、超老人の幼児返りなのかもしれない。お金を払ったのがパセリだったこともあるだろうが。
小さな体に引きずられて感性も幼くなっているのだろうか、延々と続く田園風景を眺めていると、ワクワクした気持ちを抑えきれなくなる。芽吹いたばかりの小麦畑はなだらかな丘を超えて地平線まで広がり、畑の中を人間や亜人間の子供たちがキャッキャと駆け回っていた。
――これがオレの守りたかった世界。
そんな言葉が自然と湧いてくる。きっとこの気持ちは、サイデル時代の残滓なのだろう。
三千年前、世界を滅ぼすほどの大戦が起こったとは思えないほど、のどかな風景だ。
春風に導かれて、馬車から顔を出そうとすると「危ないよ」とパセリに注意された。すっかりオレの保護者になったつもりらしい。
「ところでレイモンド君は、好きな子いるの?」
パセリは両手でオレをギュッと抱き締めながら聞いてくる。無意識なのかもしれないが、この体で女性への免疫が薄まってしまったオレには刺激が強すぎる。
柔らかな膝と大きな胸が、馬車の揺れで繰り返し押し付けられて、さらに顔が熱くなる。
「えーっと、そのー、い、いないよ」っと、しどろもどろに子供っぽい口調で答えてしまう。
「ふふっ。やっぱりいるんだ。今度お姉さんに教えてね」と早合点するパセリと、ウインクしてくるバジル。
「バジル、お前だけは絶対にないから」と言いたくなるが、その言動さえ除けば、美人に見えるから質(タチ)が悪い。
古都ベテルギウスには三日で到着した。赤で統一された屋根瓦の向こうには、バロック調の真っ白なお城がそびえ立っている。
都を取り囲む城壁は十メートルを超す高さで、街道に繋がる城門の両側には、全身鎧(フルプレート)の衛兵が一列に並んでいた。
精巧なワシの絵が描かれたミスリルプレートは、それだけでオリオン王国の財力を示していると言えるだろう。
「ようこそお戻りになられました、パセリ様」
衛兵は声を揃えて挨拶する。どうやらここでもパセリは有名人のようだ。
「失礼ですが、お連れのお二方は?」
「あたしの従兄弟のレイモンド君と、バジルよ」
バジルは小声で「レイモンド様、こいつら美味しそうですよ。食べちゃっていいですか」と聞いてくる。
黒髪少女の姿で言われると別の意味に聞こえてくるが、仮にそうだったとしてもアウトだ。
「なるほど。規則では身分証提示が必要ですが、パセリ様のご親戚であれば問題ありません」
衛兵はまた深々と頭を下げる。関係者までほぼ顔パスで通れるということは、知名度だけでなくそれなりの権力も持っているのだろう。
オレたちが通り過ぎた後、後ろからガヤガヤと話し声が聞こえてくる。
「パセリ様、今日も最高だったぜ。あの可憐なお姿を見られるだけでも衛兵になったかいがあるってもんよ」
「連れの黒髪の美少女もなかなかだぜ」
「いや、オレはずっとパセリ様一筋だ」
「オレは黒髪に鞍替えするよ」
「チビ、ハゲ、デブのお前じゃ釣り合わねぇよ」
「なんだとこのー」
悪いことは言わん、バジルだけはやめとけ。そう思いながら、その場を後にした。
ーーーー
あとがき:コメント等お気軽に頂けると嬉しいです。よろしくお願いいたします。
レベル表示が欲しい等、バトルをもっと深く、逆にあっさりに等、リクエストがあればできるだけ反映いたします。
オレたちが目指したのは、オリオン王国の古都ベテルギウスだ。エルフの都シリウス、獣族が権勢をふるうプロキオンと並び、南の三大都市の呼び声が高い。
白装束の連中の手が及んでいない都市の中では最大規模で、今現在最も安全な場所と言える。
能力が未熟なオレのトレーニングには、うってつけだ。
このまま奴らとぶつかり合うのは、やばいというのがパセリたちの判断だ。
ベテルギウスはミルキー川の豊富な水産資源でも知られ、北方にある農業国シグナスのデネブ市とは古い交易で栄えている。
一言でいえば、食事(メシ)が旨い。そして王国最大の冒険者組合があることでも有名だ。
ポプラ並木の小石が多い道を、馬車に揺られて移動する。
小高い丘を幾度も通過しながら、雲がゆっくりと泳ぐ緑の野原を視界におさめる。
二人乗り馬車には、バジルとパセリが並んで腰かけている。黒猫はバジルの膝の上で、丸くなって眠っていた。
ひげを寝かせて、目を気持ちよさそうに閉じて、お腹を上下させながら寝息を立てている。
いつの間に、打ち解けたのだろう。獣同士感じるところがあるのかもしれない。
身長百十センチに満たないオレは、仕方なくパセリの膝に座らされている。
前世、いい大人だった自分は、なおさら小さいのは不便だと思う。
前世の記憶もあるので、「さすがに女の子の膝の上に座るのは恥ずかしい」と抗議しても、「お姉さんの言うことを聞きなさい」と押し切られてしまった。
魂の年齢でいけばオレの方が年上のはずなのに、子供の容姿のせいかどうも立場が弱い。精神年齢は三千歳のはずなので、超老人の幼児返りなのかもしれない。お金を払ったのがパセリだったこともあるだろうが。
小さな体に引きずられて感性も幼くなっているのだろうか、延々と続く田園風景を眺めていると、ワクワクした気持ちを抑えきれなくなる。芽吹いたばかりの小麦畑はなだらかな丘を超えて地平線まで広がり、畑の中を人間や亜人間の子供たちがキャッキャと駆け回っていた。
――これがオレの守りたかった世界。
そんな言葉が自然と湧いてくる。きっとこの気持ちは、サイデル時代の残滓なのだろう。
三千年前、世界を滅ぼすほどの大戦が起こったとは思えないほど、のどかな風景だ。
春風に導かれて、馬車から顔を出そうとすると「危ないよ」とパセリに注意された。すっかりオレの保護者になったつもりらしい。
「ところでレイモンド君は、好きな子いるの?」
パセリは両手でオレをギュッと抱き締めながら聞いてくる。無意識なのかもしれないが、この体で女性への免疫が薄まってしまったオレには刺激が強すぎる。
柔らかな膝と大きな胸が、馬車の揺れで繰り返し押し付けられて、さらに顔が熱くなる。
「えーっと、そのー、い、いないよ」っと、しどろもどろに子供っぽい口調で答えてしまう。
「ふふっ。やっぱりいるんだ。今度お姉さんに教えてね」と早合点するパセリと、ウインクしてくるバジル。
「バジル、お前だけは絶対にないから」と言いたくなるが、その言動さえ除けば、美人に見えるから質(タチ)が悪い。
古都ベテルギウスには三日で到着した。赤で統一された屋根瓦の向こうには、バロック調の真っ白なお城がそびえ立っている。
都を取り囲む城壁は十メートルを超す高さで、街道に繋がる城門の両側には、全身鎧(フルプレート)の衛兵が一列に並んでいた。
精巧なワシの絵が描かれたミスリルプレートは、それだけでオリオン王国の財力を示していると言えるだろう。
「ようこそお戻りになられました、パセリ様」
衛兵は声を揃えて挨拶する。どうやらここでもパセリは有名人のようだ。
「失礼ですが、お連れのお二方は?」
「あたしの従兄弟のレイモンド君と、バジルよ」
バジルは小声で「レイモンド様、こいつら美味しそうですよ。食べちゃっていいですか」と聞いてくる。
黒髪少女の姿で言われると別の意味に聞こえてくるが、仮にそうだったとしてもアウトだ。
「なるほど。規則では身分証提示が必要ですが、パセリ様のご親戚であれば問題ありません」
衛兵はまた深々と頭を下げる。関係者までほぼ顔パスで通れるということは、知名度だけでなくそれなりの権力も持っているのだろう。
オレたちが通り過ぎた後、後ろからガヤガヤと話し声が聞こえてくる。
「パセリ様、今日も最高だったぜ。あの可憐なお姿を見られるだけでも衛兵になったかいがあるってもんよ」
「連れの黒髪の美少女もなかなかだぜ」
「いや、オレはずっとパセリ様一筋だ」
「オレは黒髪に鞍替えするよ」
「チビ、ハゲ、デブのお前じゃ釣り合わねぇよ」
「なんだとこのー」
悪いことは言わん、バジルだけはやめとけ。そう思いながら、その場を後にした。
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あとがき:コメント等お気軽に頂けると嬉しいです。よろしくお願いいたします。
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