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第一章 封印の書
【1.14】冒険者クラス
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古都ベテルギウスの広場の一等地に、赤茶けた門がある。
オリオン王国最古の冒険者組合の入口だ。
ここの冒険者組合で認定を受けることは名誉であり、俗に「赤門をくぐる」と呼ばれている。冒険者カードの後ろに刻印された赤い龍のマークは、冒険者志望者の垂涎の的だ。
オレたちは朝の散歩をしながら、赤門に向かっていた。
軒ならぶ建物の赤い屋根と、背景にある紅葉した丘、そして燃えるような朝焼けが調和して輝いて見える。
早起きは三文の徳とパセリに説得されて、頑張って起きた甲斐があったと思った。
「それで、冒険者はどんな仕事をしているの?」
今日もしっかりと魔女服に身を包んだパセリに質問する。
「最初はゴブリン退治と薬草採取ってところかしら」
「意外と地味だね」
「千里の道も一歩からよ」
「級が上がると、依頼内容は難しくなるの?」
「そうね。A級になると、人里を襲うバジリスク退治って依頼もあるわ」
パセリはバジルを見てニヤリと笑う。
それを聞いたバジルの眉がピクンと動いた。
「レイモンド様、今のは聞き捨てなりません。やっちゃっていいですか?」
正体がバジリスクのバジルにとってみれば、喧嘩を売られたように思えたのだろう。
この二人、最近はだいぶ打ち解けてきているが、もともとは敵同士なのだ。考えてみると、誇り高き古龍が人間と同じ目線で会話をしていること自体奇跡に近い。
「よせよせ。今の町での好待遇はパセリのおかげなんだから」
食って掛かりそうなバジルを慌てて宥(なだ)めた。こいつらが本気で喧嘩をしてしまったら、町が壊れるくらいでは済まないだろうし。
「レイモンド様は、パセリにばっかり優しいです。僕だって、僕だって……」
バジルはしょげて、涙目になっている。
こいつは一旦泣き出すと大変なことになる。この前だって、多量の涙で、畑が水田になってしまったほどだ。
それに、中身はともあれ見た目は美少女なのだ。このままだと、オレが泣かしているように見えてしまう。早く何とかしないと。
「分かった、分かった。後で好きなこと一つだけ聞いてやるから、機嫌なおせよ」
オレのその場しのぎの説得を聞いて、バジルの表情はコロリと変わり、笑顔になった。
「ほ、本当ですか、レイモンド様」
「ああ、男に二言はない」
「ふふっ、約束ですよ、約束」
言質を取ったとばかりに、バジルは黒い笑みを浮かべている。
あっ、これは良からぬことを考えている顔だ。ひょっとして失敗をしたのかな。
何はともあれ、冒険者については大体掴めた。
まず冒険者の等級(クラス)についてだが、先ほどの話通りAからEの五段階からなる。下のE級は千人以上いるが、A級となると三人しかいない。典型的なピラミッド構造だ。
どんな優秀な新人も、最初はEクラスから始まる。高度な実力を持つものが、長年の実績を重ねてようやくたどり着くのがB級だ。さらに国難を救った者のみがA級に認定される。
実はA級の上にS級があるらしいのだが、永らく空席となっている。
三千年前にある冒険者が、偉大なる功績によりS級認定されたという伝説は残っているが、噂の域を出ない。
三千年前と言えば、たしかオレが殺された年だったはずだが。偶然だよな。
「そういえば、パセリはA級でオリオン王国のトップスリーなのか。さすがだね」
オレが褒めると、パセリはくすぐったそうな笑みを浮かべた。
「パーティーが強かったおかげよ。転生者のアドバンテージもあったし」
パセリと黒猫は、魔王を倒して英雄になった集団の生き残りだ。
転生者で組んだパセリたちのパーティーは、相当強かっただろう。
「パセリはパーティーでどんな役割だったの?」
パセリの戦闘スタイルは、今後共闘していくのなら知っておきたいところだ。
「あたしは後衛ね。攻撃魔術も使えるけど、基本は回復魔法よ。全回復、毒などのバッドステータス解除とかもできるわ。パパがサポートしてくれると魔術の威力はさらに高まるしね」
「なるほど。パパは補助魔術が得意なのか」
パパという言葉を聞いた黒猫が、なぜかむっとした表情になった。
「パパじゃと? わしはまだお主に娘をやると決めておらぬ!」
「えっ、二人は本当に親子だったの? パパってニックネームじゃないのか」
黒猫はうんうんと頷き、パセリは苦笑いを浮かべていた。
どうやら複雑な事情があるようだ。オレはそれ以上突っ込むのをやめた。
オリオン王国最古の冒険者組合の入口だ。
ここの冒険者組合で認定を受けることは名誉であり、俗に「赤門をくぐる」と呼ばれている。冒険者カードの後ろに刻印された赤い龍のマークは、冒険者志望者の垂涎の的だ。
オレたちは朝の散歩をしながら、赤門に向かっていた。
軒ならぶ建物の赤い屋根と、背景にある紅葉した丘、そして燃えるような朝焼けが調和して輝いて見える。
早起きは三文の徳とパセリに説得されて、頑張って起きた甲斐があったと思った。
「それで、冒険者はどんな仕事をしているの?」
今日もしっかりと魔女服に身を包んだパセリに質問する。
「最初はゴブリン退治と薬草採取ってところかしら」
「意外と地味だね」
「千里の道も一歩からよ」
「級が上がると、依頼内容は難しくなるの?」
「そうね。A級になると、人里を襲うバジリスク退治って依頼もあるわ」
パセリはバジルを見てニヤリと笑う。
それを聞いたバジルの眉がピクンと動いた。
「レイモンド様、今のは聞き捨てなりません。やっちゃっていいですか?」
正体がバジリスクのバジルにとってみれば、喧嘩を売られたように思えたのだろう。
この二人、最近はだいぶ打ち解けてきているが、もともとは敵同士なのだ。考えてみると、誇り高き古龍が人間と同じ目線で会話をしていること自体奇跡に近い。
「よせよせ。今の町での好待遇はパセリのおかげなんだから」
食って掛かりそうなバジルを慌てて宥(なだ)めた。こいつらが本気で喧嘩をしてしまったら、町が壊れるくらいでは済まないだろうし。
「レイモンド様は、パセリにばっかり優しいです。僕だって、僕だって……」
バジルはしょげて、涙目になっている。
こいつは一旦泣き出すと大変なことになる。この前だって、多量の涙で、畑が水田になってしまったほどだ。
それに、中身はともあれ見た目は美少女なのだ。このままだと、オレが泣かしているように見えてしまう。早く何とかしないと。
「分かった、分かった。後で好きなこと一つだけ聞いてやるから、機嫌なおせよ」
オレのその場しのぎの説得を聞いて、バジルの表情はコロリと変わり、笑顔になった。
「ほ、本当ですか、レイモンド様」
「ああ、男に二言はない」
「ふふっ、約束ですよ、約束」
言質を取ったとばかりに、バジルは黒い笑みを浮かべている。
あっ、これは良からぬことを考えている顔だ。ひょっとして失敗をしたのかな。
何はともあれ、冒険者については大体掴めた。
まず冒険者の等級(クラス)についてだが、先ほどの話通りAからEの五段階からなる。下のE級は千人以上いるが、A級となると三人しかいない。典型的なピラミッド構造だ。
どんな優秀な新人も、最初はEクラスから始まる。高度な実力を持つものが、長年の実績を重ねてようやくたどり着くのがB級だ。さらに国難を救った者のみがA級に認定される。
実はA級の上にS級があるらしいのだが、永らく空席となっている。
三千年前にある冒険者が、偉大なる功績によりS級認定されたという伝説は残っているが、噂の域を出ない。
三千年前と言えば、たしかオレが殺された年だったはずだが。偶然だよな。
「そういえば、パセリはA級でオリオン王国のトップスリーなのか。さすがだね」
オレが褒めると、パセリはくすぐったそうな笑みを浮かべた。
「パーティーが強かったおかげよ。転生者のアドバンテージもあったし」
パセリと黒猫は、魔王を倒して英雄になった集団の生き残りだ。
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「パセリはパーティーでどんな役割だったの?」
パセリの戦闘スタイルは、今後共闘していくのなら知っておきたいところだ。
「あたしは後衛ね。攻撃魔術も使えるけど、基本は回復魔法よ。全回復、毒などのバッドステータス解除とかもできるわ。パパがサポートしてくれると魔術の威力はさらに高まるしね」
「なるほど。パパは補助魔術が得意なのか」
パパという言葉を聞いた黒猫が、なぜかむっとした表情になった。
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